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アスクル岩田社長が陳謝、BtoBの業績には影響なし

2017年3月9日 (木)
アスクル岩田社長が陳謝、BtoBの業績には影響なし
空白▲火災について陳謝する岩田彰一郎社長(写真中央)

事件・事故アスクルは9日開いた記者会見で、同社物流拠点「アスクルロジパーク首都圏」(埼玉県三芳町)で2月16日に発生した火災による業績への影響について、当局による原因調査が行われているため正確ではないとしながらも、BtoB事業(アスクル事業)は同拠点のシェアが9%と小さく、火災発生後はほかの6拠点がカバーし、売上も前年同月実績を上回って推移していることを明らかにした。

アスクルロジパーク首都圏が同社全体に占める物量は22%で、残る78%をほかの6センターが担っている。BtoCである「LOHACO」(ロハコ)事業でのシェアは62%と大きいが、主力のBtoB事業についてはシェアが小さく、2月の月次売上も前年同月比5.7%増とむしろ増えている。

この火災は16日9時過ぎ、主に個人向け通販の出荷拠点として運用しているアスクルロジパーク首都圏で発生したもので、周辺住民に避難勧告が出されたほか、出火から鎮圧まで7日間、完全な鎮火まで12日間を要したことで社会的な関心が高まり、特に物流業界では急きょ自社の防火体制を確認する動きが広がっている。

同社は消火活動中も連日、県や消防庁などが発表したものを含め、情報を集約して活動状況を公表したが、火災の原因についてははっきりせず、社会的な影響の大きさ、関心の高さから倉庫として初めて消防庁長官による原因調査が行われている。また、消防庁の指示を受けて各地の消防本部が「5万平方メートル以上の大型物流施設」を対象とした特別な査察を全国で実施しているところだ。

岩田社長は会見の冒頭、「ご迷惑をおかけし、大変申し訳ございませんでした」と述べて深く頭を下げて陳謝した。岩田社長は火災の経過を説明した後、大気や下水への影響を調べていること、大気については環境省の基準値を超える影響が出ていないことなどを報告した。

また、7日19時から1時間にわたって開催した近隣住民300世帯向けの説明会に70人の参加があり、12人から19の質問があったと説明。環境に関する懸念を示す意見のほか、同社を励ます声もあり、岩田氏は「近隣住民とのやりとりの大切さを改めて感じた」と述べた。

続いて、川村勝宏物流担当執行役員は火災発生後の緊急対応状況を説明。16日18時から出荷を再開したことについて、緊急対応計画が順調に機能したとの考えを示した。

火災が発生した拠点の代替センターについては「早々に計画中」とし、3月末から埼玉エリアで3か所、計5000坪の運用を開始すると表明。BtoBの物流をカバーする。また、代替拠点第2弾として湾岸エリアで3か所、計6600坪を3月末以降に立ち上げ、エリアは未定ながら第3弾として9月末をメドに8000坪を設ける。このタイミングでロハコ事業の「完全復活を図る」(川村氏)と強調した。

岩田氏は「ロハコ事業の完全復活に向け、全社全力を上げて取り組んでいく」と述べ、代替拠点の相次ぐ稼働で6か月間で事業を復旧していく決意を示した。

代替センターの機能について、同氏は「一時的なものになる」と述べ、本格的な代替施設としては「住民からの思いもあり、現行拠点(ロジパーク首都圏)を建て替える方向で検討していきたい」と話し、立地を移転せず、現在の敷地を再活用していく考えを示した。

延期を発表している決算発表について、川村氏は「45日以内をメドに考えていきたい」と述べた。

会見におけるほかの主なやり取りは次の通り。

――出火原因がはっきりわからない中、当面の防災対策についてどう考えているのか。
岩田氏「ほかにも大型のセンターがある。いちばん大事なのは安全。避難訓練など通常の防火訓練を徹底しながらやっていかなければならない。抜本的な見直しについても消防庁などから指摘を受けており、見直すべきものは見直していきたい」

――初期消火ができずに消火まで12日間かかったが、問題はなかったのか。改善点はないのか。
岩田氏「長官調査の結果を受けてから、どうしていくべきか、どんな体制を取っていくべきかを考えたい」「きちっとした避難体制で人員の安全をはかるのが最優先。次に初期消火。消火設備が機能するかを確かめていかなければならないと考えている」

