ロジスティクス2026年4月、改正物流効率化法が全面施行され、一定規模以上の荷主企業には物流統括管理者(CLO)の選任が義務付けられた。荷待ち時間の短縮やトラックの積載効率の改善が主な目的だが、もしCLOが拠点の場所選びや自動化への投資まで担当するなら、その施設で必要な電力を確保できるか、再生可能エネルギーを調達できるか、災害時にも事業を続けられるかといった条件まで判断材料に加わってくる。
同じ課題に先んじて取り組んでいるのが、世界最大級の物流不動産会社プロロジスだ。本誌は、同社にオランダの2施設をめぐる取り組みについて取材した。物流施設として世界で初めて、米国の非営利団体ILFI(国際リビング・フューチャー・インスティテュート)のゼロカーボン認証を取得した「アイントホーフェンDC4」と、電力会社からの電気不足を自前のマイクログリッドで補った「アルメレDC5」を稼働させている同社の取り組みは、日本の荷主企業が今後向き合うことになる課題への一つの答えになる。
▲オランダの次世代施設の特色
欧州の物流不動産市場は、厳しさを増す環境規制、送電網の容量不足、用地確保の難しさという三つの問題に直面している。プロロジスの調査部門によれば、世帯数あたりの現代的な物流施設の面積は、米国の75に対し欧州は30と大幅に少ない。
オランダではこの制約が特に強い。不動産会社のサヴィルズ(英国)は、オランダの物流不動産の空室率が22年の3%前後から本年初頭には6%台まで上昇する見通しを示しており、過去の極端な品薄状態は落ち着きつつある。それでも環境規制が厳しいオランダでは、新たに土地を切り開くグリーンフィールド開発は難航し、工場跡地など過去に開発済みの土地(ブラウンフィールド)の再利用が用地戦略の中心になっている。
ゼロカーボン倉庫の作り方
オランダ南部のアイントホーフェンに位置するDC4は、20年末に完成した延床面積4万平方メートルの大型倉庫だ。ILFIから、物流施設として世界で初めての「ゼロカーボン認証」を取得した。
▲プロロジスのオランダ施設(出所:プロロジス)
一般的な環境認証は設計上の数値で評価されるのに対し、ILFIの認証は完成後1年間の実際の運用データに基づく。建物が使った電力よりも多くの再生可能エネルギーを自前で作ったことを証明しなければ取得できない厳しい仕組みだ。
DC4は屋上に大規模な太陽光発電を備え、暖房や運用システムを電気だけでまかなう完全電化を実現し、都市ガスの引き込みもなくした。建物を建てる際にコンクリートや鉄などの製造や運搬で出るCO2、いわゆる「エンボディドカーボン」の削減にも力を入れた。CO2排出が少ない特殊なコンクリート、耐用年数終了後に解体し、再利用や部分的なリサイクルができるモジュール式外壁パネル、近隣企業からの材料調達などを組み合わせ、通常の建物と比べて30%減らした。
建設時に出たCO2は、屋上太陽光が作る余分な再生可能電力によって、30年までにゼロへ戻す計画だ。敷地は廃棄物処理場の跡地を再生したもので、働く人の健康配慮を評価するWELL認証でも上位ランクを取得している。
マイクログリッドで電力不足を補う
電力不足を自前のシステムで乗り越えた事例が、アムステルダム東方のアルメレDC5だ。延床面積2万3000平方メートルの倉庫だが、当初プロロジスが電力会社から受け取れる電気は55kWに限られ、大型倉庫の運営には全く足りない量だった。
そこで同社は、屋上の太陽光発電、蓄電池、燃料で動く非常用発電機、電気の使い方を自動で調整するシステムを組み合わせた「マイクログリッド」を導入した。マイクログリッドとは、独立した小規模な電力網のことだ。同社によれば、55kWに限られていた系統受電を補い、施設として400-450キロワット規模の利用可能電力を確保した。もとの8倍前後の容量を自前で生み出した形となる。
公開資料では、太陽光や蓄電池で足りない場合はオランダのガス網を利用する発電機が補完する。すべてのシステムが機能しない場合のみ3層目のディーゼル発電機が稼働する。この発電機は再生可能ディーゼル燃料「HVO100」で動く。太陽光、蓄電池、発電機を組み合わせた三重の冗長性により、設計上99.9%の信頼性を確保した。
オランダの物流不動産の3分の2は、送電網の容量不足によって、このまま電気を増やせない地域にある。同国では24年末に新しいエネルギー法が成立し本年1月に施行されており、近隣企業同士で電力契約をまとめて柔軟に使う仕組みも整いつつある。
DC4とDC5の特徴を整理すると次の通りである。
▲次世代施設スペック表
日本企業はどう向き合うか
これらの取り組みは、日本企業にとってどんな意味を持つのか。手がかりを得るために、オランダで進むもう一つの規制対応も見ておきたい。
オランダの開発を阻むもう一つの問題が、窒素規制だ。工事現場でディーゼル重機を動かすと窒素酸化物が出て、自然保護区域の生態系に影響を与える。19年にオランダ最高行政裁判所がこの問題を厳しく扱う判決を出して以降、EUが指定する自然保護区域「Natura 2000」に影響する事業は、窒素排出の細かな評価を経なければ許可が下りなくなった。
プロロジスによれば、以前は許可申請を含めて2年で進められた新規開発が、今は3年、場合によっては5年もかかる。窒素規制だけが要因ではないが、開発を複雑にする大きな一因となっている。
欧州開発管理部門責任者のファン・コーイ氏は、こうした制約下では将来を見据えた用地選定が重要さを増していると話した。またネットゼロ仕様は任意の機能ではなく、顧客の持続可能性への目標達成に向けた取り組みによる市場標準だという。物流資産の競争力や価値を維持し陳腐化のリスクを減らすために不可欠だと説明する。
同社は、環境体制への対応を建物が古くなって価値を失うことを防ぐための投資と位置付けている。
▲プロロジスのファン・コーイ氏
ここで冒頭の問いに戻る。日本の荷主企業がCLO制度を入り口に拠点戦略を見直すなら、オランダの事例が示す方向は明確だ。倉庫は単なる保管場所を超え、入居企業の事業継続と脱炭素を支える経営資産となる。施設の電力確保、再生可能エネルギーの調達、災害時にも事業を続ける備え(BCP=事業継続計画)といった条件が、物流拠点を選ぶ際の判断材料に加わってくる。
ファン・コーイ氏は本誌に対し、物流施設を「サプライチェーンを支える欠かせない解決策」と位置付け、数十年使われる建物だからこそ景観や働く環境にも責任があると語った。
もちろん、設備の費用負担や法律上の整理など、日本で同様の取り組みを進めるための課題は残る。それでも、倉庫を「荷物を置く場所」から「事業の継続と環境対応を支える経営資産」へと位置付け直す動きは、すでに始まっている。オランダの事例は、日本の荷主企業や物流会社にも、その問いを投げかけている。(菊地靖)
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