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論説/ドローン単独の物流には無理がある

2021年4月20日 (火)

話題ドローンを利用した多種多様な試みが全国各地で行われ、その成果や課題が数多く報告されるようになってきた。本誌でも数多くの関連記事が掲載されているが、その対象地域や輸送対象物については、一定の種別や範囲に収まるようだ。

つまり現在は、需要や可能性の列挙から始まって、実用化への実験や試行の第1段階が区切りを迎えつつある状況なのだと推測できる。それは期待値からの乖離(かいり)の実態を確認することにもなっている。(企画編集委員・永田利紀)

ドローン物流、収益性や組合せなど課題に(21年4月19日掲載)
https://www.logi-today.com/430670

そもそもの目的は何だったのか

今から5年ほど前になるが、市場が玩具の「ラジコン」から各種の「ドローン」へと移行する時期に、とある企業の物流改善に立ち会う機会を得た。

(イメージ画像)

そもそもラジオ・コントロール機器の世界では、主として制御システム、つまりコントローラーであるプロポセットの優劣によってパフォーマンスが決定されることが常だ。玩具から検査・調査機器、その究極は軍事転用物に至るまで、競争が専ら、遠隔操作のための制御性能開発分野で進められていた。

単純で簡易な操作しか求められず、ラジコンに比べて飛行物としての趣味性も乏しいドローンへの関心度は、その時点ではまだ低かったと記憶している。また、高所や水中、危険な場所の調査などに期待が集まり、飛行時間や荷重など物流に関わる機能の議論は盛んではなかった。

開発の活発化と利用方法の多様化

ドローンの利用による危険物検査や、危険個所の画像撮影による現状把握などは、すでに実用化されて非常に有用である。一般的ではないだけで、高速道路の高架接続部の劣化調査のための撮影や、大型ダムのコンクリートの状況を調べるための潜水航行撮影など、専門分野での利用は盛んであり必需となっている。実際に送信された映像を目の当たりにすれば、唸ってしまうほどだ。

(イメージ画像)

加えて、農業分野での利用拡大も著しい。就農人口の減少と高齢化に対応するため、農作業の中で最も労力を要するとされている除草や除虫の作業をドローンが担うスタイルは、今後主流化すると判断して間違いなさそうだ。

大型のドローンによる薬剤の空中散布は、効率面でも従来に比して圧倒的に有利となるだけでなく、コントローラーの自動制御化が発達すれば、ほぼ無人状態で薬剤散布がまかなえるようになる。このあたりまで書くと、物流転用へのつながりが明確になってきそうだ。

完結型の利用ではなく、部分補完や補助を

現状のドローン利用型物流の中身は、島しょ部や道路事情の良くない半島部、人口過疎地ゆえに商業施設などの食料品・日用品購買や配送に支障が出ている地域への物資配送などが主となっている。例えば販売所や収穫場所から、個配機能として別地域の特定個所に物資を届けるなどは、最も求められる用途の一つである。

にもかかわらず、運べる大きさには限りがあり、重さも数キログラムでしかない。距離や気流・電波の状態によっては制限項目の行数が増えることも珍しくないので、常用できる飛行運搬具にはなりえていない。

実証実験の好データや好結果を得るためには、必然的に短距離で比較的障害の少ない場所の選定が不可欠となるはずなのだとしたら、残念ながら本末転倒と言わざる得ない。現状散見される前提条件や実験データの及第維持を批判しているのではなく、設定されている目的の全容自体に無理があるのではないのかと感じている。「ドローンだけで完結できなくてもよいのでは?」という素朴な疑問が拭いきれない。

現状では中継や仕上げの役割が最適

巷には同類の指摘や実験もあるが、やはり現状のドローン技術なら拠点間の全部を担うのではなく、区間中継や最終もしくは最初の人的手当の難所のみをカバーするといった利用方法が無理なく適当であると思える。

(イメージ画像)

半島間や陸から離島までを往復させずとも、船舶で着岸ではなく接近・停留し、そこから数度に分けてドローンで搬送往復するなどは現実的だし、複数台を用意すれば時間的な効率性と搬送量も上がるのではないだろうか。さらには定期船・定期車両便などの貨客混載による常設手段だけでは不十分となりがちな、地域物流機能の補完としても取組みやすい。

これらはあくまで一例として挙げたのだが、他の場面や分野でも同様の「いいとこどり」は有効で、簡易導入できると思う。事業主体となる各自治体とサービス実施者である各企業は、是非ご検討いただきたいと願う。

記した内容での実例も数多いことは承知しているが、ビジネススキームとして実用化から収益化を急ぎすぎると、急ブレーキや大きな方向変換をせざる得ない頓挫をきたしかねないゆえに、あえて苦言まじりに記した。人の暮らしに直結する計画であるからこそ「急がば回れ」も時として必要ではないかと言い添えておきたい。

「自動運転車両に遠隔制御のドローンが搭載された地域内物流用ビークル」のような言葉が脳裏に浮かんでいるが、それはもはや想像ではなく、間もなく実用化されようとしているなら、拙稿の続きとなるはずなので、嬉しい限りだ。大いに期待しつつ、今後の進展を見守りたい。