ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

霞ヶ関キャピタルが「ベンチャー魂」で挑む次の次の物流

物流未開拓地へ「大手がやらないならそこに行く」

2026年9月15日 (火)

話題物流施設の開発競争が続くなか、霞ヶ関キャピタルは少し違う場所を走ってきた。

冷凍冷蔵倉庫に本格参入し、自動化を進め、さらに1パレット単位の小口・短期保管を可能にする「COLD X NETWORK」へと事業領域を広げる。足元では危険物対応や常温倉庫の自動化にも視線を向けている。

共通しているのは、「すでに市場があるところ」へ後から入るのではなく、必要とされているにもかかわらず、まだ十分なサービスが存在しない領域を探していることだ。

霞ヶ関キャピタル副社長COO兼インフライノベーション事業本部本部長でX NETWORK(クロスネットワーク、東京都千代田区)社長を兼ねる杉本亮氏は、その考え方をこう表現する。

「大手と戦っても資本力では勝てない。だから大手と違う戦い方をしないと生き残っていけない。そういう切迫感はあった」

いまや冷凍冷蔵物流で存在感を高める霞ヶ関キャピタルは、なぜ誰も踏み込まなかった市場に賭けることができたのか。先進的な個々の施設やサービスのスペックに注目が集まるが、あえて今回は、その根底にある「判断の型」について探ってみる。

▲杉本亮氏

「日本だけない」は、本当に成立しない理由なのか

杉本氏が霞ヶ関キャピタルに入社し、冷凍冷蔵倉庫の開発を始めたのは6年ほど前。前職でも冷凍倉庫への投資や、築年数を経た冷凍倉庫を改修して賃貸する事業に携わり、手応えを得ていた。

一方、当時の国内物流不動産市場では大型のドライ倉庫が成長を続けていた。冷凍冷蔵施設は建築費が高く、設備や運用も複雑だ。「ニーズはあるが、本当に事業として成立するのか」。周囲からはそんな反応が多かったという。

杉本氏が見ていたのは、日本市場だけではなかった。

北米では冷凍倉庫の賃貸市場が成立している。アジアにも欧州にもある。建築費がドライ倉庫より高く、その分賃料水準も高くなるという構造も各地域で共通していた。

「日本だけないというのは、そう考えると、そんなことはないだろうと。日本でも冷凍の物流不動産が進んだっておかしくないという確信めいたものはあった」

むしろ大手が参入していないことは、不安材料ではなく参入余地だった。

大手デベロッパーにとっては、成長するドライ倉庫に投資すれば十分に事業が成立していた時期。あえて難易度の高い冷凍冷蔵へ行く必然性が薄かったのではないか、と杉本氏は分析する。

逆に後発の霞ヶ関キャピタルには、同じ市場で真正面から競争する理由がなかった。

「大手がやっていない」は、やらない理由ではない。

霞ヶ関キャピタルにとっては、そこから検討が始まる。

ニッチを探しているのではない、「課題」を探している

同社の戦略は一見すると「ニッチ戦略」に映る。

しかし杉本氏は、「ニッチというか、課題にまだ手がつけられていない領域」と言い直す。

「課題を解決することが、勝機をつかめると思っている。ただ、他の人がそこを見ていないことが条件」

市場が小さいこと自体に価値があるわけではない。

誰も十分に手をつけていない。社会的な課題がある。そして解決したときに相応の市場規模がある。この条件が重なるところを狙う。

冷凍冷蔵もその一つだった。そもそも供給量が限られ、長期・大口契約を前提とするため賃貸利用のハードルも高く、既存施設の老朽化も進んでいた。

ここからさらに、X NETWORKが展開する冷凍保管サービス「COLD X NETWORK」における「短期・小口保管・WEB一元管理」が貢献できる領域へとつながる。

物流には波動がある。

繁忙期に合わせて大きなスペースを確保すれば、閑散期には空きが生じる。一方、必要な時だけ冷凍倉庫を追加で借りたくても、従来の倉庫利用では長期・大口契約が中心で、細かな需要変動を吸収できる選択肢は限られていた。

「本来は短期変動と固定を組み合わせていくのが最適な使い方だと思う。でも、それを提供できるプレイヤーがなかなかいない」

そこで霞ヶ関キャピタルは、施設を開発して貸すだけではなく、物流オペレーションそのものへ踏み込んだ。

「これを作りました、誰かやってくださいといっても対応できるプレイヤーが多くない。だったら自らやるか、と」

不動産会社が物流サービスの運営まで担う。

その越境も、最初から業態を拡大することが目的だったわけではない。「必要な仕組みを提供する人がいない」という課題から逆算した結果だった。

自動化が「使いたい分だけ」を可能にした

短期、小口、スポット。

利用者から見れば合理的だが、倉庫運営側にとっては厄介な条件でもある。多数の荷主の貨物を細かく受け入れ、保管場所を管理し、出荷指示に応じて正確に取り出さなければならない。

