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特別インタビュー 三木孝行氏(三井不動産執行役員・ロジスティクス本部長)

「三井不動産だからできることを伝えたい」

2016年8月22日 (月)
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話題三井不動産が物流施設開発事業に参入して5年目。この間、開発物件数は22物件に拡大した。投資総額も当初目標の2000億円を大幅に上回る3000億円に達する勢いだが、その裏には同社にしかできない開発手法があった。同社が何を考え、どんな工夫で取り組んできたのか、文字通りゼロから同社の物流施設開発事業を立ち上げ、育ててきた三木孝行・ロジスティクス本部長に聞いた。

――物流施設開発を手がけることになった契機は。

03三木孝行氏(以下、三木氏)    正式に事業参入を果たしたのは12年4月。それまで物流事業との接点はなかった。私はずっと商業施設事業に携わってきたが、埼玉県三郷市の「新三郷ららシティ」プロジェクトでは、取得した用地のなかに物流施設用地があったにもかかわらず、自社で物流施設を手がけるノウハウがまだなかったため、売却した。

■「EC拡大背景にSCM効率化ニーズ高まると判断」

――三井不動産のイメージ通りの対応だと思うが、そういう会社がなぜ物流に参入したのか。

三木孝行氏

▲三木孝行氏(三井不動産 執行役員・ロジスティクス本部長)

三木氏    すでにGLP(グローバル・ロジスティック・プロパティーズ)などの先行ディベロッパーが順調にビジネスを展開していた。一方でEC市場が急速に拡大しつつあり、それに従ってサプライチェーンマネジメントに取り組もうという企業の機運が高まり、物流を効率化していくニーズが高まると判断した。男性7人、女性2人の少ない人数ながら物流施設に取り組む組織として物流施設事業部を整え、スタートから半年後にはGLPとの共同事業として当社最初の物流施設「GLP・MFLP市川塩浜」(千葉県市川市)の着工を発表した。

<編集部>
GLP・三井不動産、市川市で大規模物流施設に着工
https://www.logi-today.com/57379(2012年12月13日掲載)

――参入前に思い描いた計画に対して、スタート後の状況は。

三木氏    参入のタイミングが良かった。今までの事業で培ってきた様々なチャネルを通じて、想定以上の豊富な土地情報が寄せられた。また、工事については物流施設開発では割と大きい部分を占めるが、これまで付き合ってきたゼネコンとの信頼関係を意識的に大切にしてきた。開発対象が物流に変わり、工事費が高騰する事業環境の中にあっても円滑に工事を発注できた理由がここにある。

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■「ビルで3000社、商業施設で2200社との関係が機能」

――土地、工事で三井不動産だからこそできる、という事業展開があったというのはわかったが、優良なテナントを誘致するリーシング力も欠かせない。

三木氏    三井不動産としてビル事業で3000社、商業施設でも2200社と賃貸借関係がある。これが他社にない「プラットフォーム」として機能したといえる。これらのテナント企業に対して営業活動を展開することができたのは、事業の立ち上げ段階にあって本当に大きかった。

――自身が商業施設事業出身という強みを活かせた。

06三木氏    旧知の企業も多く、営業しやすかったというのはある。スーパーや家電量販店などの小売大手に営業活動を行ったが、これらの企業は当社の商業施設「ららぽーと」のテナントとして強い結び付きがある。結果として多くが当社の物流施設を利用してくれている。

――開発中を含めて22の物流施設を展開するに至ったわけだが、課題はなかったのか。

三木氏    現状ではほぼ解決した課題と言えるが、工事費が13年から15年にかけて坪単価25万円だったのが30万円、35万円に膨らみ、40万円が見えてくるレベルまで上がっていった。これは事業開始当初の思惑と異なる点だったが、土地を買う際に工事費の上がり具合を見きわめながら行動したため、結果的に賃料などに転嫁することもなく、「工事費が高すぎて失敗した」という物件はない。

――競合他社も同じ事業環境だが、そういう環境下でどんな手を打てたのか。

07三木氏    われわれの工事の発注の仕方というのは、特定のゼネコンと付き合うというスタンスをとっている。価格コンペでその都度、発注先を決めるということをせず、3、4社のゼネコンに絞り、物件の大きさに応じて継続的に発注するということを作戦として当初から実行した。これによって、ゼネコンの創意工夫を引き出し、工事費全体が上昇傾向にあった中でも、比較的抑えて建設することができたと思う。

