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パンとおにぎり1個の食糧支援に「感謝しかない」

関越道立ち往生のトラック運転手、眠さ空腹限界に

2020年12月18日 (金)

▲積雪はタイヤがほぼすっぽり埋まる高さに(提供:富士運輸)

環境・CSR記録的な大雪により、新潟県内の関越自動車道では一時1000台以上の車両が立ち往生し、国土交通省や自衛隊の働きによって多くが18日未明までに「脱出」したものの、依然として100台超(18日6時時点、国交省調べ)が身動きできないでいる。動けなくなってからの時間が18日正午時点で30時間に達する中、滞留車列で一夜を過ごし、いまだ離脱の見通しが立たないという渦中にいる大型トラックのドライバーに話を聞くことができた。(赤澤裕介)

編集部追記(2020年12月18日)
「国土交通省や自衛隊の働きによって多くが18日未明までに「脱出」したものの、依然として100台超(18日6時時点、国交省調べ)が身動きできないでいる」とありますが、国交省の集計ミスで実際には、依然として「1000台程度」が立ち往生していることがわかりました。

幹線輸送で知られる富士運輸石川支店(石川県能美市)所属の青井さん(編集部の判断で下の名前は非公開、30)が、関越道で滞留に巻き込まれたのは、新潟県長岡市から埼玉方面に向かっていた17日朝7時30分頃。

(提供:富士運輸)

「その日は16日夜に石川支店を出発し、17日早朝に長岡で荷下ろしをして、次の荷物を積むために埼玉方面へ向かっていたところだった。事前に雪が降ることはわかっていたし、会社側からも注意喚起があったので、しっかり防寒具などを準備して乗務したが、まさかこれほど積もることになるとは」と振り返り、予想外の積雪量に驚いたという。

関越道上り線を利用し、六日町インターチェンジに近づいた17日7時30分頃、前方車両がハザードランプを点滅させていたため、車列の最後尾に着けた。その時点では「道路上の積雪量は10センチほどで、ゆっくり走ればそれほど走行に支障があるとは思わなかった」という。

しかし、青井さんのかなり前方の車列では、一気に降った雪のために身動きできない状態が始まっていた。当初は「そのうち動き出すだろうと考えていた」という青井さんの予想は外れ、待てど暮らせど車列が動く気配はなかった。石川支店の運行管理者と頻繁に連絡を取ることで関越道の全体的な情報は把握できるようになったが、同時に事態が深刻な状態に向かっていることも感じ取った。

一向に解消の気配がないまま、17日は暮れた。すでに道路上の積雪量は30センチを超えていた。あらかじめ準備していた食料は、スナック風の健康食品1本とスルメのみ。「いつ脱出できるかわからない以上、覚悟を決めて食糧を無駄にしないよう少しずつかじり、節約を意識した」。

道路を所管する国土交通省は、関越道で発生した車両の立ち往生に対し、NEXCO東日本と連携しながら除雪、Uターンを含む道路からの車両排除、ドライバーへの食糧支援に着手。17日19時に国交省が公開した情報によると、北陸地方整備局が食料と簡易トイレを配布するとともに、体調の聞き取りに当たっていたという。

(提供:富士運輸)

青井さんのもとに北陸地方整備局の支援が到着したのは、17日21時ごろ。「ようやく支援がきてくれたことで、ホッとした」というが、そのときには食糧は配布されず、500ミリリットル入りの水1本のみ。「それでもこんな積雪の中、来てくれたことがただありがたかった」という青井さんは、職員にその後の見通しを尋ねたが「解消のメドは立っていない。いつ動き出すかはなんともいえない状況」との返答で、さらに不安が増す結果に。

夜は更け日付も18日に変わって深夜1時ごろ、今度は数人の自衛隊員がパンとおにぎりを届けてくれた。しかし、「次はいつ食糧が配られるかわからないので、一度にすべて食べてしまうのはまずいと考えた」という青井さんは、後のことを考慮し、記者が電話で取材した18日正午前後の時点でもまだ半分以上残した状態だった。

(提供:富士運輸)

いつ動き出すかわからないという不安から、まともに眠ることができなかった。取材した時点で、身動きがとれなくなってすでに30時間が経過していた。睡眠不足、空腹、先の見通しが立たない——というストレスから、精神状態も限界に近づいていた。ただ、車両には布団が常備され、燃料も十分に補充して出発したため、車両の暖房をつけっぱなしで過ごすことができ、寒さで苦しむことはなかったという。

取材した時点でも滞留解消のメドは立たっていない。配られる食糧が少なく、ストレスが増したかを尋ねたところ、青井さんは「こんなに雪が積もる中、深夜にもかかわらず水や食糧を届けてくれた国土交通省の職員や自衛隊員には、感謝しかない。届けられた瞬間はぐっと感情がこみ上げ、見捨てられていないことがわかって希望が持てた」と感謝の言葉を口にした。

課題に感じていることは何か、という質問には「最大の敵は情報不足。先頭車両の状況を明確に知ることができない不安が、一番ストレスに感じた」と答えた。取材するしかできない記者の無力さをわび、電話を切った。

▲18日12時30分ごろの様子(提供:富士運輸)

こんなケースこそドローンに期待

取材記事にあるとおり、巻き込まれたすべてのドライバーを案じる次第だが、自衛隊・道路公団・国土交通省の夜を徹しての救助救援にもエールを送りたい。体調悪化者やけが人などの出ないことを祈ってやまない。

今痛感しているのは、このような事態こそ食料や生理・衛生に必要な諸品などの個別配送にはドローンが最適に違いないということだ。強風や吹雪の度合いにもよるのだろうが、高速道路側道部から短時間飛行での物資供給には、特段の装備や設えを必要としないはずの大型ドローンこそが相応しいと思えて仕方ない。

今回の急には間に合わないだろうが、今後の準備として省庁や業界団体が率先して手当てすることを切望する。(企画編集委員・永田利紀)