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運送業の企業価値を確認し、経営の選択肢を確保する

2026年9月15日 (火)

話題「M&Aなんて身売りのようで気が進まない」「いずれ息子に継がせるから、うちには関係ない」「まだ資金繰りは回っているから大丈夫」——。

中小規模のトラック運送事業者の経営者から話を聞くと、このような声を耳にすることが少なくない。経営者仲間で「あそこの会社はいくらで売れたらしい」という噂話は出回るものの、いざ「自社の本当の企業価値はいくらなのか?」と問われると、正確に答えられる人はごく一部だろう。

その背景には、「自社の企業価値を算定する=M&Aで会社を売る」と直結して考えてしまい、無意識のうちに算定を避けてしまう経営者の心理がある。日本M&Aセンター地域産業戦略事業部の平井一樹氏は、会社を手放すことに対する経営者の複雑な胸中についてこう語る。

▲日本M&Aセンター地域産業戦略事業部の平井一樹氏

「M&Aの決断は『娘を嫁に出す』のと同じ。経営者の方であっても、最終契約にハンコを押すその日まで心が揺れ動き、『やっぱり売らない』という選択肢を常に探し続けてしまうのが実情」

それほどまでに心理的ハードルが高いからこそ、「企業価値の目安を知ること」と「会社を売ること」を切り離して考える必要がある。いざという時に感情に流されず冷静な判断を下すためにも、あるいは事業承継の備えとして、あらかじめ自社の企業価値の目安を把握しておくことは、生き残るための「選択肢」を残す重要なプロセスなのだ。

なぜ今、自社の企業価値の目安を確認する必要があるのか?2つのケーススタディ

経営者が自社の企業価値の目安を知るべき理由は、大きく分けて2つ考えられる。

一つ目は、子供への事業承継を控えているケースだ。子供に継がせるに当たって自社の企業価値を把握している、と考えている経営者の多くは、銀行などに依頼して算出した「相続税評価」をベースにしている。だが、日本M&Aセンターのコーポレートアドバイザー部で部長を務める公認会計士の羽田寬芳氏は、税務上の評価と企業価値の違いを指摘する。

▲同社コーポレートアドバイザー部部長で公認会計士の羽田寬芳氏

「税務上の評価と、実際のM&A市場で評価される実態収益力に基づいた企業価値は異なります。将来、後継者が事業を継いだ後に『単独で生き残るか、大手グループの傘下に入って成長を目指すか』の判断を迫られた際、実際のM&A市場における企業価値の相場観を知っておくことは経営判断を行う上で重要となります」

「リースバック」が招くM&Aの足かせ

もう一つの理由は、経営が切羽詰まる前の防衛策、「健康診断」としての意味合いだ。「もう後がない」という状況に陥ってからでは、買い叩かれるリスクが一気に高まる。同社コーポレートアドバイザー部所属の公認会計士である北川雅朗氏は、手遅れになる典型的なパターンとして「車両のリースバック」を挙げる。

▲同社コーポレートアドバイザー部所属の公認会計士、北川雅朗氏

「資金繰りが苦しくなり、車両をリースバックしてしまう運送事業者は少なくありません。しかし、そうなると毎月のリース料が利益を圧迫し、M&Aの際にも高い株価がつきにくい傾向があります。さらに、買い手が現れても個人保証が外れにくいケースもあり、M&Aのメリット自体が薄まってしまう可能性があります。」

身動きが取れなくなる前に、現在の企業価値の相場観を知り、提携や資本受け入れなど幅広い選択肢を取れる状況を確保しておくことは有益であるといえる。

決算書だけでは見えない「運送業特有」の評価軸

では、一般的に、運送会社の企業価値はどのように試算されるのだろうか。羽田氏によれば、「ベースとなるのはあくまで決算書(BS/PL)であり、最も重視されるのは『正常収益力』」だという。しかし、決算書の数字をそのまま利用するわけではない。

トラックの「含み益」と運送業ならではの資産価値

例えば、隠れた含み益は見逃せない要素だ。「運送業の場合、大型トラックの税務上の減価償却は5年と早いのですが、現場ではそれよりも長く利用しているケースがあります。そのため、帳簿上の価値(簿価)は低くても、中古市場に基づく時価で算出した場合、『簿価1円のトラックが700万円で売れる』といったケースも見受けられます」

また、中小企業特有の事情も考慮され、本当の儲けを測るための「調整後利益」の算出も行われる。「節税のための保険料や、過大な役員報酬、オーナーの私的費用などを足し戻し、それらを外した上で『本来いくら儲かっているのか(調整後利益)』を計算することが重要」