――9月末にロハコ完全復旧を目指すということだが、それまでの期間損失はどう考えているのか。
岩田氏「物流のキャパシティや品揃え、出荷できる量で決まっていくわけだが、物流のリカバリーにかかっている。できる限り早期に物流の代替体制を整えたい」

――ロハコ事業を再び成長軌道に乗せていくにはどの程度かかると考えているのか。
「ヤフー、ソフトバンク含めさまざまなキャンペーンを打っているが、十分に受けていく体制がないので、受けられる体制を早急に整備する」

――ロハコ事業でこれまでの損失額は。
「金額は想定していないが、ロジパーク首都圏の物量シェアが62%という大きな数字を占めていたことは重要だ」

――代替拠点つくるということだが、また物流コストが上がるのではないか。
「アスクル全体の60%を(物流子会社の)アスクルロジストが自社配送でまかなっている。ロハコについては大手配送業者に委託している。1時間指定のハッピーオンタイムサービスを拡大していくことで、課題(物流コストの上昇)に対応していきたい」

――経営陣の責任についてはどう考えているのか。
「消防庁長官の原因調査結果を受けてから、会社の中で議論をして答えを出していきたい。現時点では一切考えていない」

――アスクルロジパーク首都圏の従業員の雇用について。
川村氏「全従業員740人のうち、280人がアスクルロジストの直接雇用。残りが派遣社員。代替センターについては社員に説明済みで、概ね、代替センターに行ってもらえると思っている。派遣社員については、アスクルの近隣センターで働いてもらえないかと考え、雇用継続の方向で考えている」「アスクルロジストは200人以上の継続が決まっている」

――防火区画がうまく機能していればこんなに広がらなかったという仮設がある。把握しているのか。
岩田氏「消防庁官調査のさなか。消防庁からの通知はまだなく、そういう意味では把握していない」

――従業員からの聞き取りは行っていないのか。
「われわれが勝手に調査していくということはやっていない」

――会社としてはヒアリングしていないのか。
「当時の従業員にヒアリングしている。長官調査の結果を待って公表していく」

――フォークリフトで段ボールを踏んだ際に煙が出たという話がでているが。
岩田氏「消防からそれが原因だとかいう話が来ていない。きちっと検証してから、どうするかを検討していく」

――原因も経過もわからない中で代替施設を開設していくことが妥当なのか。
「消防に事前に確認して進めている。より慎重な対応をしていく」

――今後さらに補償を進めていくのか。東日本大震災当時のダメージとくらべて損害額は。
「見舞金は1万円。その後、個別の損害についてはお受けさせて頂く方針で臨んでいる」
玉井継尋経営企画担当執行役員「損害額が確定できていないので、最大95億円だがその可能性はあまり高くないのではないか」

――代替拠点、最初の2つはBtoB向けということだが、ロジパーク首都圏はロハコ中心の拠点だったのではないのか。
川村氏「BtoBを先に出荷するのは、ロハコの出荷機能を関東で持つのが横浜だけなので、まずBtoBを動かして、横浜拠点をより活用しやすくしていく」

――アスクルにとってどういう事故だと考えているのか。従来から岩田氏は物流を制する者がECを制すると言っていたが、その物流で事故が起こった。
岩田氏「大きな節目ができたと考えている。ECが大きく成長するにあたって、基盤となる物流が何処かで脆弱だったのかもしれない。そういう意味で、物流チームの再強化を図っていきたい。本格的に開設する次のセンターは、物流網を再構築する大きな転換点になる。中途半端でなく、最先端の技術を導入し、20年30年後を見据えてちゃんと足腰を作っていく」

――大阪でも新拠点の建設準備が進んでいるが、どんな改善策を取り入れていけるのか。
岩田氏「大阪は自社所有ではなく、まだ結論は出ていないが、今回の教訓を活かしていきたい」

――配送の4割は他社に委託しているということだが、物流業界では値上げ要請がクローズアップされている。
岩田氏「やはり物流現場の待遇改善や健全な職場にしていかなければならないという思いを持っている。皆で負担していかなければならないが、当社としては自社運営部分の徹底した効率化によってむしろ競争力を高めていけると考えている」