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コラム連載

「『受け取りかた』が物流を変えるとしたら」第3回

2021年11月29日 (月)

話題永田利紀氏によるコラム連載第10弾「『受け取りかた』が物流を変えるとしたら」の第3回をお届けします。第2回は、アマゾンとウォルマートの「受け取りかた」をめぐる攻防について触れました。今回は、購買者が商品を受け取る「あるべき姿」について持論を展開します。

第3回「多様性の行方」

EC(電子商取引)で購入した方々の大半は、2~3時間幅で設定される配達時間帯を拘束時間と感じている。ゆえにそれを嫌って、住居用宅配ロッカーやC&C(Click&Collect)の代表とされるコンビニ受け取り・施設設置型の個配ボックス、そして置き配が広まった。

それらに一長一短あることは既知であり、購買者は適宜判断して受取方法を選択する。しかし適宜選択するにしても、その選択肢に不満がある、という意見は後を絶たない。「次々にあれこれ受領方法が発表されるが、C&Cなどのサービス提供者や施設運営者、関連設備の供給事業者の思惑と、ターゲットである利用者の実感にはあいかわらず乖離が大きい」と感じるのは私だけなのだろうか。

行動制限を強いる「届けてもらう」サービス

混沌とした多様化と拡大の後に、いくつかの結合や淘汰を経て、単純な形へと回帰するという古典理論は、現在の市場原理にも当てはまるはずだ。だとしたら、一見多彩で乱立気味に感じられる現状の受領態様は、遠からず少数選択肢へと収束してゆくことになる。それは「受け取りに行く」と「届けてもらう」であり、その具体的な方法も、自宅で受け取る、自宅外で受け取る、自宅外に取りに行く、の3通りしかない。実際には現状もそうなのだが、サービスの頭に付く余計な修飾語がやたら多く、本来機能の中身がわかりにくくなっているきらいが強い。

差別化や目新しさの画策は理解できるし、事業者にとってはネーミングやサービスの切り口訴求は死活問題に直結するので、こぞって「画期的」を謳うのはやむを得ない。しかし、情報の受け手である消費者が迷ったり、違いを識別できなかったりすれば、結果的には支持を得にくくなってしまう。特に能動的受領にまつわるサービスにその傾向が強く、迷った挙句に、新種のサービスではなく、個配事業者が提供するメニュー内で選ぶという顛末が多いように思える。

(イメージ)

「届けてもらう」を選択すれば、多少の幅こそあれ、一定の拘束時間を伴う行動制限を強いられることになる。それがルールであり、承知の上で購入確定したはずだが、自ら約束事を破る人は少なくない。よって「日時指定なのに不在」という矛盾が頻繁に発生する。

配送料金が高止まりから上昇する今後は、そのような反故行為にはペナルティやコスト負担が科せられるだろうし、販売者が悪質と判断すれば「もうあなたは買えません」と通告される可能性も否めない。つまり購買与信には配達履歴まで反映されるようになる。これについては既掲載「あなたは買えません-配達履歴という与信-」https://www.logi-today.com/384920をご参照いただきたい。

本来「万全」ではない、受領時のストレスを送受双方が負担する仕組み

受領時のストレスを送受当事者の双方が排除しきれない仕組みは、販売サービスの仕上げ機能として及第ながらも万全とは評しがたい。もうひとつの消費者心理として多数派を形成するのは「送料負担は嫌だが取りに行くのは嫌ではない」という集団である。それはある品物を購入するために訪れる店舗までの交通費支出には抵抗がないのに、同じ品物を同一店舗から有償配達してもらうことは、何となく損した気分になるのと同種の潜在意識――のような説明をEC事業者向けのセミナーなどでよく耳にしたものだ。

いわゆる消費者意識の根本を変えるには時の経過と時勢が必要だ。その結果、大勢は正論を掲げて啓蒙活動するより「買いやすく」を第一において、送料無料や横並び程度の負担額にしておく方が商売人としては無難、というところに落ち着く。

「お客様が買いやすく、うちも損しないように」をさらに進めて、利は元にありと個配事業者や委託倉庫会社を値切っても、業務単価抑制の中、労働力不足と最低賃金上昇などによる労務費増大の相乗苦にあえぐ物流事業者はいい返事をするはずがない。

新型コロナウイルス禍によるEC隆盛を、焼け太りと揶揄(やゆ)する向きも承知しているが、収束後に「正常化という名の2年前」に戻るとするなら、それは消費縮小、労務コスト上昇の利益圧縮条件がむき出しのまま裸で降りかかってくるだけだ。雇用調整金は打ち切られ、実質金利ゼロをありがたく感じていた借金の返済は重いまま数年間続く。コロナ禍などなかった、「元の姿」とされている2019年以前は、明るく好景気だったという記憶も記録もないのだから、少し考えればわかる。読者諸氏の手帳や業務履歴を見返すまでもない事実だと思う。

「在宅時間が長くなれば、ECはますます有利になる」は本当か

ただし、コロナ禍がもたらしたものの中には、生活者と物流業界にとって、大きな転換点となる項目が含まれている。それは在宅勤務の一定比率が定着するということだ。

(イメージ)

かつ、時差出勤、フレックス勤務時間も同様に拡大するとのことなので、住居地の郊外分散化がより進む。であれば、今以上に購買活動の地元密着度は増すだろう。郊外型のショッピングモールやスーパーマーケットはもちろん、ロードサイド店舗の活況も見込める。当然ながら過当競争も同時に招くし、売手がそれを良しとするとは限らない。

ただ、「在宅時間が長くなれば、ECはますます有利になる」という見立てにはいささか疑問を感じている。ひとえに配達場面での個配依存が解消されないならば、ECの優位性は盤石とは言い難いはずだ。

個人の可処分時間が長くなればなるほど、単に荷物の到着を待つための在宅待機を嫌う傾向が強まる。「可処分時間=行動制限のない時間」という心理が明確に消費動向に反映されるようになるというのが私見の根拠だ。結果として、来店型の受け取り行動が増加するし、売り手側にとっては効率化による収益性向上に加え、付加サービス相乗の可能性まで見込める千載一遇の好機到来となるのではないだろうか。

つまり、個配における宅配比率は一層低下し、店内ピッキングと専用カゴやオリコンなどに個人別パッキングして伝票添付、で完結するBOPIS対応作業が増加する。店舗運営事業者によっては、敷地内もしくは隣接・近隣地に、BOPIS専用倉庫や作業場を増設する必要性も大いに考えられる。蛇足だが、従来の店舗発配達サービスも併用できることは当然である。それがクリックで始まる購買なのか、来店買い回りによる購買なのかにかかわらず、だ。

―第4回(最終回、12月6日公開予定)に続く

「『受け取りかた』が物流を変えるとしたら」第1回

「『受け取りかた』が物流を変えるとしたら」第2回