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商船三井、女性活躍推進の新「なでしこ銘柄」に選定

2023年3月23日 (木)

認証・表彰経済産業省と東京証券取引所が共同で女性活躍推進に優れた上場企業を選定する「なでしこ銘柄」の1社に、2022年度は物流業界から商船三井が選ばれた。3年連続の選定だが、22年度は選定企業数が従来の50社ほどから17社に大幅に削減され、審査要件も厳しくなっており、選定の重みが各段に増した。長く「男性中心」とされてきた海運の世界から非海運事業にも注力し、社会インフラ企業への変革を目指す同社が、そのための原動力として女性活躍推進を最重要項目に位置付けたことが高く評価された。

高くなったハードル、「常連」東急は選外に

▲なでしこ銘柄のロゴマーク

「なでしこ銘柄」は、東証上場企業の中から女性活躍推進に優れた企業を選定し、投資家に魅力ある銘柄として紹介することにより、各社の女性活躍推進に向けた取り組みを加速させるのが狙いだ。12年度に始まったが、その後、なでしこ銘柄の株価がTOPIX平均よりパフォーマンスがよく、新型コロナウイルス禍後の回復も早い傾向がみられた。経産省と東証は自信を深め、「女性活躍の取り組みの加速が企業の成長戦略としても必要不可欠」として、11年目の22年度から制度をリニューアルした。選定企業数を各業種1社ずつ合計17社と、これまでの半分以下に絞り込んだほか、取り組みを形式的に確認するのではなく、経営戦略や企業価値向上との関係を具体的に審査することにした。

物流分野からは、21年度までは「陸運業、倉庫・運輸関連業」と「海運業、空運業」の2つの枠から2社程度が選ばれていたが、今回から「運輸・物流」に一本化された。審査対象(応募企業)の14社の中には、旧陸運枠の「常連」だった東京急行電鉄が入っていたが、新制度の下で商船三井が東急を退ける格好でなでしこ銘柄に選ばれた。

女性社員によるマングローブ林再生、重要事業に

経産省の「なでしこ銘柄」事業事務局は、商船三井の評価ポイントを3つ挙げている。(1)社長自身が「同質的な集団」のリスクを認識し、メッセージ発信や社外行事への参加などを行い、女性活躍推進施策の実効性が期待できること(2)女性社員に特化した取り組みだけでなく、人事制度自体の改善計画が明確(3)「経営戦略との関係」が事業ポートフォリオの改革として明確で、新規事業開発で成果が生じていること――。

▲マングローブ保全活動のイメージ(出所:商船三井)

このうち3つ目のポートフォリオ改革とは、商船三井が19年からビジョンを掲げて進めている非海運事業への注力と社会インフラ事業を担う企業への変革路線だ。審査資料の中で同社は「事業ポートフォリオの変革にはこれまで以上の多様性を必要とし、女性活躍推進は経営資源強化のための最重要項目である」と自社の姿勢を明確化している。

「新規事業開発での成果」とは、大学院に派遣した女性社員により新規環境ビジネスが事業化され、インドネシアでのマングローブ林の再生・保全を行うブルーカーボンプロジェクトに参加したことを指す。この事業は商船三井が経営戦略の柱の一つに据える「環境戦略」の中で主軸を担う事業となっており、サステナブルな企業であることを投資家などにアピールする上で重要な要素となった。

多様性や人材確保、各社共通の課題

経産省がウェブサイトに掲載した女性活躍推進のベストプラクティス集にも、商船三井の女性技術社員登用の事例が紹介された。同社には22年度に、船の設計・建造・研究開発などの技術系社員が73人いるが、このうち女性は5人で、まだ6.8%にとどまっている。業界にはなお「船の技術者は男性の仕事」というバイアスがあるが、それを脱却するため海外での選抜研修に女性社員を派遣し、活躍の場を広げているという。次世代を担う小中学生向けの職業体験オンラインイベントでも登壇者の男女バランスに配慮したり、採用活動では技術系陸上総合職向けの女性限定パネルディスカッションを実施、「技術系女性社員として活躍できる領域は多種多様である」というメッセージを学生に向けて発信したことなどが紹介されている。

▲技術系女性社員による船体外板の塗装検査の様子 (出所:国土交通省)

大学・大学院や高等専門学校など、技術系社員の採用対象となる母集団に女性が少ないなかで女性の採用をどう増やすかは、海運業界全体の課題でもある。また、陸運や倉庫など物流分野全体を見渡しても、多様な価値の創出や人手不足の解消という課題をどの企業も突き付けられており、商船三井同様、女性活躍推進が重要な答えの一つであるのは間違いない。新しい「なでしこ銘柄」への同社の選定を機に、経営戦略と強く結びついた実効性のある女性活躍推進策が、物流界に広く波及していくことが期待される。

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