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日立物流・日立物流ファインネクスト・プロロジス・三和建設が登壇

危険物倉庫緊急サミット、拠点不足の対応策に持論

2022年5月19日 (木)

話題LOGISTICS TODAY(東京都新宿区)は19日、オンラインセミナー「危険物倉庫緊急サミット」を開催した。物流業界で注目を集める危険物倉庫ビジネスをめぐる最新の動きや今後のあるべき方向性について、登壇者が白熱した議論を繰り広げた。視聴者は当初想定を大幅に上回る420人超に達した。

輸送・保管サービスの多様化・高度化を背景に、国内の物流業界で注目を集めている危険物倉庫。新型コロナウイルス感染拡大によるアルコール消毒剤など危険物保管需要の高まりを契機として、こうした施設の整備を検討する動きが急速に広がっている。企業のコンプライアンス体制の強化を図る意味合いもあり、危険物倉庫の新設・増設が全国的に相次ぐなど、物流業界における「空前のブーム」になっている。

危険物倉庫ビジネスは「もうかる」

こうした動きを背景とした物流業界の動きに焦点を当てた、今回のサミット。冒頭でLOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長が、物流企業をはじめ荷主企業など読者を対象に実施した「危険物倉庫と危険品取り扱いの実態調査レポート」の結果をもとに、危険物倉庫を取り巻く現状を解説。危険物倉庫または危険品取扱ビジネスの需要動向について「高まっており、法令に則った保管スペースが不足している」との回答が全体の66%と3分の2に達したことを明らかにした。

LOGISTICS TODAYの永田利紀・企画編集委員もオンラインで参加。危険物倉庫ビジネスの収益性について、「もうかる」と強調。ただし、各企業の財政面で巨大な初期投資を許容できるかどうかが分かれ目になる」との持論を展開した。一方で、危険物倉庫ビジネスへの新規参入の方法について、全体の42%が「わからない」と回答。永田氏は「監督官庁を含めて、専門家に聞かないとわからない事柄がまだ多い」として、危険物倉庫のさらなる普及のハードルになる可能性があるとの見方を示した。

危険品を取り扱う産業の裾野が急速に拡大、危険品倉庫不足の一因に

続いて、危険物倉庫や危険品取り扱いビジネスで先進的な取り組みを推進する物流関連企業3社から計5人が登壇してパネルディスカッションを実施。危険物倉庫の需要が急速に高まるなかで、倉庫不足の原因とその対策について意見を交わした。

日立物流ファインネクスト営業企画本部営業開発部長の篠塚武人氏は、倉庫が不足している要因として「今までに危険品を取り扱ってこなかった業界や企業にも危険物倉庫の需要が広がっている」と分析。プロロジスのエグゼクティブ・ディレクターでコンストラクション・マネジメント部長の小出敦子氏は「危険品に対する『総量規制』のハードル」と指摘し、危険物倉庫を整備する際にはその立地にかかる法的な規制を考慮する必要性を強調した。

日立物流の営業開発本部サプライチェーン・ソリューション1部部長の鍋島敦氏は、これまで保管型が中心だった危険物倉庫について、「危険品を取り扱う業界が広がり流通加工や3PL業務を求める声が高まってきたことで、危険物倉庫の需要が拡大してきている」とみる。

危険品倉庫の普及促進策、「賃貸」も選択肢に

続いてのテーマは、危険物倉庫不足への対策について。「『危険物倉庫を整備したい企業』と『所有する土地や倉庫を有効活用したい企業』のマッチング」を掲げるのが、三和建設の大阪本店次長兼設計グループグループリーダー兼リソウコブランドマネジャーの松本孝文氏。既存倉庫をそのまま危険品を取り扱う仕様とするのは難しいものの、危険物倉庫を建ててから貸し出すやり方で、相互にとってメリットのある危険物倉庫ビジネスを模索する案を提示した。

プロロジスのエグゼクティブ・ディレクターで営業部長の佐藤英征氏が打ち出したのは、危険物倉庫の賃貸活用だ。「そもそも危険物倉庫は専門性が非常に高い建築物だ。3PL企業を中心に、受託される期間が3年から5年と短い事例も今後は増えてくると考えれば、自社投資よりも賃貸に優位性が出てくるのでは」と述べた。

