国際米国トラック協会(ATA)が7日に公表した運転者報酬調査によると、貨物需要の低迷が長く続いた2025年にも、運転者の賃金は上昇していた。屋根付きの箱型荷台で一般貨物を運ぶ「ドライバン」のうち、路線を固定しない不定期運行の運転者は、年間報酬の中央値が7万3639ドル(1163万円)で、23年より8.3%増えた。日本の運転者とは大きな開きがある。為替を割り引いても残る差を分解すると、日本の運転者不足に打つべき手が見えてくる。(編集委員・刈屋大輔)
貨物不況下でも上がる米国
ドルの円換算は、10月2日の東京市場の水準に近い1ドル=158円で計算した。調査は、トラックを保有する130超の運送会社や荷主企業から、従業員運転者14万人超と独立請負運転者9000人分のデータを集めたものだ。
同じドライバンでも、特定の荷主向けに路線を固定する専用路線は23年比で4.2%増えた。自前の車両で運転する独立請負運転者の総報酬は、貸切輸送(トラックロード)の運送会社と契約する場合で17万ドル(2686万円)超、荷主企業の自社トラックで20万ドル(3160万円)超に上る。ただし、総報酬は燃料や車両の維持費を引く前の額であり、従業員運転者の賃金とは同列に比べられない。比較の基準は2023年で、対象事業者も調査ごとに異なる点には注意がいる。
ATAによると、過半数の事業者が26年にも賃上げを計画する。貸切輸送を担う運送会社の74%は、長時間の荷待ちに対して運転者へ手当を払った。
差の出どころは賃金の外にある
全日本トラック協会の25年5-7月調査(回答589社)では、男性運転者の1人1か月平均賃金が37万4900円で前年比4.1%増となり、賞与を月割りで加えた月額は42万3300円だった。12倍すると年508万円である。ただし回答率は12.7%にとどまり、前年比は幅をもって読む必要がある。大型は同44万1100円で、年換算では529万円になる。
同協会が厚生労働省の賃金構造基本統計調査(令和6年)をもとにまとめた資料では、年間所得は全産業平均を大型運転者で4%、中小型運転者で14%下回る。一方で働く時間は、全産業平均より大型で年408時間、中小型で年372時間長い。
米国のドライバンの中央値は、全ト協の年換算額の2倍を超える。米国は中央値で、日本は平均値、職種の構成も異なるため厳密な比較ではないが、桁違いの開きであることは動かない。
為替の影響は大きいが、それだけでは説明がつかない。25年のドル円相場は139円台から158円台まで動いた。最安値の139.86円で換算しても1030万円で、およそ2倍の差は残る。
手がかりは賃金の中身にある。大型運転者の賃金(賞与を除く)の46.1%は歩合給や残業代などの変動給で、そのうち残業代が47.2%を占める。
日本の運転者は、時間外労働で収入を積み上げてきたが、24年4月に残業の上限規制が始まり、この構造のまま労働時間だけが減れば、収入は目減りしかねない。ドライバーからは、残業規制で稼げなくなったとの声を聞く。ある運送会社の経営者は、1990年の規制緩和前は、業界全体で大型ドライバーが花形の仕事であり、年収1000万円を超える人もいたと振り返る。
米国には、荷待ちに手当を出す慣行と、独立請負の運転者が自前の車両で稼ぐ市場がある。日本で貨物輸送を有償で営むには一般貨物自動車運送事業の許可が要り、営業所ごとに5両以上の事業用自動車を置く基準がある。大型トラック1台での独立は認められていない。荷待ちは減らすことが先決だが、待機に対価を払わせる議論は緒に就いたばかりだ。
米国も安泰ではない。報道によると、ATAの研究部門ATRIは25年1-9月の運転者賃金の上昇率を2.4%と報告し、物価の伸びには届かなかった。それでも米国では、現場系職種(ブルーカラー)の賃金が事務系を上回って伸びているとの見方があり、運転者の賃上げもその流れにあるとみられる。
差を埋める道筋は運賃アップにしかない
賃金の原資は運賃である。25年6月に公布された改正貨物自動車運送事業法は、燃料費や人件費などを積み上げた「適正原価」を国が告示し、運賃がこれを下回らないようにする義務を、運送会社と、運送を委託する元請けに課した。標準的運賃に代わる仕組みで、人件費は全産業の労働者の平均賃金を踏まえて算定する。荷主も、原価割れの運賃での委託を続ければ是正指導の対象になり得る。告示は施行後3年以内を目途とする。全産業平均を下回る運転者の年間所得を、この水準が埋められるかが焦点になる。
米国の報酬は、待機への手当や独立請負の存在を含む市場の設計が積み上げたものである。日本が運転職を魅力ある職種に戻すには、賃上げ率の競争にとどまらず、残業に頼らなくても稼げる賃金体系と、待機や付帯作業に対価を払う取引慣行へ踏み込むほかない。賃金の上がる職種にならなければ、人は戻らないだろう。
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