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ヤマト社長会見詳報、デリバリー事業の構造改革表明

2017年4月28日 (金)
ヤマトホールディングスの山内雅喜社長とヤマト運輸の長尾裕社長は28日、2017年3月期決算発表に合わせて記者会見し、「新たに認識した労働時間とその管理に対する対策の遅れと、多額の一時金を発生させた経営責任を明確にする」として、持株会社とヤマト運輸の会長・社長計4人の報酬を6か月間にわたり、3分の1を減額する処分を決めた、と発表した。

話題また、想定を上回る宅急便取り扱い数量の増加と労働需給のひっ迫で経営環境が急変しているにもかかわらず、コスト増に対応しながら事業の持続的成長を図るのは困難だとして、宅急便を中心としたデリバリー事業で構造改革を実施すると表明した。

構造改革は、(1)社員の労働環境の改善と整備(2)宅急便の総量コントロール(3)宅急便ネットワーク全体の最適化(4)ラストワンマイルネットワークの強化による効率向上(5)宅急便の基本運賃と各サービス規格の改定――の5分野を対象として取り組む。

労働環境の改善と整備については、すでに実施している当日再配達の受付時間繰り上げのほか、6月19日からは配達時間の指定枠を見直し、長時間労働の一因となっていた「20時-21時」を「19時-21時」の2時間枠に変更。昼休憩がしっかりと取れるよう「12時-14時」の枠を廃止し、これまでの6区分から5区分に変更する。

宅急便の総量コントロールでは、荷物の急増による社員への負担増を回避するため、現状の体制に見合った水準に宅急便の総量をコントロールし、集配体制の立て直しを図る。その上で今後の集配供給能力の強化を図るとともに、大口の法人の顧客に対する運賃の見直し、法人の顧客に対する運賃契約ルールの統一化を検討する。

(左・ヤマトホールディングスの山内社長、右・ヤマト運輸の長尾社長)

具体的には、年間の宅急便取り扱い量の9割を占める法人の顧客、中でも「その約半数を占める大口の顧客」に対し、繁忙期の出荷調整や配達先への複数荷物をまとめて配達する仕組みの構築、クロネコメンバーズとのデータ連携による配達先への事前通知など、集配効率の向上や再配達の削減に向けた協力を「9月中まで」をメドに要請する。

併せて法人の顧客の契約運賃の決定プロセスを精緻化・均一化するため、出荷量だけでなく行き先、サイズ、集荷方法、燃料費や時給単価の変動などの外部環境変化によるコスト変動などを組み込んだ、輸配送のオペレーションコストを総合的に反映できる「法人顧客プライシングシステム」の構築・導入を検討する。

さらに10月の関西ゲートウェイ(GW)の稼働を機に、幹線、横持ちを含む、宅急便ネットワーク全体の最適化と維持・運営コストの低減を図る。厚木・中部・関西3つのGW間での幹線多頻度運行の実現、長大トレーラの導入による輸送力向上、車両の24時間稼働による輸送単価の低減、GW間の循環型運行による長距離ドライバーの労働環境の改善などを通じ、幹線ネットワークのコストを大幅に圧縮する。

大型集約拠点(ベース)では、自動ボックス搬送、荷降ろしや仕分けのオートメーション化を進め、ベース自体の省力化・無人化を進めるとともに、より細かな行き先ごとの仕分けをベースで行うことで、宅急便センターの早朝仕分け作業と人員の最小化を図る。

SD(セールスドライバー)の負担を軽減するため、宅急便の受け取りチャネルの拡充などラストワンマイルネットワークの効率化を徹底。18年3月までに、1都3県を中心に3000台のオープン型宅配ロッカーを設置。6月からはEコマースで顧客が購入する際の配達先として、オープン型宅配ロッカーを直接指定できるようにする。下期には宅急便の発送を受け付ける機能を組み込み、荷物を送ることができるようになるという。

集配拠点の位置データ、配送指定時間データなどを基にリアルタイムにコースナビゲーションを行う「自動ルート組み機能」により、SDが安全に効率よく集配できるツールなどを実装。クロネコメンバーズへの会員登録を簡単にすることで、たとえばECサイトでの初回購入時からすぐに「日時変更」を利用できる「配達予定Eメール」を配信したり、顧客の配達希望日時や場所の登録を充実させるなど、顧客とのデジタルコミュニケーションサービスを拡充。送り状のデジタル化、宅急便センターへの直送や持ち込みなど、配達効率の向上や再配達の抑制に協力する個人顧客への割引も拡充する。

宅急便の基本運賃については9月末までに「60-80サイズ」で現行運賃に一律140円を加算するほか、「100-120サイズ」で一律160円、「140-160サイズ」でも一律180円をそれぞれ加算する。スキー宅急便(オールインワン型)は現行の140サイズから160サイズに改定、ゴルフ宅急便も現行の120サイズから140サイズに変更する。

宅急便サービスの付加料金となるクール宅急便、宅急便タイムサービス、超速宅急便、S-PAT9時便の付加料金は変更しない。

個人顧客向けの新たな割引制度として、店頭端末「ネコピット」で発行したデジタル送り状を利用した場合、荷物1個につき50円を割り引く。またクロネコメンバーズ会員が発送時に直営店に持ち込んだ発送荷物1個につき、さらに50円を割り引くため、現行の持込割引と合わせて割引額を150円まで広げる。

