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物流連、国に大規模建築の物流整流化を提言

2015年9月15日 (火)

ロジスティクス日本物流団体連合会(物流連)は14日、国土交通省の羽尾一郎物流審議官へ「大規模建築物の荷さばき施設の計画設計方法」と題した提言書を提出した。

物流連、国に大規模建築の物流整流化を提言

▲羽尾物流審議官(左) に提言を提出する与田物流連理事長(右)(出所:日本物流団体連合会)

物流連では、昨年11月に設置した「オリンピック・パラリンピックに伴う大規模施設対策等小委員会」で、五輪大会の開催を契機に想定される大規模建築物の建造に際し、物流面からどのような対策を取るべきかを検討してきた。

今回の提言は、3月に提出された提言を引き継ぐ形で大規模建築物を設計する際、荷さばき施設の整備を行うことの重要性を検討項目ごとに記載しており、5回にわたる小委員会活動の成果として取りまとめた。

提言では、原則として4トン車が建築物に出入りできるような「車両出入り口の必要な高さの確保」、貨物車1台当たりの最小駐車スペースなどを提示した「駐車・荷さばき用スペースの確保」、効率的な運用に配慮した「貨物用エレベータの設置」、建物内の搬送通路での作業効率を上げるための「館内動線の確保」――といった4つの課題について、具体的な数値を挙げつつ、設計段階からの物流への配慮を提案した内容となっている。

提言を作成するために活用したデータ、事例を記載した詳細資料も併せて提出した。

物流連では「引き続き、幅広い関係者の理解を求めつつ、大規模建築物に関する物流の問題点解決に向けた検討を継続していく方針」としている。

提言「大規模建築物の荷さばき施設の計画設計方法」(全文)

1.荷さばき施設の整備の目的と効果

1)荷さばき施設整備の目的
従来の大規模建築物(ここでは床面積1万平方メートル以上とする)では、多くの商品や物資が搬入されるにもかかわらず、荷さばき施設が適切に整備されなかったために、貨物車の路上駐車による景観の悪化や、交通渋滞が起きることもあった。たとえば、大都市の都心の高層ビルでは、一日1000台程度の自動車が集中し、そのうちの5-7割が貨物車である。そこで景観の向上や交通渋滞の解消とともに、安全安心の確保、建築物・地区の価値向上、物流効率化による物流事業者の負担軽減などを目的に、荷さばき施設を整備することが重要となっている。

2)荷さばき施設整備の効果
荷さばき施設の整備効果は、主に4点ある。
[1]施主にとっての、建物と地区の価値向上による資産や賃貸価格の上昇の効果。

[2]物流事業者やテナントにとっての、物流効率化によるコスト削減と付加価値増加の効果。

[3]地域住民にとっての、良好な生活環境の確保の効果。

[4]自治体や警察にとっての、荷さばき対策にかかる行政コストの削減の効果。

2.荷さばき施設の整備の協議によるメリットと段階ごとの進め方
1)荷さばき施設整備の協議によるメリット
一般に建築物の計画から運用までは、4段階(計画、設計、施工、運用)ある。このとき計画・設計段階から、荷さばき施設整備や竣工後の荷さばきルールに関して、関係者(施主・設計者・物流事業者・地域住民・自治体警察など)により協議することが望まれる。

関係者全員が無理なときは、少なくとも施主・設計者・物流事業者で協議する。なお協議を行うことで、以下の5つのメリットが得られる。
1. 施主にとって、テナント誘致にあたり建築物のメリット・デメリットの情報獲得可能。
2. 設計者にとって、荷さばきに配慮した設計で、設計変更や事後的な建替を回避可能。
3. テナントや物流事業者にとって、駐車場利用などのルール化による円滑な活動が可能。4. 地域住民にとって、荷さばきに関連した路上駐車・渋滞などの地域問題を未然に回避可能。
5. 自治体や警察にとって、荷さばきによる紛争を未然に回避や早期対策が可能。

2)荷さばき施設整備の段階別の進め方
[1]計画段階:協議会の設立と、関係者(施主・設計者・物流事業者・地域住民・自治体警察など)による説明会の開催。

[2]設計段階:荷さばきに配慮した建築物の設計に関する協議。
[3]施工段階:工事用資材、開業準備資材の搬入車両の把握・管理。工事用資材搬出入と荷さばき施設の利用方法に関する協議。
[4]運用段階:搬出入と荷さばき施設の利用方法に関する協議と、館内配送のルール化。