アナログなオペレーションのままでは、管理負荷が跳ね上がる。

そこで鍵になったのが自動化だった。同社は冷凍冷蔵物流施設「LOGI FLAG」ブランド内に、自動倉庫を組み込んだ「LOGI FLAG TECH」を開発し、24年に所沢と八戸で供給を開始した。

LOGI FLAG TECHはCOLD X NETWORKの拠点となり、「利用者は使いたい分だけ使える。数を制約条件として見ないサービス」を実現している。

1パレットでも100パレットでも102パレットでもいい。荷主側の必要量にサービス側を合わせる。

自動化によって「誰の荷物がどこにあるか」をシステムで管理できるようになったからこそ、小口・短期を大量に受け入れるモデルが現実になった。

所沢での実績を経て、名古屋港、東扇島へ

特に港湾部では、既存冷凍倉庫からあふれた貨物や、老朽施設の閉鎖に伴う移転需要など、利用者側から問い合わせが寄せられているという。所沢では自ら営業を仕掛けて需要を掘り起こしていたのに対し、ことし竣工の「LOGI FLAG TECH名古屋みなとI」(名古屋市港区)や「LOGI FLAG TECH東扇島I」(川崎市川崎区)では「利用できないか」と先方から声がかかるようになった。

それは、霞ヶ関キャピタルが新しい倉庫を造ったというだけではない。

これまで物流事業者や荷主が「仕方がない」と受け入れてきた保管のあり方そのものに、別の選択肢が生まれ始めたことを意味する。

▲「LOGI FLAG TECH東扇島I」

追いつかれる前に、「次の次」へ

当然、マーケットが成立すれば競合は増える。

大手デベロッパーが冷凍冷蔵施設へ参入し、自動化や小口保管といった同社の開拓領域を追随する可能性もある。

杉本氏は、それ自体を脅威とは捉えていない。

「冷凍倉庫の開発がうまくいって、大手が面白そうだと入ってくる時には、私たちはもう自動倉庫に行っている。自動化してサブスクが面白いと追随してくる時には、多分また違う事業を立ち上げている」

既存市場で競争が起きることは避けられない。

重要なのは、その場所にとどまらないことだ。

「一歩でも二歩でもリードし続けられている限り、ベンチャーとして生き残っていける」

今や冷凍冷蔵物流のトップランナーの1社である同社だが、判断の起点は変わらない。杉本氏が「ベンチャー魂」と呼ぶその感覚が、「次の次」を探し続ける霞ヶ関キャピタルの原動力になっている。

その言葉どおり、同社の視線はすでに冷凍冷蔵だけに向いているわけではない。常温倉庫の自動化、危険物保管、さらに複数の物流拠点をシステムでつなぐ構想へと広がっている。

ただし、テーマが変わっても判断基準は変わらない。

「誰かがやっているから」ではなく、「まだ誰も十分に解決していない課題があるか」

霞ヶ関キャピタルが探しているのは、ニッチ市場そのものではない。次に解くべき物流の不合理である。

倉庫は、もっと少ない人で動く

10年後の物流について尋ねると、杉本氏は具体的な未来予測には慎重だった。AIをはじめ技術の変化が速く、10年先を固定的に描くことは難しい。

それでも「これだけは間違いない」と語るものがある。自動化だ。

「倉庫の中で働く人はガクンと減って、自動化が進んでいる。10人、ロボット0だったものが、0対10にはならなくても、5対5なのか6対4なのか、その比率は別として、確実に自動化は進んでいると思う。冷凍冷蔵では特に」

冷凍冷蔵物流には、低温環境で働く人の負担、人手不足、施設の老朽化、需要波動への対応など、いくつもの課題が重なっている。

だからこそ、変化する余地も大きい。

だが、霞ヶ関キャピタルが見ているのは、倉庫の自動化だけではない。

杉本氏が語ったのが「物流OS」という構想だ。

イメージするのは、iPhoneとiOSの関係だという。倉庫という「ハコ」に共通のOSを組み込み、必要な機能を追加できるようにする。個別連携の手間やコストを抑え、利用者が機能を選択できる仕組みだ。そして全国の拠点をシステムでつなぎ、荷主がどこからでも預け入れや出荷を指示し、将来的には貨物の配置そのものをネットワーク全体で最適化する。

単体の倉庫を高性能化するだけではなく、「倉庫の集合体」を一つの物流インフラとして動かす発想である。

冷凍冷蔵へ参入し、自動化し、さらに短期・小口利用へ踏み込む。

一見すると個別の新規事業が次々に生まれているように見えるが、その根底には同じ問いがある。

「まだ誰も十分に解決していない課題はどこにあるのか」

その問いから次の事業を探し、必要であれば不動産会社という自らの業態さえ越えていく。

霞ヶ関キャピタルが目指しているのは、新しい物流施設を増やすことだけではない。施設のつくり方、使い方、つなぎ方まで含めて、物流インフラそのものを書き換えようとしている。

本誌では今後も、COLD X NETWORK、東扇島Iをはじめとする自動化拠点、新たな物流領域への挑戦などを通じて、杉本氏が語ったこの経営思想が、実際の施設やサービスにどう実装されているのかを追っていく。