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物流業界に衝撃、一石”多鳥”のタクシー配送

2020年5月7日 (木)

話題国土交通省がタクシーの有償貨物運送を特例措置として5月13日まで認め、タクシー事業者が相次いで宅配事業に参入したことを受け、LogisticsToday編集パートナーの永田利紀氏がその背景や今後の展望を解説する。

MKタクシーが110円で飲食宅配、京都・札幌で28日から

タクシー大手のエムケイは24日、京都MKと札幌MKで28日から飲食店向けの宅配サービス「MKのタク配」を開始することを発表した。外出自粛要請などを受けて利用客が減少しているタクシー事業者向けに特例的に認可されたタクシーの有償貨物輸送許可を活用し、店舗から5キロ圏内の配送を5月6日まで1回110円(税込)で提供する。5月6日以降、特例措置の期限である13日までは1回550円(税込)で請け負うが、今後の状況により国土交通省がこの期限を延伸する可能性がある。
同社の「タク配」サービスでは、料理代金の精算を利用客と店舗が行うことを前提としているが、店舗側が料理と共に決済用のQRコードを用意すれば、宅配時に利用客が決済するところまで確認するという。(2020年4月27日掲載)

記事全文のURL▶https://www.logi-today.com/375443

寄稿「荷物と人と生活と」

書き手:永田利紀(LogisticsToday外部編集パートナー)

先日Logistics Todayに掲載された上記記事は、我々物流関係者に強烈なインパクト与えた。「貨客分離」という堅牢な壁に据えられた鉄城門が軋みながら開こうとしているからだ。未曽有の国難ともいえるコロナという名の疫病蔓延は、人々の暮らしに暗い影を落としているが、その中にあって一条の光とも評すべき動きが起こっている。

■ベクトルの変転

陸運・水運・空運の各分野で「貨物」と「旅客」は明確に区分されてきた。今ここでその理由や評価を問うても誰の利益にもならないので省く。役所の縦割りや、既得権益者たちの履歴を書き並べるよりも、開かれるだけでなく取り払われる可能性も否めなくなっている扉や壁なきあとを考えたい。「行政→業界→荷主」だった既存のベクトルは「荷主→行政→業界」と、向きだけでなく順序まで変えて、人々の生活の便宜向上へと大きく舵を切る。合理的で便利この上ない生活配送とも呼べる平易で単純な「混合・併用」を旨とする新サービス。試行の結果、その中身を評価する声が高まれば、もはや歯止めや足踏みの抗力は虚しい抵抗でしかなくなるだろう。

■ハコブとノセル

(出所:ANAカーゴ)

鉄道や船舶では貨客混載の流れが太くなりつつあることはあきらかだ。今回のウィルス蔓延による空車・空便の貨物転用は、旅客専用車両・機体の内部仕様を固定から可動式に変える強烈な契機となったはずだ。旅客機内でシートベルトに固定された荷物の画像を目にした方は少なくないだろう。その画のとおり、機体や車両を貨物や旅客のそれぞれに「専用」とすることが常だった。ゆえに積載効率や旅客効率は一定の上限に甘んじざるを得なかった。異を唱え規制緩和を申し出る者はいても、高い壁と厚い扉に阻まれたまま長い年月を経た。今回のタクシーだけでなく、引越便やチャーターの貨物便なども然りだ。「どうせなら引越便に住人も一緒に載せてゆけば喜ばれるのに」「送迎の前後に空車利用で荷物を届ければ効率がよい」などは禁忌の最たるものだった。ハコブやノセルの実務に支障がなくても、壁の両側に在る者には許されなかったのだ。

■誰かではなく誰でも

一定の制限や運用ルールの統一のもと、貨客混合もしくは併用されれば、さまざまなステークホルダーが出現するだろう。タクシー記事で既出の飲食業、最終配達業務に参入を試みる運輸関連企業もしくは異業種企業、規制緩和でニーズの高まる「貨客混載用車両」を製造する車両メーカーやカスタマイズ業者、介護や通院などの公的サービスもしくは自治体と連携する生協やネットスーパーなどの事業者による物品配達プラス近距離移動サービス。読者諸氏からも次々にアイデアや素案が寄せられそうで、心底ワクワクしてくる。貨客の垣根を取り払うことで、生活者である誰もが恩恵を享受できるのだとしたら、行政のなすべきは事の進展とその過程で事業者が道を誤らぬように見守ることに尽きる。

■ハードの透明化

▲宮崎県西米良村で3月に開始した村営バスの貨客混載事業(出所:西米良村ほか関係4社)

個配サービス関連のコラム(拙著:コハイのあした参照)でも述べたが、インフラ化する最終配達機能は多様性をともなって加速度的に拡がり深まってゆく。消費者はモノの配達手段とヒトの移動手段の線引きや区別を意識しなくなってゆく。バスに乗ろうがタクシーに乗ろうが、自身にはかかわりない荷物がトランクや荷台にあることはあたりまえだし、列車や飛行機の座席後部が貨物スペースであることにも違和感がなくなる。荷下ろしのために、旅客専用便よりも特定駅や停留所での停車時間が長いことも事前に了解して利用している…などのように。移動や運送する手段の別にこだわりを持つ人は少なくなってゆくかもしれない。特に生活圏における短距離・短時間の複合目的による混載・混合輸送サービスにおいては顕著となりそうだ。

■予想と期待を上回るプレーヤーたち

貨客分離の緩和による生活サービスの拡充と多様化は、現段階での予測や可能性の論議をことごとく上回る「想定外」に行き着いてほしいと願う。少子高齢化という人口動態の不可避の進行は、国内市場の硬直化や旧態依然を許さない切迫経済の到来を招くだろう。縮小しつつ成熟度を増す市場において、個人生活への内向は度合いを深める一方だろう。だからこそインフラ化できる共通や共用や共同などを冠するサービスは、地域や自治体単位での共有と共仕を第一に置かなければならない。地域住人の望まぬ孤立や孤独を抑止する無意識・無形のコミュニケーションが形成される際の芯材となるだろうし、実用的で利便性が高いという一石”多鳥”が望めるからだ。

緊急時の生活者サポートとして試行された時限緩和ではあるが、延長措置を経ての正式な規制改変となる可能性が非常に高い。本件については、今後も継続注視し、適宜の情報分析と解説を試みたいと思う。

■永田利紀氏やLogisticsToday編集部に対するご意見、ご感想をお待ちしています。下記メールアドレスまでご連絡ください。

LogisticsToday編集部
support@logi-today.com