3.大規模建築物の荷さばきに関する課題と設計基準案
3.1車両出入口の必要な高さの確保
課題:車両出入口の高さ制限により貨物車両が入構できない。効果:円滑な作業が実現し、業務の効率化が図れる。

設計案(具体的な数値):
1)「出入口の高さ」は、原則として4トン車が建築物に出入りできる高さを確保する。このとき、劇場や美術館など大道具などが運び込まれる場合には、10トン車(長さ12m×幅2.5m×高さ3.4-3.8m)の利用も想定する。また、海上コンテナや鉄道コンテナの利用が想定されるときは、コンテナ搬送車両の大きさをもとにスペースを確保する。

一般的に、貨物車の車高は、ほぼ2トン車3.1m、4トン車3.2-3.5m、10トン車3.4-3.8m、鉄道コンテナ・海上コンテナ4.1mである。

2)3.1m以上の車高の貨物車の利用が少ないと想定される場合には、2トン車が出入りできる高さ3.2mを基準とする。

3)車路の勾配・回転半径は、上記で想定した貨物車が円滑に走行できるように確保する。

4)車路の高さ・勾配の設計にあたって、案内表示板やスプリンクラーの設置に配慮した有効高さとする。

3.2駐車・荷さばき用のスペースの確保
課題:荷さばき場の不足で、路上駐車に伴う事故と渋滞の発生や環境悪化、二人業務が起きる。

効果:貨物の滞留や渋滞が解消し、建物の利便性が向上する。
設計案(具体的な数値):

1)駐車スペースの「必要数量」は、1算出式(原単位、床面積、ピーク率、駐車回転数を用いる算出式)、2具体的な配送計画にもとづく数量、3類似建築物の実態調査、いずれかの方法で求める。

「必要数量」は、建築物に出入りすると想定される貨物車の種類(2トン車、4トン車、10トン車など)ごとに、必要な数を確保する。

2)「貨物車一台当たりの駐車スペース」は、最小で「幅3m×長さ7.7m×高さ3.2m」とし、貨物車の種類によっては、より大きなスペースを確保する。

3)上記に加え、「車室周囲で荷さばきスペース」として、貨物車の車室後部はドア・昇降機用スペース、車両側面は台車通行のスペースを確保する。

4)「駐車スペース」と「車室周囲のスペース」以外に、台車などが通行するための「搬送用通路」、「貨物の仕分け場」、「輸送や荷役のための用具置き場」などを確保する。館内共同配送を行う場合には、配送受付のための「事務所」を設ける。

5)これらの必要スペースは、搬入される商品や物資によって変わるので、実態を調査して設ける必要がある。たとえば、ハンガーによる洋服の納品は多くのスペースが必要であり、冷凍食品の搬入が多い場合には、一時的な保管のためであっても冷蔵庫や冷凍庫が必要なこともある。

3.3貨物用エレベータの設置
課題:貨物用エレベータの未設置や不足により、渋滞や待ち時間が発生する。効果:的確な物流サービスによる円滑な業務ができ、消費者の快適性が向上する。
設計案(留意事項):
1)貨物用エレベータは、商業ビルとオフィスビルの違いに留意し、類似ビルの使用例を参考にして台数を設置する。(オフィスビルは、一般用エレベータは来客と社員、貨物用エレベータは物流業者や清掃員が利用する。商業ビルでは、一般用エレベータは来客、貨物用エレベータはテナント従業員や物流業者や清掃員が利用する)

2)人貨兼用エレベータを設け、人と貨物それぞれの優先時間帯を設けるなどし、ピーク時に対応する。

3)建物内の移動距離はなるべく短距離が望ましく、移動の動線はシンプルで方向転換を少なく計画する。このような効率的な運用も考慮して、エレベータを配置する。

4)物資搬送・清掃員・従業員の錯綜の回避や、引っ越し作業やエレベータ点検時の対策
も含め、エレベータの運用を総合的に管理する。

3.4館内動線の確保
課題:館内動線の不備により、円滑な搬出入が阻害され、人の移動との交錯が発生する。
効果:館内荷役促進による路上駐車の解消と、安全な地域交通を実現する。
設計案(留意事項):
1)建物内の搬送通路での作業効率を上げるために、台車の通行が可能な幅員を確保し、段差を解消する。搬送通路の損傷を防ぐために廊下や壁面に養生し、床素材は台車の動きやすさを考慮した素材とする。また、搬送通路での誘導表示版は、わかりやすく統一した表現とする。

2)搬送通路での安全性を確保するために、コーナーではミラーを設置し、通路上のドアは引き戸で、自動ドアとする。

3)荷さばき場の出入口で、歩行者と錯綜する場合には、誘導員を配置する。