ヤマトホールディングス・山内雅喜社長とヤマト運輸・長尾裕社長による記者会見の主な内容は次の通り。

――基本運賃の値上げに踏み切るということだが、なぜその上げ幅なのか。27年前の値上げ時は平均8%だった。

長尾裕・ヤマト運輸社長:労働需給がひっ迫してくるという予測を考慮し、安定的にサービスを継続して提供するため、27年ぶりの値上げを決断した。値上げは140サイズ、160サイズ、180サイズの3段階。大幅な値上げにならないよう、またわかりやすい料金となるよう調整した。値上げ幅は、割引制度を加味すると10%程度になると想定している。割引制度を度外視すると15%程度。

――大口顧客の単価の低い荷物でなく、消費者向けを先に上げるのはなぜか。

長尾氏:そんなことはなく、先行して大口顧客、特に割引率の大きな顧客に対して総量制限や価格の交渉を行っている。遅くとも2017年度上期中に交渉が完了するよう動いている。最優先で交渉している法人顧客を1000社リストアップし、交渉している。

――総量制限について、今期は宅急便の取扱個数が8000万個減ると予測しているようだが、その後の将来についてはどう予測しているのか。

長尾氏:17年度は8000万個減少するが、18年度以降は17年度上期の交渉状況を見ながら設計を進め、見えた段階で話したい。

――再配達の問題で、1回で受け取る顧客に対する優遇措置は。世間ではネット通販が悪者になっているように思われるが、これをどう見ているか。

長尾氏:再配達料を荷受人から徴収するべきではないか、という声も聞くが、難しい。1回で受け取ってくれた人への優遇については、当社拠点で受け取る顧客やロッカー受け取り顧客、ポイントバックなどを想定している。1回で受け取るモチベーション作りは鋭意行っていきたい。

ネット通販については、ここ数年、急激に拡大している。日本の消費になくてはならない存在だと承知しており、これからネット通販の利便性の拡大とどう向き合っていくか、どう下支えできるかを考えながら進める。だが、適正対価を受け取ることも同時に進めなければならない。受け取りロッカーはこの1年でかなり大きな数を設置する。これらでかなりの受け皿になるだろう。その上で働き方改革、キャパシティーの拡大を考えていく。ネット通販を悪者と認識しているわけではない。

――総量制限について、現状の人員に見合った形にコントロールするというが、8000万個というのが現状の人員に見合った形なのか。

長尾氏:それで足りるのかということについては、まず8000万個を1年で減らすというのが第1段階。基本的には総量コントロールは大口顧客が対象だ。個人・小口顧客は対象ではない。

――大口(1000社)とそれ以外はどういう線引きを行っているのか。

長尾氏:全国に自社拠点が4000か所あるが、町中の宅急便センターは小口法人と個人向けとして運用しており、大口顧客は法人営業支店で取り扱っている顧客だ。これは法人専門支店であり、扱う荷物もそれなりの出荷ボリュームとなっている。

――法人顧客プライシングシステムはいつ頃までに導入するのか。

長尾氏:上半期中には作り上げたい。最初は完全でなくてもいいので、下期から使えるように間に合わせたい。この仕組みを法人営業支店における運賃設定に使っていきたい。

――アマゾンとの運賃交渉は妥結したのか。

長尾氏:現在も交渉している最中だ。

――値上げという形で顧客に負担増を求めるうえで、消費者に対して一言。

山内雅喜・ヤマトホールディングス社長:27年前に比べて社会環境が変化し、物価の上昇も起きている。(宅急便を)社会的インフラとしてこれからも安心して利用してもらえるよう、インフラを継続していく上で、環境変化に合わせて、心苦しいが、一度ベースを上げさせてもらいたい。

――値上げによって得る資金は、何にどう使うのか。

山内氏:働き方改革ということで、まずは社員がきちんと働ける労働環境整備に充てる。そのためのサービス面、商品面の改革も行う。

――値上げについて、60サイズ、100サイズをそれぞれ関東域内、関東発関西向け、北海道向けはいくらになるのか。

長尾氏:60サイズの関東発・関東向けで756円から907円、100サイズは1188円から1361円、関西向けの60サイズは864円から1015円、100サイズは1296円から1469円、北海道向け60サイズは1188円から1339円、100サイズは1620円から1793円となる。

――クール便問題のときも法人向け料金を値上げして総量コントロールを打ち出した。荷物も一時減ったと思うが、当時と今回を比べてどう違うのか。

長尾氏:少なくとも、今回は大口客にフォーカスしている。中でも割引率の大きいところを優先して取り組む。運賃料金だけでなく、ボリュームについても毎年どれぐらいの枠で受けるのかを協議している。小口顧客や個人顧客にはこんな規制をかけない。大口顧客とは出荷タイミングも協議の対象だ。

――つまり、大口顧客に対しては交渉というよりも打ち切りや制限を通告する、ということか。

長尾氏:どれぐらい制限する必要があるかを分析した上で、顧客と協議する。

――営業利益が300億円以上減った。これだけの規模で利益が減るのは珍しいが、企業体質として、何か問題があったのか。

山内氏:実際に荷物量が増え、労働需給がひっ迫したにもかかわらず、それに必要な体制を充足できないために第一線の社員にしわ寄せがいっていた。そこに目が行き届かなかったことを反省している。4000の営業所あるが、そこに目が行き届かなかった。

――改めて聞くが、取引の打ち切りや総量抑制だけを打ち出す交渉はやっていないということでいいのか。料金についても交渉しているのか。

長尾氏:顧客ごとに提供している料金や量が異なるので、その中身を分析し、交渉に当たるというのがビジネス上では一般的な話だと思う。リストアップした1000社の中にはかなり大きな値上げを要請しなければならない相手もある。現状に対して、これからどう推移させていきたいかを中心に交渉している。採算性が良くないということが交渉理由なので、当然、交渉時には値上げを含めている。