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丸和運輸機関に是正勧告、業務委託の違法性指摘

2022年5月31日 (火)

ロジスティクス丸和運輸機関が業務委託をしていた個人事業主のドライバーとの関係について、労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受け、それに服して改善報告書を提出していたことが5月31日わかった。本来対等であるはずの業務委託先との関係が、適正さを欠けば「違法な雇用関係」とみなされることが示された形だ。物流業界では人手不足で個人事業主に対する業務委託への依存度が高まっているだけに、業界各社へも少なくない影響を与えそうだ。

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この問題は今週、一部で報道された。丸和運輸機関はLOGISTICS TODAYの取材に対し、ことし1月に春日部労基署(埼玉県春日部市)から是正勧告を受けた事実を認めた。勧告内容など詳細は明らかにしていないが、同社がネット通販「Amazon」(アマゾン)の荷物の宅配業務を委託した一部の個人ドライバーとの関係が、事実上の「雇用関係」にあるとみなされた模様だ。業務委託の範囲を超える「指揮命令」があったため、同社が使用者、ドライバーが労働者に該当すると判断されたとみられる。

そのため、ドライバーの受託業務が1日8時間以上に及べば、労基法で定める法定労働時間を超える長時間労働となり、ガソリン代などの諸経費も個人事業主としての負担ではなく労働者の自己負担に当たると判断された可能性がある。

同社の広報担当者によると、同社は勧告を受けた当初、「労働者性は認められない」と雇用関係に否定的な立場をとり、労基署に見解の相違を伝えていた。しかし、話し合いを続けた結果、「最終的には是正勧告を受け入れ、指摘された事項への改善指示に対応した。報告書も提出した」(広報担当者)という。

労基署が違法性を指摘した業務委託先との関係とはどのようなものだったのか。一部報道では、宅配ルートの指定や予定外の配達の急な指示、制服着用の要求、報酬の一部天引きなどが挙げられている。業務委託先の自由や裁量を担保し、本来の対等な関係を逸脱しないように、宅配業のみならず物流業界のあらゆる企業には最大限の注意義務が求められる。(編集部・東直人)

物流インフラを確保するうえであるべき「法」の姿とは。知恵を出し合うべき課題だ

丸和運輸機関が、労働基準法違反の是正勧告を受けて、改善報告書を提出していたことがわかった。個人事業主への業務委託について、一部の個人ドライバーとの関係が「事実上の雇用関係にある」との労基署の指摘を受け入れた形だ。丸和運輸機関の今回の判断は、業務委託先との「対等な関係」を改めて順守する姿勢を示したと言える。しかし、社会に不可欠なインフラである物流の現場を支える運輸事業者にとって、個人事業主との関係性はどうあるべきなのか。こうした観点での議論がおざなりのままで、個人事業主の意向が優先される事態が続けば、物流インフラは崩壊を招く可能性さえあることを考慮すべきではないだろうか。

業務委託先との対等な関係性を確保することは、否定する余地がない。ただし、今回の丸和運輸機関の業務委託をめぐる労基署の判断は、腑に落ちない印象がある。個人事業主など業務の担い手の立ち位置を重視するあまり、事態の「本質」をともすれば見逃しているのではないか。そんな気がするからだ。

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運送事業を展開する企業の従業員から独立して、個人事業主を目指すドライバーが増えている。こうしたドライバーの本音は、「とにかく自由に荷物をどんどん運びたい」というものだ。年収1000万円も夢でなかった時代は過去の話。今や運送企業でも業務適正化は徹底され、コンプライアンスの名の下に、厳しい規則の順守が求められる。一方で、消費スタイルの多様化は、宅配サービスにおけるさらなる品質向上を要請する。まったく矛盾した市場環境が展開されるなかで、こうした個人事業主が次々と生まれている実情は、むしろ必然と言えないだろうか。こうした個人事業主が、世界最高品質の物流を支えているのだ。

労基署の判断は、あくまで適法なものであるのは間違いないだろう。それであれば、その「法」そのものの適正さを判断する機会があるべきではないか。今回の案件について、司法の判断をぜひとも聞いてみたかった。いずれ同様のテーマは遠くない将来、必ず議論になるだろう。その時、物流現場はさらに混迷した状況を呈していることは想像に難くない。法律はどこまで実態に即しているのか。今こそ、知恵を出し合うべき課題なのだ。(編集部・清水直樹)