事業許可更新制の導入と「一発破談」のリスク

さらに、自社の企業価値を上げる要素や、一発で破談になるリスクも存在する。価値を跳ね上げるプラス要素として、平井氏は「直荷取引があり、自社で実運送を行っていること」に加え、大型の車両や倉庫を保有していることを挙げる。荷主と強い結びつきを持ちながら、車両などのハードを含めて一定の物流能力を保持していることは、大きな企業価値を持つ。特に大型車両については、「需要の高い冷凍冷蔵車、汎用性の高いウィング車をそれぞれ20-30台規模で保有していると、新車が買いにくくなっている昨今では、買い手にとって非常に魅力的」だという。

一方で、決算書には表れない致命的なマイナス要素もある。

「就業規則が未整備だったり、従業員に健康診断を受けさせていなかったりする労務管理の脆弱性は、買った後に管理コストとして跳ね返るため株価の減額要因になります。自社インタンク由来の土壌汚染による潜在債務が発生したケースなども実際にあります。重大事故歴の未開示などは、後から発覚すると一気に買い手の信頼を失い、破談に直結します。ネガティブな要素ほど、入り口で正直に伝えることが何より重要です」

買い手が運送事業者であれば、運送業界がどんなものなのかは知っている。多少のキズは織り込まれているものと考えて、ネガティブな情報は早めに伝え、オープンな関係で交渉を進めた方がよいようだ。

なぜ「専門家の目」が必要なのか? 経営者を守る“客観的ドキュメント”の力

ここまで見てきたように、運送業の企業価値算定は非常に専門性が高い。減価償却が終わった車両の含み益(会計・税務)や、未払い残業代・環境リスクの精査(法務)など、複数の専門知識が複雑に絡み合う。

「もちろん株価の土台は決算書ですが、単にそこから売り上げや利益ベースで計算するのでは不十分です。中小企業は基本的に税務会計を行っているため、専門家がそれを財務会計に引き直し、決算書に表れないリスクも含めて実態を見極める必要があります」

▲M&A件数は長期的に増加傾向(出所:日本M&AセンターHPより)

さらに昨今の運送業界では、事業許可更新制の施行を控え、法規制の厳格化が進むとみられている。コンプライアンス違反は単なる評価減にとどまらず、事業継続そのものを揺るがす致命的なリスクだ。だからこそ、中小企業といえども法務面でのガバナンス強化が強く求められている。

そのため日本M&Aセンターでは、税務・財務のプロフェッショナルである公認会計士や税理士が収益力や資産を分析するだけでなく、コンプライアンス面の厳格なチェックを行えるよう弁護士とも密に連携。M&Aの初期段階で、企業価値の試算を行い、株価の目安を把握するためのサポートを行っている。

不当な買い叩きから身を守る「客観的ドキュメント」の力

こうして作られた株価分析資料は、買い叩かれないための「盾」としての価値を持つ。経営者が「うちは直荷が多い」「ドライバーが優秀だ」と口頭でアピールしても、それだけでは買い手は適正な価格をつけてくれない。士業チームの目を通じて強みとリスクを数値化し、「企業概要書」や「企業評価書」という客観的なドキュメント(資料)に落とし込んでおくことは、適切な経営判断を行う上で、非常に有益であるといえる。

激変する市場トレンド、選ばれる企業になるために

M&A市場のトレンドも劇的に変化している。平井氏によれば、2024年以前は「2024年問題により長距離の運行が難しくなることを見越して、とにかく拠点が欲しい」という買い手が多く、財務が悪くても売れやすい売り手市場だった。

「しかし2024年以降は、『拠点+財務の健全性』の両方が求められるようになり、良い会社は希少で『相手を選べる立場』になる一方、そうでない企業には厳しい目が向けられています。堅実に毎期利益を確保している会社が何より評価されます」

エリアで言えば、交通アクセスの課題から拠点の希少性が高い「長野県」などが現在非常に強い需要を集めているという。平井氏は、今後は少なくとも車両30台以上、売上7-10億円規模への成長や、組織経営の成熟がないと、望む条件での提携は難しくなっていくと予想する。

2年に一度の「経営の定期検診」を

企業価値は、市況や日々の経営努力によって常に変動している。だからこそ、企業価値の相場観を定期的に測る習慣が必要だ。

「M&Aは結局、縁とタイミング。だからこそ、日頃から自社の価値の目安を意識しておくことが大切です。当社の場合、買い手側のニーズを熟知した数百人の担当者が案件を見るため、『こんな良いお相手を見つけてくれるのか』と驚かれるマッチングが強みです。そんなワクワクするような成長戦略を一緒に描いていきたいですね」

「今すぐ売るつもりはない」という企業であっても、自社の現在地を知ることは経営の強力な羅針盤となる。日本M&Aセンターでは現在、専門家が直接監修する「簡易株式価値分析」の無料キャンペーンを実施している。

「あの時、調べておけばよかった」と後悔する前に。2年後、3年後の自社の未来を描くための「経営の定期検診」として、この機会を活用してみてはどうだろう。

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