話題数ある首都圏西部の物流施設のなかで、今回は人気の八王子エリアに立地し、延床面積6万5360坪(21万5688平方メートル)と巨大な物流スペースを擁する先進物流施設「MFLP日野」の開発を担当した三井不動産ロジスティクス本部の藤塚和弘さんに、同施設の工夫や特徴、こだわりの機能を案内してもらう。インタビュアーは東京の大手物流会社に勤務する四森涼子さん(仮名)だ。
四森さんが降り立ったのは、JR新宿駅から特別快速でおよそ30分の距離にあるJR中央線豊田駅。新宿から西へ向かって八王子駅の一つ手前にある。MFLP日野の最寄りとなるこの駅周辺には豊富な買い物施設がある。
■JR中央線豊田駅から徒歩圏内、働く主婦に理想的な施設群が集積
藤塚和弘さん(以下、藤塚) 物流拠点として人気の高い八王子エリアで、中央線沿線から徒歩圏内で通えるのがMFLP日野の特長の一つなんです。一つ先の八王子駅だと徒歩圏内で大規模な用地を用意するのは難しい。ところが、中央自動車道八王子ICから離れすぎない場所という条件をキープしようとすると、中央線沿線から離れてしまうんです。
また、八王子ICを出てすぐに視界に飛び込んでくる案内標識は、複雑な方面表示がほどよく整理され、どの方向に進んでも高速道路網に接続できることを示す。また逆に、MFLP日野を出て八王子ICへ向かうルート上の国道16号線では、片側4車線それぞれが複数の役割を担っている様子を示し、この地が首都圏屈指の物流拠点であることを実感できる。
四森 うわぁ、大きい。これだけ広い敷地に建っていて先まで見通せそうなのに、ひと目で全体像を把握するのは無理ですね。
藤塚 建物の外周を見てもらうとわかるんですが、MFLP日野の周りには緑地が6000坪(1万9800平方メートル)あり、ここには誰でも入ることができるようになっています。
■商業施設の経験生かすサインデザイン、ドライバーへの配慮随所に
藤塚 実はデザイナーの力を借りて、意図的に緩やかに曲がりくねった小径(こみち)にしてあるんです。直線の通路であればすぐ終わりが見通せてしまいますよね。敢えてカーブをつけて終わりを見えなくすることで、よりリラックスできるよう配慮しています。
■1フロア1万1000坪、40フィートコンテナ対応の国際仕様
藤塚 ここは防災センターです。すべてコンピュータ制御で漏れのない監視体制を敷きつつ、24時間365日の有人管理でセキュリティに万全を期しています。最も少ないタイミングでも常時7人以上が業務に携わっています。実はネットワークを通じて外部から遠隔監視する仕組みと併用しているんですよ。さて、いよいよ倉庫スペースです。
倉庫内は5階建て、1フロア1万1000坪(3万3000平方メートル)と幅広い物流需要に対応できるスペースが広がり、中央に幅15メートルの車路と奥行き13メートルのトラックバースが両サイドに設けられている。ドックレベラーは基準階で12基設置されており、スロープも完備している。
四森 これは広い。この広さで端から端まで見通せるのは、柱が少ないからですね。あと、倉庫スペースもですがトラックバースの懐が深くないですか。
藤塚 そうですね。40フィートコンテナをバースに着けたまま、シャッターを閉じることができるんです。国内・国際物流のどちらにも対応するために、40フィートコンテナトレーラが着けられるよう十分な奥行きを確保しました。また、庫内性能は当社のすべての物件で共通ですが、保税蔵置場など基準の厳しい要件にも対応できるレベルなんです。
■「はじめは1000坪から、需要に応じて拡大」できる使い方が利点
藤塚 各フロアは防火シャッターで大きく6分割できるよう設計してあるんですが、物流需要はさまざまなので、できるだけ多くのお客様に使ってもらえるよう、1000坪(3300平方メートル)程度から相談させていただく方針です。はじめは1000坪から使っていただき、需要に応じて拡張できるというのがこの施設の利点といえます。
四森 いいですね。それがなかなかできなくて、倉庫が周辺に分散してコストが増えていくというのが物流の悩みの一つですから。八王子ICからのアクセスの良さ、通勤環境の良さ、規模、スペック、働きやすさにつながるさまざまな工夫と、八王子エリアでこれだけの条件が揃う物件はほかにないでしょうね。
■周辺居住人口の豊富さに着目、物流施設として希少性打ち出す
もともとは同社の商業施設の可能性を検討するほど、周辺居住人口に着目していたとのこと。そのなかで、「この用地を物流施設として活用し、希少価値の高い物件として打ち出そう」と舵を切った結果、これだけの好条件を兼ね備えた巨大施設の誕生につながった。
四森 トラックドライバーだけでなく、物流センターで働く人の確保も大変なんですよね。
藤塚 周辺に労働力が豊かだというのがMFLP日野のセールスポイントの一つですが、それに加えて総合人材サービス会社の担当者がこの施設に常駐し、「きょう、明日レベル」の短期人材をすぐに紹介できる体制を整えます。あとは、事業所税がないというメリットもあります。
四森 どういうことですか。
四森 なるほど。その点、MFLP日野の行政区分は日野市だから、税制面でも有利だということですね。
藤塚 ほかにも、ドライバーさんに使ってもらいたいという考えから、施設内のコンビニエンスストアとトラックの待機場を最短距離となるよう配置したり、女性用のお手洗いにパウダールームを設けたりと、挙げればきりがないほど、多くの工夫を施したのがこの施設です。
藤塚 お気づきかもしれませんが、MFLP日野は汎用性を高いレベルで実現しつつ、商業施設事業との連携など「三井不動産だからできる」というさまざまな取り組みを、費用面で柔軟に対応することも含め、主にソフト面で採り入れて差別化につなげています。
■取材を終えて
「これが倉庫か」と思わず息を呑んで立ち尽くすほどの巨大さと洗練された雰囲気が、初めて訪れたMFLP日野に対する印象だ。説明を受けて、これほどの差別化が行われていることは驚異的だった。先進的な物流施設が「汎用性の高さ」を売りにすればするほど、ほかの施設との差別化は困難になっていくが、この施設は違っていた。
物流施設開発ではどちらかと言えば後発組の同社が、なぜここまでの差別化を実現できたのか。前回、三木孝行・執行役員ロジスティクス本部長のインタビューを収録した際、三木氏が強調していた事業ステートメント「ともに、つなぐ。ともに、うみだす。」を、開発、営業、事業運営とそれぞれの担当者が体現しているからにほかならない。
後発だからこそ、持てる知恵と経験を惜しみなく生かした結果だといえる。同社のチャレンジはまだまだ続く。2017年9月の竣工を目指して開発中の関西の基幹物流拠点「MFLP茨木」では、さらに多くの試みが見られることだろう。
□MFLP日野の概要□
物件名:三井不動産ロジスティクスパーク日野(MFLP日野)
敷地面積:2万9300坪
延床面積:6万4400坪
規模・構造:地上5階建・免震構造
トラックバース台数:354台
乗用駐車場:270台
□三井不動産・企業データ□
商号:三井不動産株式会社
本社:東京都中央区日本橋室町2丁目1番1号
設立:1941年7月15日
資本金:3397億6600万円
2015年度売上高:1兆5679億6900万円
株主数:3万568人(2016年3月31日現在)
従業員数:1332人(2016年3月31日現在)
TEL:03-3246-3131(代表)
ウェブサイトURL
http://www.mitsuifudosan.co.jp/