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「『受け取りかた』が物流を変えるとしたら」最終回

2021年12月6日 (月)

話題永田利紀氏によるコラム連載第10弾「『受け取りかた』が物流を変えるとしたら」の第4回(最終回)をお届けします。第3回は、購買者が商品を受け取る「あるべき姿」について持論を展開しました。最終回は、物流拠点と店舗のボーダーレス時代を見据えた「受け取りかた」のあり方を問いかけます。

第4回(最終回)「物流拠点と店舗の融合」

「物流拠点は少ない方が好ましい」というのは持論であり、いわば試算根拠を伴った普遍的真実だと主張してきた。しかしながら、受領の能動化を感知するにあたり、「今までの常識や正論はまもなく過去となる」という予感が実感に変わりつつあることは否めない。

つまり、一部のSPA(製造小売)が実践しているとおり、「物流拠点の在庫と業務総量のポジションを下げて、店舗機能の拡大強化として振り替えるべき」――が時流に沿った展開となる確信が強まるばかりだ。特にGMS(総合スーパー)や複合型ショッピングモールは、日用品需要の長い落ち込みによる店舗収支の低迷を一気に脱する好機となる。

それは前章までで説明した、個人の可処分時間の増加による購買受領行動の能動化が強く作用するからだ。そして、ウォルマート同様に、EC(電子商取引)市場に見劣りしない売れ筋品の配備と、来店者向けの付加価値を拡げて厚くすれば、生活品需要の相当量を取り込むことができる。

ラストワンマイルは店内サービスの延長上の機能に

その際の物流機能は、動かすことから留めて待つことへと変異するに違いない。綺麗な梱包が大多数の購買者に対する善とされていたのは過去となり、自家用車に運ぶための合理的な工夫に満ちたパッキングとツールこそが、優れたサービスとなるはずだ。

(イメージ)

常温と低温・冷凍に区分され、商品受領カウンターから駐車場の自家用車までの移動とその後の帰路、帰宅後の宅内収納までの間、持ち帰り用のカゴやコンテナが倒れたり、中身が動いてつぶれたり傷ついたりしないように詰めあわされていることが最善とされる。

さらにはECに遜色ない品ぞろえを維持するために、受取場所である店舗内もしくは隣接する場所にストック&ピッキングゾーンが必要だ。

クリックした品物の受け取りが明日以降になるなら、EC購入で個配してもらうことと何ら変わりはない。店舗内を買いまわるように、WEBで購買確定品を確保し、あとは指定した時間までに店舗に到着して、買い足し品を検討するか、受領後に同じく買いまわってもよい。その際にBOPISサービスを選択した顧客向けの割引クーポンなどが適用されたりすれば、いっそう購買意欲は高まるだろう。

こうなると、俗にいうラストワンマイルは、既存の物流機能にある作業区分ではなく、店内サービスの延長上に位置する内容となってくる。これは拠点間輸送までを物流機能とし、その先はあくまで店舗機能の一部へと付け替えるようになることを意味する。

既存の物流の「常識」を思い切って漂白することも必要だ

「個配サービスは物流機能」という指摘がありそうだが、購買者の手足に代わるサービスとするのなら、それは販売完了後の付加サービスであり、理屈上はモノの流れが完結した後の出来事となるので、物流機能とは一線を画すべきとも解せる。つまりサービス競争が激化して熟せば、効率とコストの妥当な合理的産物である物流機能は、その出番を失って後ろに下がることになってしまうのかもしれない。

顧客フロントが直接関与すればするほど、取り回しに大きな仕掛けや約束事の多い物流作法は扱いが厄介で、かつ「お客様」という言葉に対する距離感が販売現場に比して遠く、受け止めも鈍いことが多い。つまり、顧客マターを共有するにはあまりにも確認事項や同調努力が求められるので、販売側からの機能延伸や拡大で付加サービス化して、販売品の店舗在庫管理から配達機能までを取り込んでしまおうという動きが起こるのは自然なことなのかもしれない。

このあたりについては、3PLをはじめとする物流機能について、販売会社は大いに掘り下げる必要があるし、自社物流なら研修やジョブローテーション時の講義内容として欠いてはならない項目となるだろう。また、本章の冒頭に記したように、既存の物流常識を思い切って漂白するつもりで検証しなければならないようだ。

物流機能における最大効率や最適調和は、必ずしも市場競争力、つまり顧客満足や囲い込みの基礎要因となるわけではない、という可能性もしくは事実を認める時にさしかかっている。物流機能におけるコスト削減の適用個所を再考する必要性と言い替えて、その項目のひとつに上記内容を挙げてみてはいかがだろうか。

部門間の垣根を超えて各機能が店頭に集約されている状態こそが「あるべき姿」ではないか

販売の最前線が負担する業務量の増加については、現在の物流業界で活況著しい各種利器の採用を一助とすることができる。ちなみに、フルオートの運転車両や作業装置の一般化にはまだ相当の時間が必要なはずだが、セミオートならいくつかの現場機能で補助具として有効極まりないだろう。

一定の距離に限定された配送エリア内での半自動運転車両は、運転者の属性をさほど選ばないはずだ。それ以前の出荷にまつわる什器備品や機器類も体格や腕力・脚力の弱い高齢者や女性、一定程度までの運動機能障がい者には強い味方となるし、結果として人材確保の間口が大きく拡がる。

(イメージ)

ひとたび店頭サービス部門に役割を譲ったように思える物流機能は、ここで再びそのノウハウを活かせるだろう。それは手順や要領などを含む段取り全般の策定と進捗管理という、実務上不可欠なチェック作業で、一定の約束事がなされた後の効率化には欠かせない技術である。

店頭業務の猛者といえども、畑違いともいえる在庫管理や出荷業務については手探り状態となるはずだ。ならば、その技術を持つ者が部署を変えて担えばよいだけである。今までの専門分野だとか部門間の垣根などは無用でしかない。

たとえそれが物流機能の販売前線への吸収につながり、結果的には物流部門自体のありかたが変わろうとしてもだ。販売の第一命題が「顧客満足」だとするなら、一人の買い物客を満足させるために、各部門の機能が店頭に集約されている状態こそがあるべき姿ではないかと考える次第だが、読者諸氏はいかがお考えになるだろうか。ECに端を発した小売りの構造変革は、いくつかの転生を経て、ついに個配物流機能の能動化シフトとへと転じた。

小さな仕掛けで「Made by Japanese」の受領サービスを創出しよう

狭小な国土のわが国ゆえに、小さな仕掛けで短期間の試行による新しいビジネスモデルの検証が叶う。もし今現在を憂い、閉塞感や停滞感に苛まれている事業者があるなら、まずは検討の議論を始めてみてはいかがだろう。もしも新しい形の受領サービスが生み出されるなら、それはまもなく他国におけるサービス機能として活用されるかもしれない。基本的な仕組みは類似でも同一でもよい。

他の先進諸国と違うのは、きめ細やかで正確なサービスを実現できる業務フローと作業手順に裏打ちされた中身であることだ。合理性と潔癖性なら世界一、と誉れ高いわが国ならば、受領サービスと一括りにされている中から、似て非なるモノを必ず創造できる。Made in Japanにこだわらず、Made by Japaneseであることに密かな喜びを見出すのも生き方として悪くないと思う。(了)

「『受け取りかた』が物流を変えるとしたら」第1回

「『受け取りかた』が物流を変えるとしたら」第2回

「『受け取りかた』が物流を変えるとしたら」第3回