ロジスティクス銀行員から転身し、求荷求車マッチングサービス「トラボックス」の立ち上げに参画した、トラボックス取締役会長、吉岡泰一郎氏。創業以来、25年にわたって運送業と関わってきた吉岡氏が一念発起し、54歳にして大型免許の取得に挑戦。その顛末を吉岡氏自身の手記で紹介します。
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大手銀行からトラック運送の世界に転身!

▲トラボックス取締役会長、吉岡泰一郎氏
25年前、私は7年間勤めた住友銀行(現:三井住友銀行)を退職し、トラボックスの創業メンバーに加わった。当時、世の中は終身雇用が大前提で、銀行を転職をする人は数少なく、珍しい存在だった。退職者が出るとなると、部長が責任を問われるくらいの珍しい話だったと聞く。
1999年当時、当然ながら、トラボックスのことは誰も知らない。誰もが知る都市銀行から無名のトラボックスに入社したため、仕事で出会う運送会社の経営者から、開口一番に「なぜ、エリートの銀行マンが運送業界に来たんだ?」といった質問を受けたことは数知れない。また、「どうせ、トラックに乗って東京から大阪に行ったこともないんだろ?」と、トラック運送との関わりの浅さをあげつらわれたこともある。全く畑違いの世界から入ってきた自分は、運送業界の人たちに受け入れてもらえないのかと、悔しい思いをしたこと何度もあった。25年間トラック運送と関わり続けてきても、そうした言葉や、自分はトラックを運転できないのだという想いがいつも心のどこかに残っていた。
2024年10月27日、私は富士スピードウェイで行われた「トラックショー」に参加した。ご存じの方も多いと思うが、これは大型トラックがサーキットを走るイベントで、滑走しているトラックの大半は知り合いの会社だ。それもそのはず、その年の「トラックショー」への出走(1台4万円)を案内した運送会社の多くは、私がイベントを紹介・案内したところだったのだ。
大型トラックを運転してみたい!
サーキットを颯爽と走るトラックはもちろん格好良い。さらにドライバーは、駐車場に帰ってくると、指示された決して広くないスペースに一発で整列駐車する。車体の長いトラックを思いのままに操るドライバーの姿は輝いて見えた。
私の胸の中に燻っていた、「大型トラックを運転してみたい!」という思いが溢れ出てきたのはその光景を見たときだった。

▲トラックショーで、フジトランスポートの松岡弘晃社長(中央)と。後ろにずらりと並ぶフジの車両が壮観。
戻ってきた一台のトラックを、追っかけのように写真を撮っている女性がいた。近づいてみると、知り合いの運送会社の女性社長で、自社のトラックとドライバーにスマホを向け、何枚も何枚も撮影をしていた。その様子を見ていた私に気づくと、彼女は「吉岡さん、来年うちのトラックに乗ってよ!」という。「運転してくれたら、私が荷台で踊るから!」というから、もちろん冗談なのだろうが、「社長、本当に運転させてくれるの?」と少しだけやってみたい気持ちがあった。
サーキットは私有地なので、トラックの運転に免許は必要ない。しかし、それでは意味がないのではないか。子どもが遊園地のゴーカートに乗りたがるように、その時の私もトラックに乗ってサーキットを走ってみたいという抑えがたい気持ちがあった。しかし私には、長年トラボックスで、大型免許を持ったプロのトラックドライバー達と対峙してきたというプライドもある。
その時私は思ったのだ。「大型トラックの免許を取りたい!!」と。
トラックと関わるようになって25年間。その間は忙しくて免許を取得するだけの、まとまった時間が取れなかったという言い訳もできるが、今は時間がある。問題はもはや「やれるかどうか」、ではなく「やるかどうか」という段階に来ているのだ。
<続く>
>>第2回「大型免許を取る!」と大勢の前で豪語、退路を断つ
>>第3回「54歳、初めての大型トラック運転!」
>>第4回「教習所に慣れられず、毎度緊張しながら続く教習…」
>>第5回「試練の大型仮免試験、その結果は…」
>>第6回「路上実習スタート!ドライバーへの敬意深まる」
トラボックス・吉岡氏も登壇、トラック輸送業界とドライバーを支援する全国キャラバン「運びと地位向上全国キャラバン2025」始動!
2024年問題や燃油費高騰、なかなか進まないコスト高の運賃への転嫁など、トラック運送業は数々の課題を抱えています。また、法令順守と罰則の厳格化やますます進む物流業界のM&Aで運送事業者自体も減っていくと言われています。
そうした流れでトラックドライバーまでが減ってしまっては、未来の物流は成り立ちませんが、行政による手当も不十分と言わざるを得ません。
本誌では、これからもより多くの人がトラックドライバーとして活躍できる社会を後押しすべく、物流に関わる一人一人が学びを得られる場として「運びと地位向上全国キャラバン2025」を開始します。全30回を予定しているこのキャラバンの第1回が大阪で開催されます。連載に手記を寄せていただいた吉岡氏も大阪開催の第1回に登壇。第2回は東京での開催となります。
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