ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

EC倉庫を支える「不撓不屈」の精神【後編】

2022年8月5日 (金)

話題金子さんの元に届いた診断は、目を疑うものだった。「急性リンパ性白血病フィラデルフィア染色体プラス」。血液のがんである白血病の一つで、初期での発見だった。この日も通常と変わらず仕事をこなし、体調にも異常はなかっただけに、衝撃は大きかった。翌日から入院による治療が始まった。赤血球が減少し、血小板は健康な成人の4分の1に減少していることが判明。造血機能の回復が急がれる事態だった。

(イメージ)

抗がん剤をはじめとする薬物治療とともに、骨髄移植のドナー探しも進められた。骨髄バンクでは適合者が見つからず、兄の血液成分を移植する「ハプロ移植」を行うことに決まった。まずは全身への放射線治療と抗がん剤の投与を4か月にわたって実施。その後の骨髄移植が終わってからも、さまざまな副作用や感染症などで生死の境をさまよう時期もあった。そして2021年4月、入院前の職場だった藤井寺フルフィルメントセンターへ1年2か月ぶりに復帰した。

前編を読む<<

金子さんが復帰を希望した理由とは

順風満帆とも言えるアマゾンジャパンでの人生を歩んでいた金子さん。突然の白血病の宣告から入院治療、さらなる副作用や合併症などで入退院を繰り返すなかで、復職する決意は揺るがなかったという。金子さんの復帰の意思を促したのは何なのか。

「きっかけは、入院中に藤井寺の職場の仲間から届いたメッセージでした。病院へ見舞いに来てくれる同僚もいました」。金子さんは、こうした同僚からの励ましが復職を決意する要因の一つになったと振り返る。

「これはまさに、アマゾンの掲げるLP(リーダーシップ・プリンシプル)そのものだと実感しています。『必ず職場に戻ってきて』との同僚の思い。これは相互に信頼関係が構築されていることを意味します。私も、職場のリーダーとして、同僚に意思を伝えられていたのだと実感したのです」

アマゾンジャパンの休職制度をはじめ、従業員の福利厚生制度の一環として傷病時の収入減を補償する「GLTD(Group Long Term Disability)制度」も、妻と人の子供を抱える金子さんにとっては頼もしい存在だった。

金子さんの胸の内に「アマゾンに戻って仕事で還元したい」との思いがよぎったのは、入院先のベッドで治療を進めていたある日のことだったという。LPの精神に支えられた同僚の励ましに加えて、従業員の生活を重視するアマゾンの就労環境確保に向けた姿勢が、金子さんに生きる力と職場復帰の意欲を提供したのは間違いない。

金子さんは21年4月に藤井寺フルフィルメントセンターに復帰してからも、経過観察で検査を受け続けている。月2回の血液検査に加えて、3か月に一度の骨髄検査が欠かせない。「今後、再発しないとも限らない」(金子さん)からだ。

とはいえ、職場復帰とともに元気を取り戻した金子さん。復帰した年の暮れに、上司から相談を持ちかけられた。大東フルフィルメントセンターのサイトリード(センター長)の打診だった。

「アマゾンジャパンという会社への恩返し。そんな思いで引き受けました。血液検査などで職場を外さなければならない身でありながらではありますが、仲間の支援を信じました」。金子さんはことし1月、古巣のセンターを指揮する重要な任務に就いた。

金子さんが具現化する「アマゾン」の従業員育成の優位性

金子さんの10年間のアマゾンジャパンにおける様々な体験が示唆すること。それは、物流という社会インフラを支える現場で従業員に「やる気」「モチベーション」を提供する大切さだ。さらに、それを喚起する活動を、アマゾンジャパンという運営主体が率先してイメージを策定して従業員が実践できる形で明文化していることだ。

金子さんが復帰の意思を貫いた背景には、アマゾンジャパンが「職場における復帰への期待」とともに「金子さんが仕事を離れる場合も代わりの要員を置く」との明確な意思表示があった。つまり、「安心して戻ってきてください」との励ましに加えて、「安心して検査に行ける体制を整えています」との安心感を提供したアマゾンジャパンの計らいがあるのだ。

物流現場では、アマゾンをはじめとするEC(電子商取引)サービスの普及などによる消費スタイルの多様化が、新型コロナウイルス感染拡大を契機に加速。全国の多くの物流現場で人手不足が露呈し、その解決策として物流DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目を集める。

人手不足の要因を考察するうえでどうしても偏りがちになるのが、いわゆる「なり手がいない」論点だ。つまり若い世代を中心に物流現場での就業希望者がいないというわけだ。果たしてそうだろうか。

人材は、採用すればそれで確保されるわけではない。むしろ、採用後にどう「育成」するかが重要だ。ところが、物流現場における人手不足の問題にかかる論調は、そうも採用難を指摘するベクトルに偏る傾向があるように思えてならない。もしもこうした職場であったならば、金子さんのような事例で会社や同僚はどう対応しただろうか。そして、金子さんは復帰の意思を維持することができただろうか。

ここに、アマゾンのLPをはじめとする従業員への対応方針に対して、社会インフラを担う物流サービスを展開する事業体としての「使命」を感じる。さらに、その使命感をブランド価値向上にまで昇華させようとする挑戦は、全世界におけるアマゾンのステークホルダーに大きな活力を与える。アマゾンの取り組みは、国内における物流業界の抱える諸課題に対峙(たいじ)する重要なヒントを与えている。それを奇貨とするには、全く遜色ない存在であろう。それを具現化しているのが、ほかでもない金子さんなのだ。