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フューチャーイノベーションフォーラムが主催

「MUJI流システム」は7割主義、良品計画・小森氏講演

2014年10月2日 (木)

イベントフューチャーアーキテクトは2日、同社が幹事会社を務める、次世代リーダーの育成などを行う団体「フューチャーイノベーションフォーラム」が9月16日に、グローバル競争を勝ち抜く企業経営をテーマに「イノベーションワークショップ2014」を開催したと発表した。

良品計画の小森孝常務(情報システム担当部長)が、「業務改革を支える”MUJI流”システムの取り組み」と題した講演を行った。

小森氏は、良品計画が「マーチャンダイジング(MD)プロセスを機敏に進化させ、競争力を高める」という経営課題を解決するため、2006年に従来システムの全面刷新を実施し、自社開発の導入やスピード重視の「7割主義」を方針に掲げ、利用部門と一体となって業務改革をスピーディーに推進してきたと紹介。

近年はグローバル展開に伴い、日本のシステムをベースに各国とのシステム最適解を模索しながらグローバル・サプライチェーン・マネジメント(GSCM)の構築に注力していることを説明した。

■小森氏の講演要旨
「システム部門の役割と改革への取り組み」
良品計画で商品企画・開発力、「無印良品」のコンセプト、MDプロセスは事業の要であり、創業以来、商品情報から開発、生産、販売の管理ノウハウが蓄積されているMDシステムを迅速に進化させていくことがシステム部門の重要な役割だ。

2005年2月、それまでずっと物流部門の担当をしていたが情報システム部門の担当部長に任命され、部門の改革とシステム再構築をスタートさせた。改革前は開発・運用を業務部門ごとに委託するという縦割り構造だったため、柔軟なシステム対応ができず、また委託範囲が広いことからシステム会社への依存度も高く、品質やコストの適正化が図られていなかった。

処理能力も限界にきており、増え続けるコストは年間20億円にも及んでいた。さらに部門内には過度な完璧主義や経営改革との意識のズレがあり、マインドセットも必要だった。そこで「スピード重視」「7割主義」「リスクテイク」という3つの基本方針を掲げて自社開発の導入に踏み切った。

製造小売業にとってスピードは命であり、独自性の高いシステムは委託先とのコミュニケーションロスが起きやすく、ウォーターフォール型の開発では根本的な対応ができないと判断したからだ。

日々変化する業務に合わせて即時に対応できるよう、最初から100%を求めず70%で動かし、使いながら完成度を高めていく手法をとった。また自社とシステム会社との役割分担と責任も明確にし、独自性が強いコアな業務、要件が変化するようなものは自社で開発し、正確さや専門性を要するものはシステム会社に任せた。こうして「売上集計」と「勤怠管理」のシステムの自社開発を足掛かりに翌06年4月に自社開発を本格化し、同年12月にシステムを全面刷新した。

「トップダウンとボトムアップによる業務改革」
業務改革を持続させるために、良品計画ではトップダウンとボトムアップの仕組みを確立し、業務を可視化することで徹底して実行する風土を根付かせている。

トップダウンの場としては半期ごとに全役員、部門長がタスクのベクトルを合わせ、進捗を報告しながら軌道修正を行う「部門政策検討会」があるほか、月に2回、全役員、該当部門長が経営主導の改革テーマやボトムアップで出てきた改善提案から全社横断の課題を検討する「業務標準化委員会」を開催している。もちろんシステム化の意思決定もこの場で行われている。

一方、ボトムアップによる「改善提案制度」には毎週300件の改善提案があり、該当する部門長は1週間以内に提案に回答しなければならないルールがある。採用率は1割だが、半期ごとに優秀な提案を表彰し、これまでに「賞味期限システム」や「用度品自動発注」など新しい仕組みも生まれた。

またトップダウンによる決定事項や業務連絡などは、システムで全社員が共有している。未閲覧者は名前まで開示されるため「聞いていない、知らない」は許されず、結果として決定事項や課題に対する全社員の実行力が上がり、改革が持続する”実行する風土”が作られている。

「グローバル化への対応」
良品計画のグローバル化の基本方針は「ローカライズ」「当事者意識」「タスクフォース型人事交流」だ。グローバル化にあたっては、現地と日本の間で最適解のすれ違いが多々あるが、日本側は保守的になりがち。そのため社員に当事者意識をもってもらおうと、人事交流を活発に行っている。

海外法人のトップには日本の優秀な30代の部課長を中心に据え、90人いる課長クラスには全員海外経験をさせている。毎年20人ずつが3か月間、現地の協力者として一緒に課題解決や業務改善を行っており、現在2巡目を迎えた。業務をつうじて日本で当たり前のことが海外では通用しないことを実体験することは、意識変革への良い起爆剤となっている。

グローバルシステムでは、2014年7月に現行システムとも連携できる標準システムを導入し、日本をはじめ世界各国400社以上の工場が一元管理できるGSCMの本格的な運用が始まった。開発段階では日本の凝ったシステムは持ち込まず、現地での使いやすさを重視した。現地での決済や業務ルールにもとづき、「誰が何のために」をはっきりさせることでシステムの目的や運用を明確にしている。

今後も各国の自主性を尊重し、経営形態に柔軟に対応しつつ商品供給と在庫共有をグローバルに統一するコアプロセスの共通化を目指していく。

■コーディネーター(大石芳裕・明治大学経営学部教授)による総評
原材料供給業者から流通業者までのチャネルメンバーを一気通貫で管理し、全体適性を達成するSCMは、国境を越えることでさらに難しくなる。企業によってさまざまなGSCMの仕組みがあるが、基本的にはリードタイムを短縮し、市場の変化に迅速かつ柔軟に対応していくことが重要だ。

そのためには「延期論理」にもとづく消費者に近いところでの意思決定が必要だが、「投機理論」にもとづく「規模の経済性」を無視してよいわけではない。「延期」の傾向を強めながら両方のバランスを取ることが必要である。さらに制約理論(TOC)の通り、改善はある工程が遅い、速いといった部分最適で行うのではなく、全体最適で行う必要がある。問題を見つけたら次々に最適化を図り、継続していかなければならない。

SCMの効果は単に在庫が減るだけではなく、新商品とデッドストックの割合など在庫の質も変わっていくことにある。またSCMにはある程度のコストがかかるため、利益率やキャッシュフローで成果を測るのではなく、納期の順守率やリードタイムなど何を評価指標にするのかが重要であり、トップマネージメントのサポートがあってこそ実現できる。

良品計画はSCMをはじめ業務のさまざまなことをしっかりと「仕組み化」している。それは人材育成にも反映されており、各企業が自分たちに合った仕組みを作るための非常に良いお手本になると思う。