話題「東京流通センター(TRC)は、物流の丸の内だ」。これはある業界関係者の表現だが、なるほど、言い得て妙とはこのことか。
首都高速と環状七号線の交差点とも言える東京・平和島に竣工した延床面積20万2000平方メートルの物流拠点・TRC物流ビルA棟。その存在感は圧倒的であり、物流業界の中心地にどっしりと構えるインパクトは、物流適地を求めて都心から外へ外へと向かい、現在は郊外で開発のしのぎを削る他のデベロッパーとは、施設開発の思想そのものが違う。高度経済成長期の物流危機対応を設立契機とするTRCは、商流と物流の中心地から提言できるノウハウと説得力を持つだけに、冒頭の「物流の丸の内」というイメージも、納得できるのではないだろうか。
東京・平和島の東京モノレール「流通センター」駅前は、その駅名のとおり、TRCによって構築された1つの街である。「物流ビルA棟」「B棟」「C棟」「D棟」4つの物流施設を中核に、オフィス機能を司るセンタービルとアネックス棟、展示場、立体駐車場が集積し、コンビニ、飲食店、郵便局、ATMやクリニックを備えるなど、物流・流通事業者と構内で働く従業員にとって、圧倒的な利便性を誇る。
8月31日、この歴史ある物流の街で”顔役”を務めてきた物流ビルA棟が、50余年ぶりに生まれ変わった。今回編集部では、「物流の丸の内」で新たな顔役となる施設内部を取材する機会を得た。内部から見た同施設の魅力を、入居テナントのインタビューも交えてレポートする。(編集部・大津鉄也)
都市型物流施設としての使命に応える
物流ビルA棟は、異なる業種・業態の企業が入居する大型マルチテナント型物流施設として誕生した。石造りの落ち着いたエントランスは、流行に左右されない施設の基本思想が反映された、倉庫区画への導入部。ゲストを迎え入れるオフィスや研究開発拠点としての利用も想定されるなか、大規模オフィスビルと遜色ない造りだ。倉庫区画は、利便性の高い基礎構造は同じながら、各階層ごとに区画面積と仕様が異なり、印象が変わる。都市部ならではの多種多様なニーズに寄り添う意図が感じられる設計だ。
1階は、冷凍冷蔵倉庫ニーズを想定し、プラットフォームが0.8メートルに、梁下有効高が5.7メートルに設定されている。大田市場や羽田空港が近いことから、食品関係の通過型拠点として相性が良いだろう。
2・3階は、435坪を標準とする小規模区画が多数用意されており、144坪という最小区画も存在する。都市部で小規模区画を求めるEC事業者やレンタル・リース事業者のほか、将来の物流改革を担う「物流テック」企業などにとって「ちょうどいい」サイズが整う。
全ての貸付区画に給排水設備を設置可能で、大容量電源も使用できるため、単に商材や資機材を保管する倉庫としてだけではなく、製品開発やメンテナンス、オフィス、ショールーム機能をあわせ持った、「倉庫+α(アルファ)」の拠点として活用されることが想定される。
1階から3階には、こうした入居企業のゲストやエンジニア、オフィスワーカーを含むさまざまな人が行き交うことを想定し、施設の外縁に車路と完全に分離した歩廊が設置されていることも安心材料といえよう。
4階から6階は、中規模から大規模物流拠点ニーズを想定した区画が配置されている。巨大都市の消費需要に応えるのは、都市型施設にとって最も大きな使命といえる。24時間眠らない街へ、常に商品を供給し続けるミッションを果たす基地として、1フロア7800坪の大空間を利用した超機動型の出荷・配送プランなど、スケールの大きなアイデアも実現可能だ。
TRCの担当者によると、こうしたきめ細やかな配慮と工夫を織り交ぜた施設を提供することで、多種多様な事業の発展を支え、都市型倉庫のあり方に変革を起こすこともA棟のコンセプトの一つだという。例えば、物流テック・ベンチャー企業のアイデアやソリューションを、実際の物流現場で検証したり、マッチングしたりできるのも、最先端の技術や情報が行き交う都市型施設ならではの強みだ。
▲(左)TRCセンタービルには物流テックのショールームと打合せスペースを備える(右)A棟屋上のアメニティスペースと契約駐車場。入居者用に都心部最大級の442台分を用意する
「同業他社より早く商品を届ける」サンゲツの戦略的拠点
では、実際に入居しているテナント企業は、このTRCをどのように評価し、事業発展に生かしているのか。壁紙、床材などインテリア商品の大手商社・サンゲツは、TRCの物流ビルB棟で2018年から「東京ロジスティクスセンター」を運営する。
TRCを選択した理由について、ロジスティクスセンター統括ユニットの久保田巖雄センター長は、「事業の特性上、需要の中心地である23区に即応性のある戦略的拠点を構えられるメリットは大きい。同業他社より早く商品を届ける拠点として、ここの立地が必要不可欠でした」と話す。
