行政・団体下請代金支払遅延等防止法(下請法)と下請中小企業振興法(下請振興法)の一部を改正する法律が、16日の参議院本会議で可決・成立した。運送業界の長年の課題であった荷主と元請運送事業者間の「運送委託取引」が両法の対象に追加され、不当な取引慣行の是正が期待される。特に、これまで問題視されてきた荷主による運送事業者への無償での荷待ちや荷役作業の強要といった行為に対し、改正法は「不当な経済上の利益提供要請」の禁止などを通じてメスを入れる。また、国土交通大臣(「トラック・物流Gメン」を所掌)など事業所管大臣の指導・助言権限も強化され、実効性のある監視体制が敷かれる。施行は2026年1月1日。
背景に「構造的な価格転嫁」と「不合理な負担」の是正
法改正の大きな背景には、原材料費やエネルギーコスト、そして労務費の急騰がある。これらをサプライチェーン全体で適切に価格転嫁する「構造的な価格転嫁」の実現は、日本経済全体の重要課題だ。物流業界では、「2024年問題」によるドライバー不足やコスト増への対応が喫緊の課題であり、運送委託における適正な運賃収受や取引条件の改善が不可欠とされてきた。
しかし、現行の下請法では、荷主から元請運送事業者への「運送委託」そのものは規制対象外だった。このため、運賃交渉が荷主の優越的な地位により一方的に進められたり、契約にない荷役作業や長時間の荷待ちを無償で強いられたりするケースが後を絶たず、運送事業者の経営を圧迫。これがドライバーの長時間労働や低賃金の一因となり、ひいては物流の持続可能性を脅かす構造的な問題となっていた。
今回の改正は、こうした状況を抜本的に改善し、物流の担い手確保と安定的な輸送力維持を目指す政府の方針を強く反映したものだ。
規制対象に「運送委託」を追加、無償の役務提供強要も禁止対象
改正下請法では、まず規制対象となる取引類型に、「運送委託」(物品の製造、販売等を行う事業者が、その目的物の運送を他の事業者に委託すること)を新たに追加。これにより、一定規模以上の発荷主(委託事業者)が中小の元請運送事業者(受託事業者)に運送を委託する場合、下請法が定める親事業者の義務および禁止行為が全面的に適用される。
具体的には、委託事業者に対し、委託内容、運賃、支払方法などを明記した書面の交付義務を課す。そして、下請法で禁止される11項目の行為(受領拒否、支払遅延、不当な減額、不当な返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置など)が、運送委託取引にも適用される。
特に、荷待ちや荷役作業の問題に関しては、「不当な経済上の利益提供要請の禁止」(第4条第2項第3号)が重要な意味を持つ。これは、委託事業者が自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を無償または著しく低い対価で提供させることを禁じるもの。契約にない附帯作業(荷物の積卸し、仕分け、検品など)や、長時間に及ぶ荷待ちを実質的に無償で強いる行為は、この規定に違反する可能性が高まる。
さらに、価格転嫁協議に実質的に応じない形での不当な対価決定も禁止。「協議をせずに一方的に著しく低い対価の額を定めること」や「正当な理由なく、著しく短い期間内に通常支払われる対価に比べて低い対価の額を定めること」が、新たに禁止行為として明記された。手形による代金支払いも原則禁止となる。
「トラックGメン」など事業所管大臣が直接指導・勧奨も
下請振興法は、「製造委託等に係る中小受託事業者の振興のための基盤整備に関する法律」(略称:受託中小企業振興法)に題名を変更。下請法の対象とならない取引も含め、より広範な取引の適正化と中小受託事業者の振興を図る。
最大のポイントは、事業所管大臣の権限強化だ。従来、問題のある発注者への指導・助言は中小企業庁長官のみに認められていたが、改正により、各事業分野を所管する大臣(物流分野では国土交通大臣、荷主企業に対しては経済産業大臣など)も、中小企業庁長官と連携し、指導・助言を行えるようになる。
これにより、国土交通省の「トラック・物流Gメン」などが荷主や元請事業者に対して行う実態調査で把握した、荷待ち・荷役の負担や不適切な運賃設定などの問題に対し、国土交通大臣が直接、取引条件の改善や価格転嫁協議への誠実な対応を指導・助言できる。
指導・助言に従わない事業者には、事業所管大臣が「勧奨」を行うことができる規定も新設。勧奨後も改善が見られない場合は、従来通り中小企業庁長官が「勧告」や「公表」の措置を講じる。
政府は、これらの法改正を一体的に運用することで、荷主・元請事業者と下請運送事業者間の取引関係を公正化し、長年の課題であった無償の荷待ち・荷役作業や不当なコスト転嫁を是正。サプライチェーン全体でのコスト負担のあり方を見直し、物流業界の健全な発展と24年問題への対応、そして持続可能な物流システムの構築を目指す。26年1月1日の施行に向け、今後、具体的な運用基準やガイドラインの整備が進められる。
■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。
※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com
■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。
※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com