■「想定以上に物件数増え、体制整った」

――三井不動産の中期経営計画「イノベーション2017」を踏まえ、これまで取り組んできた4年間、できたこととできなかったことは。

三木氏    投資総額2000億円という目標を掲げていたが、想定以上に物件数が増えたことで3000億円に達した。リートについても17年に立ち上げるという計画を1年前倒しし、ことし8月2日に物流施設特化型リートとして「三井不動産ロジスティクスパーク投資法人」が東京証券取引所に上場した。当初思い描いた保有(賃貸)、開発(分譲)、マネジメントという領域でバランスよく事業を運営する体制が整ったといえる。

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■「テナントとともに新たな価値生み出そう、と」

――そういうなかで2016年3月に事業ステートメントを策定した。物流施設ディベロッパーとしては他社にない取り組みだが、狙いは。

三木氏    ちょうど3月で丸4年になり、竣工物件が増え、物流業界での活動も広がっていたわけだが、さらに進んだ考え方、方向感、事業に取り組む思いが重要だった。単純に「物をつくって貸すだけではなく、どこに価値観を見出すのか」を考え抜いた結果、「ともに、つなぐ。ともに、うみだす。」というステートメントになった。最も優先すべきは入居企業の皆さまのこと。課題解決パートナーとして、「多種多様なヒト・モノ・コトをつないでいき、何か新しい付加価値をともにうみだし、社会に貢献していこう」と。

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――事業ステートメントで表現した思いはどんなところに現れているのか。

三木氏    例えば東京都日野市の「MFLP日野」であれば、ハード面でのスペックはもちろんのこと、当社ショッピングモールの特別優待や、人材紹介会社と連携した雇用確保の取り組み、日野市と連携して託児所設置など。地域住民の避難所として活用できる機能を設置し、2万9300坪の敷地内に6000坪の緑地は、近隣向けに開放もしている。

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■「5つの取組みで“ほかにない”物流施設」

――6000坪の緑地は「付属施設」の域を超えていると思うが、MFLP日野でそういう「チャレンジ」を行っているのはわかった。ほかの施設はどうか。

三木氏    関西では大阪府茨木市で開発が進む「MFLP茨木」では、屋上テラスの設置や空調設備付きエリアの導入など「5つの取り組み」が進んでおり、これらによって「ほかにはない物流施設」が出現することになる。千葉県船橋市で開発している物件では、外壁に空(スカイ)のイメージをデザインしているが、この施設で働くことがプライドにつながれば、との思いから海外の設計者に加わってもらい、一般的な倉庫のイメージとは異なる工夫を取り入れる。

■インタビューを終えて
参入当初から先行他社とタイアップして汎用性の高い物流施設を提供し、機を見て意識統一を図ることでブランド力の向上につなげた戦略は見事。汎用性の高い物流施設に、開発に携わる社員の思い、こだわりを重ねていき、結果として施設の機能性を高める三木氏の戦略が奏功しているといえる。

一方で物流施設の特徴や物件オーナー側が施す工夫というのは、利用者である物流企業や荷主企業になかなか伝わりにくい面もある。テナント企業が物流業務を設計する際に根幹をなすポイントがありそうだ。

次回以降、首都圏や関西圏の物流施設について「三井不動産独自のこだわり」「さまざまなジャンルにきめ細かく対応する最新の機能」「どんな効果を得られるのか」といった、テナント企業が参考にすべき施設ごとの情報を明らかにしていく。

※編集部注
次回、「首都圏の基幹物流施設に施された独自手法」(2016年9月頃公開予定)をテーマに、MFLP日野を知り尽くした三井不動産の開発担当者に同施設の工夫や特徴、こだわりの機能を案内してもらいます。ご期待ください。

□三井不動産・企業データ□

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商号:三井不動産株式会社
本社:東京都中央区日本橋室町2丁目1番1号
設立:1941年7月15日
資本金:3397億6600万円
2015年度売上高:1兆5679億6900万円
株主数:3万568人(2016年3月31日現在)
従業員数:1332人(2016年3月31日現在)
TEL:03-3246-3131(代表)
ウェブサイトURL
http://www.mitsuifudosan.co.jp/

お問い合わせ先 https://www3.mitsuifudosan.co.jp/enquete/regulation.php?enqueteurl=809240f55538b11f8a47464591be463b