B棟入居のきっかけとなった同社の拠点再編においては、都市近郊の物流施設も候補となったが、同社は「午前の注文を当日午後に配送する」というサービスを提供するにあたり、平和島という立地に優位性を見出した。急ぎの注文やサンプルの取り寄せが多い建設業界では、「すぐ届く」ということが大きな意味を持つ。多品種かつ長尺の商品を保管しながら、オーダーにより裁断・包装などの加工作業にも対応できるキャパシティと、全国最多の出荷量を誇る機動力を実現できることが、TRCを選択した最大の理由だ。
また、久保田氏は「ほかの拠点と機能を分担しながら、商品量やアイテム数の増加に対応しています。免震構造で、大きな地震でも荷崩れがなかったことなど、経験値として信頼感があります」と話し、事業継続性の観点からも評価する。
サンゲツは現在、ロジスティクスを事業戦略の中核に据え、配送網も一部を自社運用に切り替えるという改革に臨んでいる。久保田氏は「顧客のニーズを、よりリアルに把握するためには、自社のドライバーが責任を持って直接届ける体制が必要と考えました。多くのお客様と近い距離で接し、そのニーズに素早く対応できる拠点として、都市型の配送センターが不可欠です」と語り、TRCの強みを生かした新しいサプライチェーン構築へ歩を進める。
真似できないサービスを実現する、カクヤスの独自配送網
主に都市部で酒類販売を展開するカクヤスグループは、巨大消費地への絶え間ない供給拠点として、都市型物流施設の基礎能力を活用している。
同社は、競合他社に真似できない「いつでも」「どこでも」「どれだけでも」配達するサービスを、リーズナブルな価格で業務用から家庭用まで展開するため、独自の物流網構築に投資してきた。2017年には、物流ビルB棟に社内物流専用の「平和島流通センター」を開設し、都内を中心とする200か所の自社店舗・最終配送拠点への横持ち配送拠点として、また、飲食店など取引先へのルート配送拠点として運用。
自社で横持ち配送の体制を整えることで、外部起因による物流コスト増といったリスクを回避できるようになったほか、「(十分な在庫スペースを確保するのが難しい店舗・拠点に代わり)平和島流通センターが多くの在庫を管理し、注文が入った商品を各拠点に送り込むスキームを構築することで、取扱い商品数の大幅な拡大が可能となった」(同社広報)。
また、近隣に物流倉庫を構える仕入先が多いことから、柔軟で細やかな対応により、仕入れの低減につながっているほか、大型トラックの受け入れが可能となったことで、中間コストの低減にもつながっている。一般的に朝は上り方面の道路交通が混雑し、逆に夕方は下り方面が混雑する傾向にあるが、平和島流通センターを出入りする車両の動きは逆となり、配送効率も良いという。
施設性能と開発コンセプトに現れる「質実剛健」
サンゲツからは耐震性能の評価が得られたが、レジリエンスな物流拠点としての機能・体制について補足しておこう。施設を運営管理するTRCは、敷地内に本社を構えているため、同社グループ社員と協力会社も含めて100人ほどのスタッフが常駐し、予期せぬアクシデントや災害に素早く対応する。休日や夜間であっても、施設内の防災センターや設備管理所には24時間365日警備員と設備管理員が常駐し、きめ細かく迅速な対応に備える。
地元の大森警察署とは、同署が万が一被災した時に施設の空室を仮庁舎として提供する「大規模災害時における施設等の提供に関する協定」を結び、大田区とは、2200人に3日分の食料備蓄を提供することなどを盛り込んだ「災害時における帰宅困難者の受入等に関する協定」を結んでいる。平和島地区避難場所に指定された災害に強い立地と免震構造、非常用発電機や風水害を見越した外装材の採用など、万全なBCP対策で地域の安全にも貢献しているのだ。
石造りのエントランスから始まり、実際に物流ビルA棟を見て歩いた印象は、ひとことで言えば「質実剛健」。50余年の歴史の中で、常に入居者と周辺地域に寄り添ってきた東京流通センターの細やかな配慮が行き届き、一見すると機能性に特化した素朴な造りに見える建物にも、入居者が快適に過ごす仕掛けと、新たなニーズに対応する仕掛けがそこかしこに施されている。それこそが、他の物流施設とは比較できない圧倒的な安心感と価値観を生み出しているように感じる。サンゲツ、カクヤスグループなど各分野のリーディング企業が、東京流通センターを主力拠点として運用していることも、その証明と言えるだろう。
筆者は、施設をくまなく見てまわり、テナントの声を聞き、「ここでしか出来ない物流網」を基盤にした成長戦略が確かにあると実感した。確かに、TRCは「物流の丸の内」なのである。