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論説/名門オンワードの復活には物流改善が不可欠

2021年4月12日 (月)

話題去る4月8日、オンワードホールディングスから中長期経営計画「オンワード・ビジョン2030」が発表された。現在の売上高に1100億円を上積みし、30年度には3000億円を目指すという内容だった。さらには、現在は1.7%弱の営業利益率を8.3%に引き上げる目標設定も併記されていた。(企画編集委員 永田利紀)

読んで即座に脳裏に浮かんだのは、利益率引き上げの仕掛けとして、販売チャネルと構成比の組み換えだけでは心もとないし、何よりも「売り」依存型の利益確保では辛いのではないか,ということだった。物流屋の習性よろしく、手前味噌ながらも応援の意を込めつつ書いてみたい。

物流改善は正攻法の一つ

(イメージ画像)

苦境が続くアパレル業界だが、デパートの不振による連鎖不況を憂いているばかりでは立ち行かぬことなど,指摘するまでもないだろう。体質変換と着眼の切り替えの必要性は、誰よりも内部者が身に染みて感じているに違いない。

販売不振下にあっては、「売り」に眼が行く心情は重々承知しているし、当然のことと理解できる。しかし、あくまでも国内消費に関してのハナシではあるが、総消費量が縮小の一途なる中での販売拡大路線は、どこの誰がなそうとしても厳しい前途が待ち受けているに違いない。

よほどの画期的新商品や新市場の創出、もしくは現在のコロナ禍のような特殊要因でもない限り、売上額は横這いなら可、微減でも利益維持なら及第とすべきだろう。アパレル業界はまさに特殊要因による激動の次期を迎えたわけだが、だからこその体質改変が急務とされる。その過程での物流への注目と手入れは、今や正攻法となっている。

上半身と下半身のバランス

しかしながら、今回発表された中長期経営ビジョンでは、事業の下半身とも呼べる物流機能への言及が少なかった。というより、目次的な表現にとどまり、具体的な戦略から方策、そして計画と寄与効果の記述が盛り込まれなかったことは、やや残念だった。

「物流機能は事業を支える下半身」と長らく言い続けてきた。しかし多くの企業では往々にして、営業や企画、生産など、人間で例えるなら頭脳や腕力に当たる、事業の上半身の機能に焦点があたり、注力される。それは当然のことであるし、事業をけん引する際に、明晰な頭脳と振り回せる剛腕、繊細な指先のような機能性充実しているに越したことはない。

しかし、頭脳や腕力などの上半身をフル稼働させるべき時に、下半身の脆弱さは計画の進捗や企画の成否に大きく影響すると断言できる。過去を振り返れば事例はあまたあるし、現在の勝ち組企業達は、一様に物流戦略に長けている。

つまり市場の強者や生存者たちは、物流が事業に寄与する度合いを知っているのだろう。だからこそ物的投資にとどまらず、人材の投入を惜しまない。内部養成だけでは事業の進捗に支障が出ると判断すれば、外部からの人材確保もちゅうちょしない。

「物流部門は閑職」などと言っている企業は、その足元が沈んだり揺らいだりしていることに気付いていないだけであって、早晩慌てふためいて物流改善に着手することは自明だ。

多種多様な上半身と単純簡素な下半身

(イメージ画像)

読者もご存じの通り、16年4月にオンワードホールディングスは物流子会社のアクロストランスポートをセンコーに譲渡した。一連のニュースについて論じた際にも指摘したが、物流機能を内製するか外部委託するかの別は、企業の物流作法に影響しない。

アパレルメーカーに例えれば、自社の製造工場を所有しているか否かは、メーカーとしての品質や意匠へのこだわりとは別物であって、大した問題ではない。言い換えれば、「工場があればメーカーと名乗ってよいのか?」ということだが、製造における自社規格や意匠、品質基準策定の内製化ができないなら、それは単なる製造場に過ぎない。

製造場をメーカーとは呼びたくないし、こだわりのない製造者に魅力がないことも事実ではないかと思う。物流の内製・委託の形態以前に、自社独自の物流規格が設計できているのかが肝心だ。

企業が自ら設計した物流業務の概念と機能の定義、業務フロー策定と、それらが顧客に及ぼす効用や約束事を明文化できているなら、それは間違いなく「自社物流」と称して支障はないと考える。物流の改変や改善を試みる各社には、是非再確認いただきたい要点だ。

すでにある原資

オンワードに限らず、歴史ある企業に共通するのは「物流改善に必要なものは、ほぼ全て社内にある」という実態だ。少なくとも私の経験ではそうだった。「ほぼ全てある」どころか「余っている」「間引かなければならない」ことの方が圧倒的に多かった。誰しもそうであるのかもしれないが、自分の足元や周辺の景色や状態を疑ったり、再確認することは難しいのだろう。

しかしそれは、利益の種がまかれている状態でもあるから、あとは雑草を間引き、耕して土を生き返らせて、適度な水やりをするだけで、すぐに芽が出てくる。どんな花が咲いて、いかなる味の果実が成るのかは、各社各様である。実際に数多く花や果実を見てきたが、その光景は達成の喜びと充実感に満ちていた。

デパートとその売場を飾り支えてきた名門アパレルの復活を心から期待している。それ故に、あえて苦言を交えたメッセージを送りたい。