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行政・法制度は事業継続のツールとして使いこなせ

話題トラック・物流Gメンとして全国の現場を歩き、荷主・物流事業者双方と向き合ってきた国土交通省中国運輸局自動車交通部貨物課長の田中幸久氏。オンライン説明会には延べ1万人が参加し、「指導」ではなく「問いかけ」を軸にした姿勢は、行政のイメージを大きく変えつつある。

2026年は、取引適正化や運賃・付帯作業の扱いを巡り、物流の現場が本格的に変わる正念場になると田中氏は見る。現場で何が起きているのか、そして業界に何を求めるのか。率直な言葉で語ってもらった。

▲国土交通省中国運輸局自動車交通部貨物課長の田中幸久氏

鶴岡 田中さんはトラック・物流Gメンとして精力的にパトロールやオンライン説明会を続け、延べ1万人が視聴する規模に広がっています。まず、トラック物流Gメンの役割と、これまでの活動を教えてください。

田中 Gメンという文字が法律にあるわけではないのですが、2023年6月の政策パッケージで位置付けられました。荷主を監視し、トラック事業者からプッシュ型で情報収集した上で、荷主に是正指導する役割です。

鶴岡 集めた声を元に、荷主に伝えていくんですね。

田中 そうです。現場の目線で言うと、トラック事業者は荷主に言いたいことがある。でも面と向かって言うと「明日から来なくていいよ」となりかねない。言いたいが言えない。だから誰かに伝えてほしい。そこで我々が届けて歩こうと考えました。誰が言ったか分からないように、特定の会社をピンポイントで訪問するのではなく、エリアを“面”で回る。いつ来るかわからない、どこかから見ているよ、という存在として動く。中国運輸局では荷主への注意喚起も含めてパトロールを続けてきました。

鶴岡 いきなり指導だと荷主は身構えますよね。

田中 そうなんです。なので「こうしたら運送業の商売がうまく回るんじゃないですか?」という情報も説明し、便利な情報を届けるから説明会も見てください、という建て付けです。なので、パトロールとオンライン説明会をセットで回す方針でずっとやっています。

鶴岡 オンライン説明会は中国運輸局の管内に限らず全国から参加があるとか。

田中 参加者は運送事業者もいますが、荷主の参加者も少なくありません。毎回アンケートを必ず取って属性を見ていますが、回答者は東京の荷主が一番多くて、次に大阪、愛知、九州など大都市が続きます。最近は「複数回見ました」「毎回見ています」というリピーターも増えました。

鶴岡 何度も参加できるということは、毎回内容が違うんでしょうか。

田中 内容は毎回バージョンアップしています。役所のホームページは、正直な話、皆さんなかなか見に行かない。どこに何があるか分かりにくい。だから我々が、経産省、農水省、環境省、労働局などの情報を横断して、まとめとして必ず紹介します。法律改正も、既存のQ&Aをただ紹介するだけではなく、現場の質問をもらって、こちらで答えを作って関係省庁に確認して、回答を固めた上で返す。質問をいただいて、質問に答える形で説明会を運営するのがポリシーです。

鶴岡 さらに“どうしたらいいか”のハウツーも。

田中 現場でどうするのかについては行政の側から教えられることはないので、実際に事業をやっている“プロ”の皆さんに登壇してもらい、取り組みを話してもらっています。事前質問は私が代弁して投げかけ、対話形式にします。そうしたコンテンツが今は定型化しています。

鶴岡 田中さんの活動は“媒介者”という言葉がしっくりきます。指導一辺倒ではなく「問いかけ」を重視している。その難しさはどう感じていますか。

田中 一方的に言い続けても「はあ?何言ってんの?」という反応もあります。だからこそ、子どもが素直に「これって何だろう?」と聞くような質問が、大人をギクッとさせることがある。例えば日配品の牛乳や卵は、なぜ開店前に並んでいなきゃいけないのか、と聞く。事業者からすれば「今さら何言ってんだ」かもしれない。でも意外と明確な答えがないこともあるし、変えてもいいことなのかもしれない。そうやって考えたり、既存のやり方を変えるきっかけになればいいと思っています。

鶴岡 そうやって話を聞いていくうちに、得られることもあるんでしょうか。

田中 法制度について発信するにしても、現場にいる人にちゃんと響くことを言わないと何も変わらない。だからまず現場に行って教えてもらう。周りのGメンにも「現場に行って教えてもらおう」と呼びかけています。

鶴岡 煙たがられる場面もあるなかで、ここまで動く源泉は何ですか。

田中 現場に行ったことが大きい。「両方で話せばいいのに」と思っても、契約や競争があってできない。だったら、商売としがらみがない我々が媒介するしかない。やらなかったら、後で後悔するだろうと思いました。できたのにやらなかった、となるのは嫌ですね。

鶴岡 視聴者の質問で多いのは、荷待ち・荷役と、運賃・料金の2大論点です。やはり多いですか。

田中 多いです。「運賃はいくらが正解ですか」聞かれることもありますが、それはやはり、一概には言えません。1990年にトラック法が道路運送法から分離し、自由競争が進みました。運賃も認可制から届出へ移行し、競争が激化して運賃を安くし、さらにサービスを上乗せする流れが生じた。荷主側から「交渉して決めている」「見積もりの金額の中にいろいろ入っている」という反論があるのも分かります。でも交渉が常に対等な“フィフティーフィフティー”かというと、そうではない局面があるのではないか。答えを我々から得るのではなく、対話を通じて答えを探す方向に行ってほしい、という思いはあります。

