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EC倉庫を支える「不撓不屈」の精神【前編】

2022年8月5日 (金)

話題物流倉庫での仕事にやりがいを感じていたある日、突然の白血病の宣告。1年2か月におよぶ治療を経て現場にカムバックし、今やセンター長として倉庫全体を統括する立場に――。

まさに「不撓不屈」(ふとうふくつ)の精神力で、生死の境をさまよう局面をも乗り越えて、この瞬間も物流倉庫の現場を担う男がいる。アマゾンジャパン「大東フルフィルメントセンター」(大阪府大東市)の金子卓司サイトリード(センター長)だ。

2012年10月にアマゾンジャパンに入社してまもなく10年。現在も病魔と闘いながらも、センター長として多忙な現場における就労環境の改善に心を砕く金子さんを支えるのは、ともに汗を流す仲間との「心」の交流が育んだ相互の信頼感だ。

米国を拠点にグローバルでECビジネスを展開するアマゾンは、従業員同士が信頼関係を築くことで顧客サービスの最大化につなげる指針を設けている。金子さんの仕事を支えるのも、こうしたアマゾンの風土だ。ここでは、金子さんのアマゾンジャパンにおける10年の取り組みを通して、アマゾンがECサービスの価値を最大化するためのモチベーション創造戦略について考える。(編集部・清水直樹)

35歳でのアマゾンへの転身

銀行からコンビニエンスストアチェーンを経て、2012年10月に35歳でアマゾンジャパンに入社した金子さん。コンビニエンスストアチェーンでは店舗の運営を支援するスーパーバイザーとして、休む暇もなく仕事に明け暮れる日々だった。第1子が誕生し妻も育児と家事に追われ、気がついたら夫婦のすれ違いが当たり前になっていた。

「仕事と家庭を両立しなければ」。いわゆるワークライフバランスの意識が芽生えた金子さんは、8年間勤めたコンビニエンスストアチェーンの退職を決意。転職先を相談していた支援会社から紹介された候補のなかに、アマゾンジャパンがあった。これが運命の出会いとなった。

2012年と言えば、国内でも都市部を中心にECサービスがようやく普及し始めたころだ。アマゾンでさえも、今ほどの知名度がなかったのは言うまでもない。しかし、金子さんはアマゾンの担当者との面談も踏まえて、ある確信を抱いた。「モノの流れを見て生産性を追求していく仕事。やりがいを感じました」

(イメージ)

アマゾンジャパンに入社後は、自宅に近い大東フルフィルメントセンターでエリアマネージャーとして商品の検品から棚入れまでのインバウンド(入荷工程)を担当。コンビニエンスストアチェーン時代に抱えていた、休日も仕事に追われるなどのストレスもなく、同僚ともすぐに打ち解けた。仕事への効率追求に取り組む姿勢を打ち出しながら、センター内における安全意識も徹底する雰囲気には新鮮な驚きがあった。

物流業務を一日も早く自分のものにしようと奮闘した成果もあり、早くも2年後にはファンクションマネージャーに昇格。インバウンドの統括業務を任された。さらに3年後には新設する「藤井寺フルフィルメントセンター」のインバウンド責任者に選ばれるなど、まさに順風満帆な“物流人生”を歩んでいた。新設センターの順調な稼働を見届ける形で、2020年1月には埼玉県の新設センターへの転勤も決まった。

金子さんの心の拠り所でもあるアマゾンの指針「LP」

ここまで金子さんが順調にキャリアを積み重ねた背景には、アマゾンが掲げる「リーダーシップ・プリンシプル」(LP)という概念がある。アマゾンがグローバルで事業を展開するにあたって人材採用・開発のベースにもなる企業文化の骨幹をなす、16項目からなる行動規範だ。

「仕事におけるパフォーマンスはもちろん大切な要素ですが、このLPが発揮できないと評価されないのがアマゾンの人材育成の基本的な考え方です。私も入社後に上司や同僚とともに仕事に取り組む過程で、LPを実践する大切さを学ぶことができました」(金子さん)

アマゾンジャパンに入社して7年余り、すっかり物流倉庫の担当現場を切り回す仕事も板についた。すでに3人の子供の父親になっていたこともあり、埼玉へは単身で赴くことを決めていた。

金子さんは、埼玉県への赴任に先立ち、定期検診を1か月前倒しした。肝臓に持病を抱えていた金子さんは、以前から3か月ごとの定期検診を続けていたのだ。ところが、この検診結果が金子さんの今後の運命を変えることになる。

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