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福通元執行役員の横領額6億円超、国税局の調査要請で発覚

2016年3月14日 (月)

事件・事故福山通運は14日、同社の元執行役員で子会社「ジェイロジスティクス」の元常務が下請業者に上乗せ請求させていた問題で、特別調査委員会から調査報告書を受領したと発表した。この調査により、元執行役員の不正行為による横領額が6億3700万円となることが確定。また、不正行為が発覚したのは、広島国税局から福通への調査要請がきっかけとなっていたことがわかった。

この事件はジェイロジスティクスの元常務で福通の元執行役員が、2009年5月から15年3月まで6年近くにわたって合わせて6億300万円の架空の売上原価を計上し、下請業者に6億3700万円を上乗請求させて横領したもので、被害額が確定したことを受け、同社は被害額の処理を決定。

不正行為は10年3月期から15年3月期にかけて行われたが、「過年度の決算に与える影響は軽微」と判断し、過年度決算の修正は行わず、15日に発表する第3四半期決算で一括処理することにした。

事件の経過:国税局の取り調べで元常務が上乗せ請求認め、社内調査チーム発足

福通が公表した調査報告書によると、事件発覚の契機となったのは、ことし1月19日に広島国税局が福通に対し、ジェイロジスティクスに関する反面調査の協力を依頼したことだった。

これを受け、福通は1月26日からジェイロジスティクスの外部業者への支払取引を検討したところ、「実態の把握できないもの」があることが判明。13年3月期から15年3月期までの取引を照合する作業に入った。

広島国税局は2月1日、元常務を取り調べた結果、元常務が外部業者と共謀して用車費を上乗せ請求していたことを認めた、と福通に説明。福通は事実解明に向けた社内調査チームを同日中に発足させ、調査を開始したが、2月4日頃までには上乗請求額が数億円にのぼり、長期的に行われていたことが判明。

事態の重要性を認識した同社は「調査の公正性・客観性を高めることが必要」と判断し、10日に弁護士・公認会計士を含む特別調査委員会を発足させた。

元常務が不正に走った背景は

元常務が福通に入社したのは1981年で、支店・流通センター勤務を経て04年2月に子会社で大型小売店向けの貨物運送事業を担うジェイロジスティクスに次長格で出向。07年10月にジェイロジスティクスの常務に昇格し、15年3月の退任までこの役職にあった。

不正行為に関与した下請先のB社との本格的な取引は、08年夏頃に元常務がジェイロジスティクス関東センターの配送業務を依頼し、09年1月に基本契約を交わしたことでスタート。

一方で元常務はこの頃から「高級感のある接待飲食店」に通い始め、1度の来店で10万円から20万円程度を使っていたという。09年5月頃には週に平均1回程度のペースで通い、店への支払額は月間100万円超にのぼった。その後も徐々に来店頻度が増し、スーツや贈答品の購入、車のリース代などが加わって支払額が増大、11年1月頃以降は月間500万円超に達していた。

遊興費捻出のため、取引先利用した横領思いつく

このように、雪だるま式に増えた遊興費を捻出するため、元常務は自らの権限で差配できるジェイロジスティクスと取引先を利用して横領することを思いつく。

09年春頃に元常務がジェイロジスティクスの商品配送事故に関する支払いを「穴埋めしなければならない」として、資金の立替をB社の社長に要求。これに応じる形でB社は元常務の個人口座に119万円余りを振り込んだ。

このやり取りの際、B社はジェイロジスティクスから受託していた店配送業務に上乗せしてジェイロジスティクス関東センターに請求するよう元常務から指示を受け、「実際に運行していない便を含めた請求」をジェイロジスティクスに行い、架空業務に対する支払いによって返還を受けることにしたという。

こうしてはじまった不正行為はその後、さらに複雑化して長期的に続くこととなる。ただ、14年秋頃にジェイロジスティクスのセンター長が同社専務(当時は営業部長)に「実際の運行状況とかけ離れた請求となっているようだ」と相談している。

専務はB社に状況を問い合わせたものの「元常務とB社の社長との間で決着している事項だ」との説明を受け、追及を断念した経緯がある。

不正行為の原因:元常務に実質的な権限が集中

なぜこうした不正が可能だったのか。

調査報告書では、(1)ジェイロジスティクスの取締役会、監査役の監督機能が機能していなかった(2)元常務に実質的な判断権限が集中していた(3)子会社での支払業務統制の整備が一部不十分だった(4)業務量と体制が見合っていなかった(5)対象取引が内部監査の対象外となっていた(2)社内通報制度の運用が不十分だった――の6項目にわたって、事件の原因と背景を指摘している。

ジェイロジスティクスでは、元常務が常務に就任した07年10月31日以後、3人の社長が職制上の上長となったが、これらの社長は取引先の大手小売店の関係企業の会合へ出席するなど儀礼的、形式的に必要な場面で社長として行動するにとどまっていたという。

用車費、取扱手数料、取扱手数料請負料、人件費に関連する業務の実質的な意思決定はすべて元常務が行い、実態としては「ジェイロジスティクスの最高責任者であり最高権限者である社長として振る舞うことができていた」。

また大手小売店向けの運送業務についても元常務は事業の開始時から携わり、ほかの従業員の追随を許さないほど原価計算や用車を含む外注先の手配や制御に精通し、実績を挙げていたことから、周囲は元常務を「半ば盲目的」に信頼しがちになり、元常務自身もほかの幹部社員から監視監督を受けている意識が希薄になりがちな環境が形成されていた。

調査委、再発防止へ制度見直し提言

特別調査委員会は再発防止策として、(1)子会社取締役会の実効的運営方法の見直し(2)主要子会社でも複数の取締役が業務統括に当たり、相互監視が可能な実効性のあるガバナンス構造を構築(3)子会社でも役員、その他の幹部社員の定期的なローテーションを図れるよう、人事制度での配置、人材育成の制度を改革(4)一定の規模の外注先との契約、発注数量、額の決定などの意思決定から執行に至るまでの一つの業務フローが、一人で完結しないよう職務・業務分掌を見直す――など、不正の温床となり得る制度を見直すよう提言。

さらに、福通の内部監査室が担当部署と協議し、グループ支払業務統制ルールの整理、内部監査時の支払業務統制の状況確認、内部監査機能の強化、社内通報制度の実効的な運用に取り組むよう求めている。