鶴岡 標準約款も改正され、「運送」と「作業」は別料金で取れるようになり、そこについても交渉の余地がありますね。

田中 ただ、見積もりの金額はもろもろ込みというにしているケースもある。荷主と運送事業者間ではそれで話がついたとしても、ドライバーからすれば「なぜここまでやらなきゃいけないのか」となる。運賃を安くして作業をドライバーに押し付けて、なり手がいなくなってしまっているのがよくないですね。

鶴岡 2024年問題についてはどうでしょう。「思ったほどでもなかった」という報道もありました。

田中 物流業者、トラック運送業者が、擦り切りいっぱいのところまで頑張ったから“なんとかなった”だけだと思います。でも、こぼれてないから見えていない。現場にいると肌感でまずいと感じます。輸送力を確保できるところだけが物を運べる世界になっていく。地域の中小荷主の物が運べなくなり、ビジネスチャンスを失い、倒れていく恐れがある。

鶴岡 地場のものが運べないと、地元の産業が衰退する。スーパーの棚が画一的になって、同じ商品ばかりになって、消費者が選べなくなる。そうなれば、地域の文化が失われるというようなことも起きてしまいますよね。

田中 必要なものが届く日常が変わっていく。その現実をどう伝えるかが課題です。

鶴岡 現場で感じる「これはまずいな」というようなエピソードは何かありますか。

田中 トラックドライバーは高齢者が多く、若手が入って来ていません。私はドライバーの適性診断などを行うNASVA(ナスバ、自動車事故対策機構)に行って、なるべくドライバーと話すようにしていますが、物流センターのセンター長や倉庫スタッフが受診しているのをよく見かけます。本来倉庫内の業務をしている人たちに運転させて業務を回そうということです。そういう人まで動員しないと回らない“総力戦”が始まっていると感じています。

鶴岡 そのほかに、Gメンの活動の中で印象的な事例はありますか。

田中 2つあります。一つは、トラック事業者の側からの相談が増えたこと。以前は業界の会合に参加しても遠巻きに見られて、会が終われば帰る、という距離感でした。でも最近は名刺交換の後に相談メールが来たり、ロビーで話しかけられたり、「こういう話がある、どうしたらいい」と具体に聞かれるようになった。変わってきたと感じます。

鶴岡 現場でも「役所は形だけ」と諦めの声はよく聞きましたが、認識が変わってきたのかもしれませんね。

田中 我々は正義の味方ではなく、トラック法で“トラック側についたツール”、武器みたいなものです。信頼がどうこうというより、使えるツールならどんどん活用してほしい。もう一つは、発荷主からの相談が増えていることです。着荷主側の付帯作業の見直しや、売価が上がらない中でどうするか、といった相談が来る。「運ぶためにはトラック事業者の労働環境を良くしなきゃいけない。だから着荷主にも協力を頼みたいが理解してくれない」といった声も寄せられ、こちらにとっても重要な情報になります。

鶴岡 取適法(改正下請法)は26年の1月1日から施行されますが、下請法からの改正が行われた際の報告書では“発荷主—元請”は規制対象になった一方、“着荷主—実運送”は制度上組み込めなかった経緯がにじんでいました。それでも、現場では三者で改善する動きが出ている、ということですね。

田中 はい。付帯作業を見える化・料金化して、発荷主が物流事業者に払う。払った金額を着荷主に請求する、という荷主もいます。コストとして見えるようになれば、削るなら付帯作業をやめるしかない、という意思決定につながる、という考えです。実際、請求書が来るとガラリと変わる、という話も聞きます。

鶴岡 運賃と分けて請求できることは、運送会社にとって武器になりますね。

田中 ただし原価を把握し、説明できないと抗し切れない。「今まで運賃に入れて払ってたんでしょ。付帯作業を別にするなら運賃下げて」という交渉に押される。中には付帯作業0円の見積を出す例もある、と発荷主から相談を受けることがあります。標準的運賃は、計算内訳の中に“1時間あたりの時給”が示されています。そこから付帯作業、荷待ち、パレット単位の時間などもモデル化して算定可能です。平均作業時間のデータが整えば、説得力のある見積もり・請求に近づくはずです。

鶴岡 下請法改正をめぐる検討会の最終報告書を読むと、最後にブルーハーツ「TRAIN-TRAIN」の歌詞の一節「弱い者たちが夕暮れ、さらに弱い者を叩く」という言葉が引用されていましたね。衝撃的でした。

田中 そうですね。あれはすごく良かった。「本当の声を聞かせておくれよ」とか、しびれるものがありました。現場で見ている人間からすると、本省の皆さんが本気でやっていると感じますし、議論してくれた皆さんの熱量を冷ましたくない。だから、我々のような各地の運輸局が、現場の人が腹落ちするように伝えていくことが大事だと思っています。

鶴岡 最後に、2026年をどういう年にしたいか。関係者へのメッセージをお願いします。

田中 私は23年4月に中国運輸局に来て、足かけ3年Gメンをやってきました。役人は2年で異動が多いのですが、法律が変わったので、わがままを言って1年残らせてもらった。引き継ぐ人材も育っています。目をキラキラさせてパトロールに行っています。ただ、熱量が皆さんに伝わっているかは常に課題です。だから26年は正念場。荷主が監査向けの綺麗な書類を作っていても、現場の声が上がればGメンは動きます。当事者同士で会話をすることが第一歩です。できれば荷主側からトラック事業者に声をかけてほしい。「常に話を聞く」姿勢を示すことで、過大な要求が減った、という荷主の声もある。物流事業者の声を聞いてほしいですね。

鶴岡 対話を始めるのは、やろうと思えば踏み出せる一歩ですし、それによってリスクヘッジにもなるかもしれない。26年が“対話で課題解決を進める年”になるよう、田中さんの活動も引き続き注目していきたいと思います。

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