ロジスティクス宅配便の受け取りは、対面から置き配などの非対面へ移りつつある。国は宅配ボックスや置き配を含む多様な受取方法の利用率を、2030年度に5割程度へ引き上げる目標を置く。その宅配網で、対面の手渡しを販促に使う実証「こねこのお便り」が14日に発表された。仕掛けたのは、PRM(パートナー関係管理)システムを手がけるパートナープロップ(東京都千代田区)で、ヤマト運輸のセールスドライバーが地域の法人や店舗へ販促物を手渡しで届ける。参加企業にはSansanや出前館が名を連ねる。非対面が広がる一方で、対面の接点を販促に使う動きが出てきた。ヤマトはこの接点をどう生かすのか。(編集委員・刈屋大輔)
手渡しの先は法人と店舗
施策を組み立てるのはパートナープロップで、現場で動くのはヤマトのセールスドライバーだ。企業ごとに目的を決め、ドライバーがクーポンやチラシを渡し、サービスを短く説明する。選択式の質問で反応を聞き、店先や現場の様子を写真に収める場合もある。得られた反応は報告書にまとめ、利用企業へ返す。
事例は2件が公表されている。法人向けSaaSの企業は、九州の都市部で法人のバックオフィス部門の担当者に声をかけてサービスを紹介した。紹介から問い合わせにつながった割合は10%で、パートナープロップの紹介ページには「九州都市部の一部エリアでの初期実績」との注記が付く。バックオフィス向けクラウドサービスの企業は、静岡で事業所にセミナーの案内を手渡しした。
訪問先は法人と店舗で、個人宅への言及はない。集荷先か配達先かも、接触が日常の集配の延長か専用の訪問かも、公表資料には書かれていない。ただ、同ページの事例説明には「日々顔を合わせる」ドライバーという表現があり、担当者に声をかける動きも見える。集荷先や法人宛ての配達先が顧客設定の中心ではないか。対象エリアは市区町村単位で指定し、マッチングを経て実施する。今後は対象業界とエリアの拡大を検討するという。
なお、10%は、紹介した参加企業への問い合わせの割合で、ヤマトの集荷契約に結びついた数字ではない。分母が紹介件数か接触件数かも明かされていない。
置き配で得る余力を営業へ回す
受け取りの非対面化は、数字の上でも進む。国土交通省が7月10日に公表した調査では、置き配や宅配ボックスなど多様な受取方法の利用率は、大手3社で31.0%だった。25年2月の25.6%から5ポイント余り上がっている。再配達率は大手6社で7.6%となり、25年10月から0.7ポイント下がった。国の方針は対面の廃止ではなく、対面に加えて選べる環境を整える点にある。個人宅向けの配達では、非対面が今後も増えるとみられる。
ヤマトの経営方針は、この流れと対立していない。ヤマトホールディングスの「統合レポート2025」では、ヤマト運輸の社長が、ここ数年でセールスドライバーが営業に注ぐ力が衰えたとの危機感を示した。経営資源を顧客との接点に寄せ、対面で得た情報を事業機会に生かすという。本社部門のスリム化に加え、間接業務の効率化や置き配の推進で捻出した資源を、営業の強化に回す方針だ。ドライバーは25年3月末で5.4万人にのぼる。営業の主な対象は、単価が相対的に高い小口法人と個人。大口法人を担う法人部門は、数量を追わず、付加価値に見合う価格への適正化を進める。
置き配が配達の手間を減らし、浮いた力を営業に向ける。レポートの筋書きはこうなる。ただ、置き配がどれだけの余力を生むのかを示す数字は、レポートに見当たらない。
生かし方は自社か他社か
ヤマト自身の営業と、他社の販促を受ける今回の仕組みは、別の話だ。前者は宅急便を売る営業で、後者は第三者が設計した販促をドライバーが担う。接点は同じでも、収益の入り方は違うのだろう。
ヤマトは収益構成の変革を掲げる。26年3月期は、宅配便3商品の取扱個数が19億4,115万個で1.0%減った。うち大口法人向けは3.7%減の10億2950万個だった。それでも営業収益は5.8%増の1兆8%656億円に伸びた。
関係者によると、ヤマトが扱う大口荷主の中には、年間の取扱個数が2億-3億個に上るとみられる取引先もある。特定の顧客への比重が大きい構図は、価格交渉でも数量でも、ヤマトの選択肢を狭めかねない。顧客の層を広げていくことが課題になる中で、今回の「こねこのお便り」のような取り組みは、小口法人との接点を増やす手段の一つになり得る。
ただし、ヤマト側の狙いも、接点が集荷契約にどれだけ結びつくかも、現時点では公表されていない。接触の場面、既存の取引先に限るのか、ドライバーの負荷と報酬は、今後の取材で確かめたい点だ。置き配で生まれる余力が自社の営業に向かうのか。それとも他社の販促に貸し出されるだけで終わるのか。実証の結果と、対象業界やエリアの拡大が、その分かれ目になるのだろう。
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