
荷主まだ梅雨明け前だというのに真夏日が続く6月下旬、関東に270店舗以上を展開する家電量販店・ノジマの商品センターを訪れ、同社の熱中症対策について話を聞く機会を得た。
横浜市鶴見区の大黒町に拠点を構える同センターは、関東に270店舗以上を展開するノジマの物流拠点。この施設と埼玉県三郷市に開設した2拠点で、全物流業務を担う。

▲ノジマ・カスタマーリレーション部執行役部長の稲垣健志氏
カスタマーリレーション部執行役部長の稲垣健志氏は、「この大黒町のセンターだけで1日あたり250人が従事、庫内勤務だけでも1日あたり200人が働く」といい、同社物流機能の心臓部であると紹介。「夏本番を前にした今がまさに繁忙期。例年以上に早い真夏日の到来に、より一層のリスク管理が必要」(稲垣氏)と気を引き締める。
熱中症対策は一夜にして成らず、今すぐ現場リスク再確認を
同社の熱中症対策への取り組みは2020年からスタートした。ちょうど、コロナ禍の影響で物流のあり方の見直しが進められた時期とも重なる。「作業者にマスク着用が義務つけられた時期でもある。この年から、暑さによる体調不良を訴えるケースが出始めたことが、庫内環境見直しに取り組むきっかけとなった」(稲垣氏)という。
それまでも、施設内で休憩呼びかけなどの対策は行われてきた。しかし、無理をしてでも作業を続けることを美徳とするような、誤った考え方が作業者に染み付いていたのも事実だ。
20年、まず最初に導入したのはファン付きの空調服だった。庫内業務に携わる全作業員に配布するため、2000着が導入された。

▲カスタマーリレーション部次長の玉置純平氏
その結果はどうだったのか。当時、庫内の熱中症対策に取り組んだカスタマーリレーション部次長の玉置純平氏は、「残念ながら不評だった。当時の空調服は機能もまだまだ未成熟。特に動きにくい、着にくいという評価で、せっかく用意したのに利用してもらえなかった」と振り返る。近年機能の進化も著しく、稼働時間や静音性、動きやすさや着脱しやすさも格段の進化を遂げている空調ウエアだが、当時の庫内作業現場の暑熱対策ツールとしては、まだまだ浸透させるには至らなかったという苦い経験も経たという。言い換えれば、早くから取り組んできたからこそ、試行錯誤し、より現場に最適な対策へと転換できたともいえるだろう。
早速、翌年には新しい対策に取り組み、ソリューション導入への投資を行なった。大型シーリングファンの導入がそれである。大型ファン12基の導入後には、体感温度が明らかに下がり作業効率も上がったと作業者からの評価も上々だったという。
「実はこれも、導入前は現場から本当に効果があるのか、懐疑的な声も多かった」(玉置氏)という。大型シーリングファンは、扇風機と違いゆっくりと頭上で羽根が回転するだけ。どれくらいの効果があるのか、日本ではまだ馴染みのないツールだった。同社のように、実際の運用が検証される場が広がることで、現在、さまざまな製造現場などへの導入が次々と拡大するきっかけになったのかもしれない。大黒町の現場でも、すっかり暑さ対策の基本ツールとして運用が定着している。

▲暑さ対策として現場作業員から高い評価を得た大型シーリングファン
さらに、作業内容や作業場所によって、水分塩分補給の配慮、庫内テントや冷却ベスト、エアコン設置など、細かい見直しで改善を積み重ねてきたという。絶えず、作業者目線での改善を考えてきたということは、異常にいち早く気づきすぐに対応するという、熱中症対策の基本取り組みの実践を積み重ねてきたことだといえる。また、熱中症対策を本格化していない事業者にとっては、一朝一夕には解決しない課題であると認識し、いち早く取り組みを始めるきっかけにもなるだろう。
「ウェアコン」は、熱中症対策におけるヘルメット
さらに、ことしから新たなツールとして導入したのが、ウエアラブルエアコン「ウェアコン」である。ウェアコンは、頸部(けいぶ)に装着することで圧倒的な冷却能力を発揮するツール。これまでも同様の冷却装置は発売されていたが、よりコンパクトで装着しやすい設計に改善した新製品として発売されたのがことしの春だった。
「発売に合わせて200台を導入、庫内作業者が使用できる体制を整えた。人間工学に基づいた合理的な熱中症対策として導入を決断。幸い使用者からの評判も上々」(玉置氏)だという。6月からの企業の熱中症対策義務化に合わせた導入タイミングであるが、「現場の意見を拾い上げながら、常に改善を検証し、有効だと考えた新ツールがたまたま、この時期の発売となっただけ。規制的措置に後押しされたのではなく、あくまでもこれまでの延長線上にある、より有効な改善策の実行」(稲垣氏)と位置付ける。

▲「ウェアコン」運用シーン
稲垣氏は、「導入前に周知したのは、装着して決して気持ちいいものではない、ということ。快適にするための道具というと誤解になると考え、命を守るための道具であることを理解してもらった」という。確かに小型化されたとはいえ、腕時計のように常に着けていて違和感がないといえば嘘になる。ただ、「ヘルメットも同じではないか。安全を守るための道具として、着けることが当たり前という環境に変えていくことも、熱中症対策の重要な要素」(稲垣氏)。それぞれの安全は、それぞれがが守るという意識を醸成する上でも、ジャストフィットなツール導入だったといえるだろう。
庫内では、搬送の自動化なども進み「作業負荷の削減自体も、もちろん熱中症対策につながる。今後も作業の効率化の検証を続けていく」(玉置氏)という。
こうした取り組みに加え、全従業員の賃金ベースアップや現場手当の支給など賃金制度の改訂で働きやすい職場、人材が定着する職場を目指したことが、「この1年では、人手確保で苦労するという状況ではなくなった」(稲垣氏)というから、雇用者目線の取り組みや投資の一つひとつが、選ばれる職場作りに奏功している状況だ。
さらに同社では、ウクライナ避難民11人を対象とした就労支援も開始した。出荷や商品管理など、センターの安定運営の貴重な戦力になるとともに、人道支援ともなるこうした活動姿勢は、社員全員への労りなどにも反映された、事業の基盤となっていることがわかる。
暑さのピークはこれからが本番。熱中症事故はもはやひとごとではない。生活の中の当たり前の裏側にある取り組みを消費者が知ること、評価することも、これからの消費者の当たり前とすべきではないだろうか。
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