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論説/新幹線の貨客混載、分岐点は総所要時間

2021年5月12日 (水)

話題JRと佐川急便による、幹線輸送の鉄道代替利用事業の進捗は順調なようだ。先日の北海道新幹線に続いて今回の九州新幹線となったが、ゆくゆくは新幹線の貨物専用便の登場から、最終的にはリニア動力の貨物車両運行へと至る道程の始まりという気がしてならない。このスキームの将来を占うにあたり、本丸とも言えるJR東海や、JR貨物がどのように合流してくるのかなども気になるところだ。(企画編集委員・永田利紀)

九州新幹線で宅配輸送、福岡・鹿児島間で即日配達(2021年5月10日掲載)
https://www.logi-today.com/433364

(イメージ画像)

JR九州の発表には佐川急便の個配便による集荷・配達への言及はなく、鹿児島中央駅と博多駅の構内にあるみどりの窓口を利用して、荷物の受け渡しサービスが60サイズ(900円)から140サイズ(2000円)まで3時間以内で利用できるとある。駅まで持ち込むのも受け取るのも依頼人や受取人本人であり、貨客混載とはいえ大昔からある駅受付の貨物単純配送の感が強い。

斬新さを感じるとしたら、それは在来線ではなく新幹線を利用するからではないだろうか。かたや佐川急便の発表を見れば、「駅まで」と「駅から」の集配が図示されているのだが、フロー図を見る限りは通常の個配手順や集配ルートとの差はないようだ。ようだ。

JR九州は「はやっ!便」と銘打って、上記の通り許容サイズとその代金まで発表しているのだが、佐川急便による「駅まで・駅から」の個配便コストを上乗せした、集荷点から配達点間までの総コストがいかほどになるのか興味深い。

さらに検証したいのは「総所要時間」だ。集荷拠点と配達拠点を同じとした場合、既存のルートよりも新幹線利用ルートの方が「早く届く」と見なせるのはどの程度の距離からなのかは、最大のポイントと考えている。

試しに比較してみよう

例えば、記事にある博多駅・鹿児島中央駅間をサンプルとして仮想してみる。博多区内の企業が鹿児島市内の天文館通りの店舗に100サイズの荷物1個を個配便で送るとする。

(イメージ画像)

佐川急便に限らず、ヤマト運輸や日本郵便が福岡市内の企業から通常通りの集荷をして最速モードで鹿児島市内の受領先店舗に配達完了させる場合、幹線輸送は言うまでもなく、九州自動車道経由のトラック便になるはずだ。準大手の各社も大差ないだろう。

九州新幹線の博多駅・鹿児島中央駅間(256.8キロメートル)と、駅まで・駅からの道程が通常の個配手順や集配ルートに置き換わっているのだが、はたして所要時間に大きな差が出るのかは不明だ。いくつかの標準作業を特例処理でもしない限り、300キロ程度ならば幹線輸送以外の手間と時間の占める比率が大きくなり、高速輸送から得られる時短効果を吸収してしまうのではないかと思うのだが、実際はどうなのだろう。

集配・配送拠点間を300キロと想定し、休憩2回を含めて4.5時間で走り終えて配送拠点に移送後、個配車両へ引き継ぐ現状とどれほどの時間差が出るのかが重要となる。そして新幹線経由の時短効果が大きいのならば、その短縮時間を得るためのコスト差――例えばオペレーションの変更に要する増加人員数、施設や機材の費用なども興味深い。それらの差を単純に比較し、正確に知ることに意味があると考えている。

始めることに意義がある

一足飛びに現状を対比して実用性の優劣を決め、短期的で単眼的な結論に飛躍する必要はないと思う。しかしながら、行政の旗振りによるトラック依存型陸運から鉄道便比率拡大へのシフトは、コストや効率や人的問題、環境問題などの各論を包括する社会的要求としても強まる一方である。

ならばJR北海道やJR九州が経営する路線内での実証にとどまらず、エリアや事業体の垣根を超えた検証データが欲しい。どの距離まではどのような手段による運送が最適なのか、それが単一の車両によるものなのか複合なのかといったことは、実験してデータで示すべきだと考えている。

(イメージ画像)

ただし、まずは始めることに大きな意義があることは疑いのないことだから、今回のような試行から実行までの一連の事業は、賛辞をもって評価し、継続的に見守るべきだと思う。次の段階で求められるのは、より広い実用化と合理性の追求だが、くれぐれも「革新性」や「独自性」ありきでの開発競争は回避してほしい、と注文をつけておく。

「他と同じ」を嫌う企業や担当者は少なくないと常に感じるが、インフラたる輸送機能の変革や連携に、「唯一無二」といったことや、特許・意匠・商標などの権利保護は無用ではないだろうか。共通化や共同化が生み出す第一の効果は「分かりやすさ」であり、「安くできる」ことだ。

法制化する必要はないが、市場参加者が一定の基準や表記に従ってサービスを提供すれば、結果的に標準化できる。それはいわゆる「デファクト・スタンダード」という状況で、その形成には市場で大きな占有率と資本力を持つ、リーディング・カンパニーたちの暗黙の了解が必要不可欠となる。

陸路改変の場面の踊り場で、時間と手間をかけすぎてはならない。時代の流れは、空路からと海路からの接続の標準化にも動きつつある。世相や需要に柔軟に応えて行動する企業群が、次世代の物流業界をけん引するに違いない。