話題通関業務を根底から覆す技術が本格稼働を開始した。日本電気(NEC)は、AI(人工知能)を活用した税番特定支援サービスを大幅に機能強化した。
この刷新は、単なる現場の作業負担軽減にとどまらない。画像解析をはじめとする5つの新機能の追加により、専門知識を持たない営業部門や荷主企業でも直感的な操作を実現した。

▲税番判定サポートサービスの5つの機能(出所:NEC)
長年ブラックボックス化していた貿易実務の属人化を解消し、コンプライアンス強化や関税コスト最適化に直結する。物流業界の全体最適を促す強力な起爆剤となるニュースだ。
現場の切実な声に応えた5つの新機能
今回の刷新における最大のポイントは、実務現場の切実な声に徹底的に応えた5つの新機能の追加だ。輸出入取引における税番の特定は専門的な知識を要し、誤った番号を適用すれば関税の過不足や通関遅延といった深刻なリスクに直結する。
最大の目玉は、商品画像やファイルからの直接判定機能だ。利用者が製品カタログのPDFや写真をシステムに読み込ませると、AIが自動で内容を解析し、税番の候補を瞬時に提示する。これまでは実行関税率表を確認しながら、製品情報を読み解き、熟練者が時間をかけて確認する手作業に依存していたが、成分や形状といった言語化しにくい細かなニュアンスもAIが直接識別できるようになった。
同社ロジスティクスソリューション統括部の石渡竜也主任は、「利用者の要望が極めて多く、誰でも簡単に操作できる環境を整えた」と自信を見せる。税番を正しく提示するための、AIの“コーチング”(調整)には多くの時間を費やしたという。

▲NECの石渡竜也主任
2つ目は一括判定機能だ。大量の製品情報が記載されたインボイスなどのファイルを一括で読み込み、全件をバックグラウンドで自動判定する。商社などが新規商材を大量に扱う場面で絶大な威力を発揮し、新しい仕入れ先を開拓した際の膨大な処理時間を数分で完結させる。
3つ目は税率の表示機能だ。判定した税番にひも付く関税率を画面上に即座に表示し、税番判定と併せて瞬時に確認できる。これも現場からの要望が高く、迅速な意思決定を力強く後押しする。
4つ目は判定結果のデータベース記録機能だ。AIによる判定結果を自社固有のデータベースに保存し蓄積するもので、案件情報や輸入情報も併せて登録できる仕組みを備えた。社内の独自コードとひも付けた検索を実現し、これまで個人が紙や表計算ソフトに控えていた情報をシステム内で一元管理する。蓄積したデータを次回判定時の高精度化に役立て、業務の属人化を防ぐ狙いがある。
5つ目は判定履歴の自動保存機能だ。誰がいつどのような税番を検索したかを自動で記録し可視化する。石渡主任はこの履歴トレースが重要だと強調しており、従業員がどの品目で検索を繰り返しているかを把握することで、利用傾向を分析し、特定品目の重点指導など社内教育に直接活用できる。
通関士にとどまらない営業と荷主への価値
これら5つの機能強化は、通関部門を超えて恩恵をもたらす。営業や企画部門の担当者が自らAI税番判定を活用することで、顧客からの問い合わせに対して即時回答が可能となる。これまでは営業担当者が税番を特定できず、通関部門へ都度確認を依頼する手間が生じていた。顧客、営業、通関部門の間で幾度もやり取りを重ねる伝言ゲームが発生していたが、この悪循環を完全に断ち切る。迅速な見積もり提示を実現し、新規案件の獲得に直結させる。
荷主企業へのインパクトも大きい。自社で税番の判定根拠や履歴を蓄積・管理することで、追徴課税リスクを回避し、コンプライアンスを強く担保できるからだ。各種法規制への対応が厳しさを増すなか、事前の確実な税番特定は避けて通ることはできない。関税シミュレーションを通じたコスト最適化という経営的価値も生み出す。
実際に、米国へ荷揚げしメキシコで製造を行う際など、素材ごとの関税特定に頭を悩ませる荷主企業は少なくない。こうした現場の課題感に対し、石渡主任は「自社通関に至らずとも税番管理の重要性に気づく荷主は今後確実に増える」と指摘する。現在の利用者は物流事業者が6割を占めるが、荷主からの引き合いも確実に増加傾向を示している。
システムを導入しても活用ビジョンを描ききれない顧客も存在する。同社はそのような企業に対してカスタマーサクセス部隊を伴走させ、単にツールを導入して終わりにはしない。最適なシステムの活用方法を提案し、目指すゴールへ向けて業務の定着までを徹底的に支援する体制を構築した。
巨大荷主としての知見とセキュアなシステム設計
通関業務を取り巻く環境は激変のさなかにある。越境EC(電子商取引)の拡大などで輸出入件数が増加の一途をたどる半面、通関士試験の受験者数は減少傾向を示している。現場の高齢化や労働生産人口の減少が進むなか、アナログな業務プロセスではいずれ限界を迎える。石渡主任自身も元物流会社出身であり、現場の過酷な労働環境や属人化を目の当たりにしてきた。この強い危機感こそが開発を牽引した原動力だ。

▲通関業務を取り巻く環境(出所:NEC)
市場の類似システムと一線を画す同社の圧倒的な優位性は、情報処理の確実性と安全性の両立にある。石渡主任は、税番判定は非常にセンシティブな話題だと指摘する。AIが無作為に間違った情報を学習する危険性を排除するため、ロジック処理も活用している。利用者がデータベースに登録した正しい情報のみをAIが参照し、論理的な裏付けをもって判定する独自の枠組みを採用した。他社が登録した情報が混入し、自社の独自情報が外部に漏洩するリスクを未然に防いでいる。
同社自身がグローバルに製品を展開する電機メーカーであり、膨大な貿易業務を抱える巨大な荷主の側面も併せ持つ。自らの荷主としての税番の重要性を理解していることが、製品の信頼性と使い勝手のよさを裏付けている。
行政の動きと連動し攻めの物流DXを牽引
行政も国土交通省や経済産業省が中心となり、サイバーポートの利用拡大を掲げている。官民一体で貿易DX(デジタルトランスフォーメーション)を強力に推進し、各企業にハッパをかける動きが活発化している。
今後は原産地証明の取得など、より複雑な業務領域への対応を見据える。原産地証明の手続きは難解な文章を読み解く必要があり、現場の負荷がとりわけ大きい。同社の狙いは現場の作業負担軽減にとどまらず、創出した余剰時間を関税シミュレーションや事業戦略の立案に振り向け、攻めの物流DXの実現を究極の目標に据えている。
石渡主任は、AI税番判定に対する現場の反応が真っ二つに分かれると明言する。AIを導入して変革を進める企業と、オペレーションの限界を感じつつも、既存オペレーションの変革に消極的な企業の二極化だ。従来のやり方に固執してオペレーションの限界を迎えるか、生成AIと賢く付き合い次の世代へ技術を継承するかの重大な局面に立つ。
「『今変わらなければ確実に取り残される』という強いメッセージを発信し、危機感を持ってもらいたい。物流は社会的意義が極めて高い領域だ。システムを提供する立場を超え、先人たちの築き上げたものをリスペクトしつつ、物流業界全体が良くなる方向へともに歩んでいく」と石渡主任は強い意気込みを語る。
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