ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

コラム連載

「『受け取りかた』が物流を変えるとしたら」第1回

2021年11月15日 (月)

話題永田利紀氏によるコラム連載第10弾「『受け取りかた』が物流を変えるとしたら」がスタートします。物流の切り口から鋭く現代社会を捉える永田氏は、徹底した現場目線で物流業界の動向を捉えてきました。今回は、EC(電子商取引)の急速な普及で見えてきた、荷物の「受け取り方かた」をめぐる攻防にかかる提言を4回シリーズでお届けします。

第1回「次の覇者とEC」

世界の個配市場は、EC(電子商取引)に支えられていると言って過言ではない。中国の個配総数は本年2021年に1000億個前後に達し、22年以降もまだ相当に伸びるというのが妥当な見立てだ。京東の京東物流(JD Logistics)、アリババグループの菜鳥網絡(Cainiao Network)などの巨大物流拠点から日々出荷される膨大な物量を、順豊速運(SF Express)をはじめとするスーパーキャリアが広大な国土の津々浦々に配達する。彼らに対抗できるのは目下アマゾンだけだ。(永田利紀)

ガリバー進出を阻む、新たな消費圏の「悲観的」な条件

今後は中国と米国に迫る消費大国・もしくは消費圏が生まれ、そこで成長する新勢力が台頭するだろう。もちろん先行する米中のガリバーたちは、ブルーオーシャンに先乗りして網を掛けたいところだろうが、目論見どおりに事が運ぶほど相手は愚かではないようだ。

(イメージ)

過去に先進国と呼ばれた老成大国たちは、温帯や一部亜熱帯もしくは亜寒帯に国土を置いている。しかし、今後台頭する諸国は、より過酷で厳しい気象下での暮らしを常としていることも珍しくない。承知しておかねばならない点は、高温多湿や気温の日較差が大きいというだけにとどまらない。食品をはじめとする保管環境や衛生水準の維持に必要な施設や機器の普及度合い、そして何よりも治安やモラルの相違について、相当の悪条件を覚悟しておかねばならない。

保管拠点の設備や環境、配送経路や配達地までの道路事情や街区整備など、国や地域を問わない基礎条件を「かなり悲観的」「想像以上に悪い」に設定してみれば、さらなる物流技術や仕組みの加工・修正、ひょっとすれば新案まで必要とされるかもしれない。あえて注釈をつけるまでもなく、それらの国々ではわが国や米国型の「置き配」の普及は当面見込めないだろう。あわせて今から伏線化しておくべきことは、先進諸国において現在進行形で巨大潜在市場を開拓中である日用食品需要のEC化と個配モデルだ。

人口急増諸国ではまさに巨大市場となるはずだが、各種インフラと設備普及が進まない限り、気候と治安の両面から無理がある。市場化を目論む異国からの参入者は、技術供与を腰だめにして先駆けを争うに違いない。

ここまでのハナシを整理すると、今後の発展が見込まれる諸国では、小売店舗の増加と並行してのEC拡大となりそうだが、ECについては宅配による対面受け渡しが基本とならざるを得ない。かつての米国や日本がそうであったようにだ。

「次の消費大国たち」に対して日本はどう挑むか

具体的な予測にあたっては、広大な国土面積や気候多様性を有する米国の沿革を振り返ることが有効だ。米国で起こったことは、一定の時差をもって日本でも起こる――。インターネット普及以前のマーケティング分野では常識化されていた。今現在、どの程度の時差や変異を伴うのかは不明だが、米国で起こったことは日本や欧州で起こり、同じく影響を受けた中国は、その手本・目標とした米国に肩を並べて抜き去ろうと画策してやまない。

では、背後に迫る「次の消費大国たち」はどのように考え行動するのだろうか。後尾から追撃する有利さを存分に活かし、自国の国土地形や気候条件、国民性や消費性向を勘案の上、仕組や技術の取捨選択を行うに違いない。つまり、これまでに新しい世界を拓く道具として称えられてきた「EC」の利点や普遍性をそのまま鵜呑みにはしないだろうし、顕在化してきた歪みや不適合事例ももれなく洗い出して検討のテーブルに載せるはずだ。

他でもないわが国日本は、新市場で新旧がせめぎあう様を、ただただ傍観して過ごすのだろうか。それとも毎度のお約束どおりに米国の使い走りや巨体に寄生するコバンザメのごとく、ガリバーの懐から戦場に落下傘投下さながらに舞い降りて、小刀外交と重箱の隅担当に勤しむのだろうか。近年の各分野がそうであったように、物流サービスの分野でも他国の後塵を拝すのは避けたい、と強く願うのは私だけではないはずだ。

世界のEC市場が直面する「受領」の多様化

世界のEC市場は、今後何度かの大きな節目を迎えるだろう。中でも物流業界にとって重要な変革は、「受領」の多様化であると考えている。明らかに物流後進国化しつつあるわが国は、早急に今後主となる商流の見極めを済ませ、それに応じた物流作法の技術追及に取り掛からねばならない。そして、先駆者たる米中がすくい取れていない「大雑把が生み出す隙間」や「最先端のさらに先」に投入できるサービス技術を開発して、国内運用で実績を重ね、返す刀で新興国市場に打って出るべきだ。きめ細やかで几帳面な日本型サービスと日本人の潔癖さや誠実さに対する信頼は厚い。ビジネスや観光目的での海外からの来訪者の賛辞がなによりの証左だ。

(イメージ)

他国への売り込み云々以前に、まずは国内市場における「届ける」と「取りに行く」の均衡点を探り当てなければならない。都市部と周辺部、人口過疎地などの分類別対処策に、生活スタイル別分類などを掛け合わせた日本型EC、日本型BOPIS(ECサイトで購入した商品をリアル店舗で受け取るショッピングスタイル)の完成形を仮想し、試行すべきだ。その先には購買から受領に至るまでのモノの動きが現状から大きく変わる可能性が見え隠れしている。

現時点ではあくまで私見に過ぎないが、BOPIS型の能動的受領形態が主流化し、既存のEC型受動的形態は比率を下げていくと考えている。それには貨客混載の規制緩和を主眼とする法改正や運用柔軟化が必須であり、緩和後の速やかな運用開始のためにも、自治体と商業施設が協業ともいえる「生活インフラとしての購買と配達機能の供給」を堅持するための財政確保が不可欠なのは言うまでもない。

大きな変革に欠かすことのできない環境適応のための利器開発や、繊細で周到な補完機能の特定と手当ては、わが国の得意とするところ。ならば、迷いなく打って出る、の一択しかないと思うのは私だけではなさそうだ。

―第2回(11月22日公開予定)に続く