一般と危険品の「複合型」施設整備、危険品物流のあり方に一石

視聴者からも多くの質問が寄せられた。一般倉庫に併設した危険物倉庫開発における考え方について、佐藤氏は「顧客ニーズが定まった段階で併設仕様で開発するケースもあるだろう。またはBTS型(特定のテナントのニーズに応じて建設するタイプ)施設として整備する可能性も十分ありうる」と解説。所有する危険物倉庫が狭小で入居が進まない悩みについては、鍋島氏が「付帯作業を取り込むなど付加価値で差別化を図る工夫を」と提案した。

危険物倉庫の需要拡大が特に顕著な、化粧品や日用品の業界における今後の動向についての質問では、篠塚氏が「企業のコンプライアンス意識が高まるなかで、サプライチェーン全体に危険品を適正に取り扱う機運がさらに高まる」と指摘。危険物倉庫の「標準化」に向けた動きにかかる質問について、松本氏が「業界内で空室状況を共有できるネットワークが構築されれば」、鍋島氏も「拠点ができても配送ルートで料金が変わるなど、様々な要因がからみ合っている。立地を含めたプラットフォーム化の議論が進める必要がある」と持論を語った。

入居企業の入れ替わりに応じて危険物倉庫の仕様を変える必要があるかとの問いについては、小出氏が「汎用性の高い機能を基本に、顧客に応じて消火設備などを入れ替えるのが現実的だ」と説明した。

危険物倉庫開設の第一歩、それは「実績のある設計者の探索」

最後に、登壇した3社がそれぞれ、危険物倉庫にかかる取り組みや視聴者への訴求ポイントを提示。松本氏は危険物倉庫を整備する際の留意点として、「複数の案件をいろんな場所で手がけた実績のある設計者や開発業者を探すことが大切」と強調。佐藤氏と小出氏は、プロロジスが手がける危険物倉庫実績とともに、茨城県古河市で進行中の物流施設開発プロジェクト「古河プロジェクト」における危険物倉庫の整備計画を紹介した。

鍋島氏と篠塚氏は、一般倉庫と危険物倉庫の「複合型危険物倉庫」の可能性について解説。危険物取扱拠点の不足という課題への対応を含めて、幅広い切り口からアイデアを創出していく意思を強調した。

消費者に最適な形で届ける危険品物流、その担い手の覚悟を見せつけた「危険物倉庫緊急サミット」

今回の危険物倉庫緊急サミットは、危険物倉庫が物流業界でも最も「旬」な話題である実情を強く印象づけた。同時に、急速に高度化・多様化が進む物流ニーズへの適切な対応が喫緊の課題である現実も、改めて浮き彫りにする機会となった。

サミットにおける登壇者のやりとりのなかで印象に残ったのが、「専門性」と「汎用性」という相反するキーワードだった。危険物倉庫は、法的根拠も含めて極めて専門性の高い施設であり、ここが一般倉庫ビジネスとは大きく性格を異にする点だ。一方で、「汎用的」「ネットワーク」「プラットフォーム」といった言葉が、登壇者の口から相次いで飛び出したのは実に興味深い。

ここに、危険物倉庫ビジネスの抱える課題があるのだ。「専門性が高く参入が難しい領域である」という前提条件がある一方で、危険品物流のさらなる高度化・最適化を図るには「汎用的でネットワーク化された」ビジネス展開が求められるのだ。二律背反ともいうべき事象を併存させて解決に導く、まさに「日本品質」の訴求だ。

底流にあるのは、消費者に確実に商品を最適な形で届けるパーフェクトなサプライチェーンの構築を目指して取り組んでいく、事業者たちのプライドと矜持だろう。「いろんなアイデアを出しながら、日本の物流業界ならではのニーズを獲得していく」。日立物流の鍋島氏の言葉がそれを象徴している。改めて、当事者の覚悟を思い知る機会となった。(編集部・清水直樹)

■危険物倉庫特集