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「国際コンテナ戦略港湾政策」見直しを、長時間待機問題解決へ国の主導求める声

東京港「もう限界」、”輸送効率”9年で25%ダウン

2019年7月26日 (金)

話題「衝撃的な数字だ」――。東京都トラック協会の海上コンテナ専門部会担当者がこうつぶやいたのは、東京港で稼働する海コン輸送車両の延べ運行本数が、初めて3万台を割り込んだからだ。東京港のコンテナ取扱量は増える一方で昨年は過去最高の457万TEUを記録したが、今回の調査結果は逆に海コン輸送の運行本数が減少している、つまり海コンの陸上輸送がボトルネックとなって東京港のコンテナ処理能力が著しく低下していることを意味する。

東京都トラック協会は24日、海上コンテナ専門部会に加入する運送会社のうち、19社の海上コンテナ輸送車両の延べ稼働台数が初めて3万台を割り込み、2万9559台(3月末時点)だったことを発表した。前年同月に比べ12.4%(4182台)減少、調査を開始した2011年からは、調査対象が16社と現在よりも3社少なかったにもかかわらず1万台近く減少した。これは事業所の保有台数が減ったことを示しているわけではなく、19店社という限られた事業所数とはいえ、その輸送効率が9年で25%低下したことを物語る数字として解釈すべきものだ。

冒頭の担当者は「(国が港湾物流政策の基本に位置づける)国際コンテナ戦略港湾政策を撤回でもしない限り、東京港は機能不全に陥る」とも話した。

■輸送効率急低下、9年でマイナス25%
東ト協海コン専門部会は11年3月から毎年、調査対象事業所が保有する車両と協力会社(傭車先)が保有する車両の「運行延べ台数」を集計しているが、年を追うごとに調査対象店社は増加し、15年に17店社、16年に18店社、17年からは19店社となっている。

他方、東京港が2018年に取り扱った外貿コンテナ個数は457万TEU(20フィートコンテナ換算個数)と過去最高を記録した。輸送需要は高まる一方だが、コンテナの陸送を担うトラックの延べ稼働台数が急速に減少しているのはどういうことだろうか。

※ 文末に調査結果の見方に関して、追記しました。(LogisticsToday編集部)

■東京港の輸送機能低下、原因は…
冒頭の東ト協担当者によると、港頭地区におけるトラックの「長時間待機」問題が大きく影響しているという。輸送需要が高まるにつれ、コンテナターミナルに出入りする車列が長くなり、海コン車両が稼働できる「キャパシティ」を超えて混雑が悪化をきわめた結果、トータルの稼働台数が減少した。輸送需要があるにもかかわらず、トラックを投入しようにもその余地がない――という状態に陥っているのだという。

長時間待機やターミナルゲート周辺の車両滞留問題は急に湧いて出てきたものではないが、東ト協海コン専門部会が年2回調べている「ターミナルごとに輸出入・実入り・空きと車両の状態を分けて集計している資料」を基に編集部で算出した「東京港全体の平均待機時間」によると、16年下半期の調査結果では平均72分だったのが直近の18年下半期は83分と、ここ2、3年で急速に長時間化していることがわかった。

コンテナを搬出入する車両のキャパシティ縮小と、過去に例のない貨物量の増大という条件が重なった結果、東京港では海コン車両の延べ稼働台数が16年3月の3万4972台から3万5016台(17年3月)、3万3741台(18年3月)、そしてついに2万9559台(19年3月)と3万台を割り込むことになった。

すでに東京港では海コン車両を手配するのがかなり難しくなってきている。なぜこうなってしまったのか。

考えられるのは、国による国際コンテナ戦略港湾政策の歪みと、トラックドライバーの長時間労働が社会問題化したことを受けて改正が検討されている「改善基準告示」の厳格運用による相乗的な作用だ。

国土交通省は10年8月、日本の国際物流競争力を高めるための柱として京浜港と阪神港を「国際コンテナ戦略港湾」に指定し、民間視点の港湾運営、コスト低減策、国内貨物の集荷策などの計画的に進めていく体制を整えた。両港ではハード・ソフト一体となった施策を集中する一方、政府は同政策を盛り込んだ「日本再興戦略」を決定し、「集貨」「創貨」「競争力強化」の3本柱を中心とした国際物流の基本政策に位置づけられることになった。

■過去最高水準で集貨進む東京港、100万TEU以上のキャパオーバー
東京港への「集貨」は過去最高水準で進んだが、18年の働き方改革関連法の成立を背景に改善基準告示違反を取り締まる行政の動きが活発化したことを受け、多くの運送会社が「ムリな配車」から距離を置くようになった。東京港のキャパシティは340万TEUしかなく、すでに100万TEU以上の「キャパオーバー」となっているのだから、長時間待機がエスカレートする東京港にあって、海コン車両の運行本数が減少するのは必然だといえよう。

都もキャパシティを拡大し、輸送効率を高める取り組みは継続している。例えばキャパシティの問題では、中央防波堤外側に120万TEUの処理能力を持つ新たなコンテナターミナルを整備し、既存ふ頭の再編と道路網の整備をセットで進める方針だ。また、コンテナターミナルの早朝ゲートオープンや車両待機場の整備によって車両の分散化、滞留解消につなげる取り組みも行われている。

それでも、東京港のコンテナ貨物は増え続けており、ヤードやターミナルの拡大には限界がある。東ト協は「北関東の事業者の多くが東京港を利用している状況を変えなければ、現在の対策だけでは改善できないだろう」と話す。

■国際コンテナ戦略港湾政策が競争力弱める
都が作成した資料によると、群馬県、栃木県、茨城県、千葉県から出て海外へ輸出される貨物の6割以上、輸入は群馬、茨城、千葉の3県へ向かう貨物の8割が東京港を利用している。東京都で生産された製品が東京港から輸出されるのは4割に満たないにもかかわらず、である。

一方、首都圏でコンテナを扱うことができる港湾は京浜港(東京港と横浜港)、千葉港、茨城港(常陸那珂港区)と3港あるが、東京港と同様に滞留が課題の横浜港は別として、東京港がキャパオーバーの457万TEUとなっているのに対し、貨物を誘致したい立場の千葉港は5.4万TEU(外貿のみ)、茨城港は1.6万TEU(同)にとどまっている。

周辺に代替港湾があっても国が東京港への集荷を基本政策に据えているために、東京港は物流競争力を高めるどころか、年々効率が低下しているのは明らかであり、国は国際コンテナ戦略港湾政策を見直し、周辺港への誘導をリードすべきだろう。首都圏全体を大きく活用してこそ物流効率が高まり、産業競争力につながるのではないか。

東ト協の担当者は最後にこう付け加えた。

「残された時間は少ない。国が直ちに手を打たなければ手遅れになる」

国主導で国際コンテナ戦略港湾政策を見直してほしいという地元物流業界の声は、届くだろうか。

2019年7月29日編集部追記
※調査対象店所は海上コンテナ輸送に携わるすべての事業所ではなく、また調査期間は毎年3月1日から31日までの1か月間で海上コンテナ専門部会に加入する事業者の「一部」が協力する形で行われているため、東京港全体の稼働車両数を表すものではない。従って「9年でマイナス25%」という表現は「海上コンテナ輸送を手がける16店所の11年3月1か月間における延べ稼働台数」と「19店所の19年3月の延べ稼働台数」を比較したものとなる。全数を比較することは意図しておらず、増減の推移を見るのに適した数値として記事に採用している。