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業界の”風雲児”MKタクシーに聞く「タク配」の可能性

2020年6月8日 (月)

ロジスティクス国土交通省が期間限定・飲食店の料理限定の特例措置として認可したタクシーの有償貨物運送、いわゆる「タク配」は、外出自粛要請の影響で大きなダメージを受けているタクシー事業者と飲食店、”巣ごもり消費”を続ける消費者の間で活用が広がり、全国で同事業への新規参入が相次いでいる。(企画編集委員・永田利紀)

(イメージ画像)

管轄する国交省自動車局によると、5月22日までに全国で1388のタクシー事業所が新しく許可を取得しており、その登録台数は4万台にのぼる。当初5月13日までとしていた期限を9月末まで大幅に延長した国交省は、タクシー会社・飲食店・消費者からの好意的な意見を受け、期限の撤廃も視野に入れて再延長の検討に入った。また、タクシー会社の労働組合が加盟するUAゼンセンは、取扱貨物の対象に食品と日用品を含めるよう政府に要望書を提出。新型コロナウイルスに端を発した”貨客混合”の議論が活発化している。

では、渦中のタクシー事業者はこうした動きをどう受け止めているのか。配送事業参入の狙いはなにか。いち早く「タク配」サービスを開始し、110円の料金設定を6月末まで継続すると表明したエムケイ(京都市南区)に話を聞いた。

■「タク配」サービスをいち早く開始した理由

▲エムケイ経営企画部次長の東真一氏

同社経営企画部次長の東真一氏によれば、サービス提供の背景には飲食事業者との緊密な関係があった。「タクシー会社と飲食店は、苦境にあってもその相互扶助関係に揺るぎはなく、『タク配』サービスは普段からの付き合いの延長線上にあると感じている」(東氏)という。実際に、提携する飲食店の反応は非常に良好で、口コミやウェブ告知などで同社のサービスを知った飲食事業者からの問い合わせも多い。「反響や手ごたえという点については納得できる内容だ」と東氏は頷く。

■110円という料金に込められた思い

110円という破格の料金を設定したのだから当然の反応ともいえるが、同社はこの料金に2つの思いを込めたのだという。1つは「MKタクシーのファン作り」、2つ目は「社員のモチベーション維持」だ。

同社は京都市内、札幌市内の三区をサービス対象地域としているが、域内ならば距離の制限を設けていない。当初は京都市内で平均5キロ程度、メーター料金で1700円から1800円ほどの配送距離を想定していたが、実際には平均6キロ程度、メーター料金で2000円超の実走距離となっている。メーターを起こしていれば110円を引いた額が赤字となるが、同社は6月いっぱいは観光客が戻らないという厳しい予測に基づき、「それならばせめてお客様に喜んでいただこう」という趣旨でこの料金を設定したのだという。

また、自宅待機や乗車制限により仕事へのモチベーション下降が懸念される乗務員やバックオフィス社員のためにも、前向きな会社事業を打ち出し、地域経済を支えるという使命感をもってモチベーションを維持する意図があった。

■貨客混合サービスの可能性

では、貨客混合の議論についてはどう受けとめているか。東氏によれば、今のところ具体化している「貨客混合サービス」の事業企画はないが、法令改定や規制緩和には注視しているという。今回の特例措置が期限付きということもあるが、その先を見越して事業の採算が合うのかを見極める必要がある。

例えば、利用者側の配送代金の希望は500円程度といわれている。これについては想定の範囲内というが、配送距離や目的地までのルートによって相当の無理があることは明らかだろう。収支が破綻する需要の取り込みは現実味がない。したがって、旅客運送の本業を妨げない範囲で認められている「救援事業」や複合サービスとの併用によって客単価の向上を見込めないのであれば、せっかくの新しい流れもこのまま先細る可能性が否めない。

(出所:イオン九州・ソフトバンク)

一方で、東氏は「早朝や深夜など、物流会社が苦手な時間帯を我々にお任せいただくことは、共存の道としてあり得るのではないか」と話し、24時間稼働のタクシー会社ならではの可能性に言及した。例えばネットスーパーの配送では、イオン九州がCBクラウド(東京都千代田区)の配送マッチングサービス「ピックゴー」を活用し、軽貨物運送事業者に22時以降の商品配送を委託する取り組みを昨年6月に実施している。こうした仕組みにタクシーが入り込むのは現実味があるかもしれない。

■議論の行方

国土交通省をはじめとする関係省庁は、消費者の実需を具体的に分析し、今ある垣根の再評価を行う時期に差し掛かっているのではないか。観光都市ゆえの「本業」と、貨物運送や救援事業をはじめとする「新規事業」の並立に悩むタクシー事業者はMKタクシーだけではないはずだ。

「人を運ぶ仕事」を生業とする事業者は、新型コロナウイルスの影響により旅客運送だけでは成り立たなくなりつつあるが、救世主たる新事業が派生なのか別物なのかもそれぞれに受け止めは異なる。許認可事業ゆえの「役所待ち」状態に甘んじず、次々と提案や請願を繰り出しながら、垣根の向こう側へ視線を逸らさない者と、かたや他所には目もくれず、生業にすべてを賭けて挑む者。生き方の問題だと切り捨てるのは時期尚早で、もうしばらくの間は事の顛末を見守るべきだ。

タクシー業界の誰かが物流業界の新しい顔ぶれとして「貨客混合運送」の扉を開くのか否か。その答えはコストの最終負担者である消費者と、その周辺に密集する「あれこれと混合きわまりない」状態の事業者が導き出すだろう。