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国内物流コスト極限状態に、見直し待ったなし

2017年3月10日 (金)

ロジスティクス多くの物流企業や荷主企業が、27年ぶりに「基本運賃」の値上げ改定方針を固めたヤマト運輸の動向を注視している。ヤマトの決断を「本気」とみたECや物流大手はこの流れを逃すまいと、荷主は配送手段の確保、物流会社側は値上げのチャンスだと活発に動き始めた。

ヤマト運輸が打ち出した改定対象は、消費者や小口顧客向けの運賃を示す運賃表と荷物の多さに応じて契約単価を決める法人向けの運賃の2つで、図らずも運賃値上げの「旗手」となった同社だが、値上げの準備作業には膨大な作業が伴うため、メドとしている9月末に間に合わせるのは容易でない。昨年4月からことし2月末まで11か月の宅急便取扱個数は17億個超と前の年度に比べて8%、5年前の同じ時期と比べると30.8%も増えている。

現時点で同社が決めているのは改定するという方針と配達時間帯のうち12−14時帯を廃止する方針を決めているに過ぎず、ほかの時間帯の扱いや料金区分を現行の地域制から都道府県ごとに異なるものに変えるということについては必ずしも効率が高まるばかりでない面もあり、利用者と同社の利益のバランスを検証している最中にある。

宅急便のうち9割をBtoCの荷物が占めているわけだが、値上げを行う際には単に「運賃表」を改定すれば済む話ではなく、対応する社内システムや印刷物の変更に加え、数年間で大幅に広がった配送先も料金の改定に対応させなければならない。受取ロッカーやコンビニエンスストアなど、それぞれに修正作業が必要になるため、9月末という目標時期はかなり無理をしたスケジュールになるとみられる。

物流業界を見渡すと、事業者間でもトラックの調達に四苦八苦している状況が見て取れる。例えば全日本トラック協会が公表している、トラックと荷物のマッチングを図るITサービス(求荷求車ネットワーク)の2月の成約運賃指数は調査開始以来、過去3番目に高い数値だった。

トラックを求める「求車登録件数」は昨年2月より14.5%も多い。この結果、トラックを確保できず成約に至らなかったケースが続出、2月の成約率は昨年2月より1.7ポイント低い17.8%にとどまり、車両を探す事業者50に対して成約に漕ぎ着けた事業者が10に満たないという「惨状」を生み出している。

運よく成約に至っても運賃の上昇が続いているため、自社の調達コストが高まり、利益を確保するために荷主に対してさらに値上げを求めるサイクルが生まれているといえよう。荷主サイドもこうした事情はよく承知していて、出荷ボリュームの大きいEC大手の中には自ら物流会社に値上げを受け入れる考えを伝えるなど、運送会社のつなぎ止めに躍起になるケースがみられはじめた。

また、地域の宅配拠点として脚光を浴びつつあるコンビニエンスストアは、一方で店舗が担う業務の増加と人手不足から、店舗運営が限界に近づいているといわれる。24時間営業が当たり前と思われている運営方法に店舗オーナーからは悲鳴も上がっており、宅配サービスを肩代わりする「余力」には疑問も生じる。

人口が集中する首都圏においても労働力人口を大きく上回るペースで高齢者人口の増加が続くなか、このまま放置すれば実質的には限界を超えている日本の物流が「破裂」するのは時間の問題だ。物流コストに対する社会的な見直しは待ったなしの極限状態にあるといえよう。