荷主ニトリホールディングスの物流子会社ホームロジスティクスが、XYZロボティクス(中国、日本法人:東京都千代田区)製デバンニングロボット「RockyOne」(ロッキーワン)の代理販売を開始した。物流ロボットメーカーでもSIer(システムインテグレーター)でもない「物流会社」が、自社の現場運用経験を武器にロボットを売る──。この事業モデルは、物流現場の自動化が抱える構造的な課題を映し出している。(編集長・赤澤裕介)

▲XYZロボティクス製デバンニングロボット「Rockyone」(出所:ニトリホールディングス)
物流センターの庫内作業では、AGV(無人搬送車)や自動倉庫、ピッキングロボットなど、さまざまな工程で自動化が進んできた。しかしデバンニング──コンテナやトラックから荷物を取り出す作業──は長らく「最後の人力領域」とされてきた。
理由は技術的なハードルの高さにある。コンテナ内部は狭く、荷姿は不定形。段ボールのサイズや重量はバラバラで、積み方も毎回異なる。さらにコンテナ内は夏場には50度近くに達する過酷な環境だ。こうした条件下で安定的に動作するロボットの開発は、ピッキングやパレタイズの自動化と比べて格段に難しかった。
状況が変わり始めたのはここ数年のことだ。ディープラーニングによる画像認識技術の進化と、ティーチングレス(動作教示不要)のモーションプランニング技術の実用化により、不定形な荷姿にも対応できるロボットが相次いで登場した。
現在、日本市場でデバンニングロボットを展開する主要プレイヤーは大きく3つに分けられる。
1つ目は、川崎重工業が2022年に発売した「Vambo」(バンボ)だ。同社の中型汎用ロボット「RS080N」にAGVを組み合わせたパッケージ製品で、コンテナ内に自動で進入して荷降ろしを行う。3次元AIビジョンシステムで荷物の位置やサイズ、傾きを即座に認識し、時間あたり最大600ケース(高速化オプション搭載時は最大800ケース)を処理する。最大可搬重量は30キロ。西濃運輸(旧・濃飛西濃運輸)の富加物流センターやロジスティード(旧・日立物流)の柏プラットフォームセンターでの導入実績がある。産業用ロボットメーカーとしての長い歴史に裏打ちされたアフターサービス体制が強みで、全国のサービス拠点網やリモート対応が導入の決め手になったケースもある。

▲川崎重工業製「Vambo」(出所:川崎重工業)
2つ目が、今回の主役であるXYZロボティクスのロッキーワンだ。18年に中国・上海で創業したロボットベンチャーで、22年に日本法人を設立した。ロッキーワンはディープラーニングによる画像認識とティーチングレスのモーションプランニング技術を搭載し、最大可搬重量30キロ、時間あたり400-1200ケースの処理に対応する。1-4箱の同時搬送が可能で、独自アルゴリズムによる積み付けプランの自動生成機能も備える。25年6月に丸紅ロジスティクスの茨城県つくばみらい市の物流施設に導入されたのを皮切りに、同年7月にはSGシステムとの協業でサンワサプライ東日本物流センター(千葉県)での本格運用が開始。同年10月にはオートバックスセブンの物流施設(兵庫県三木市)にも導入され、短期間で実績を重ねている。
3つ目は、米ボストン・ダイナミクスの「Stretch」(ストレッチ)だ。もともと二足歩行ロボット「Atlas」(アトラス)の開発で知られる同社が、21年に倉庫自動化市場への参入を宣言して投入した製品である。パレットサイズのコンパクトな移動式ベースに7軸ロボットアームとバキュームグリッパーを搭載し、最大23キロ(50ポンド)の荷物を時間あたり最大800ケース処理する。米国ではアパレル大手ギャップの物流拠点などで稼働実績があり、25年1月にはアップグレード版が投入されて作業エラーの4割削減を達成したと報じられている。ただし日本市場への本格展開はまだこれからだ。

▲ボストン・ダイナミクス製「Strech」(出所:DHL)
このほか、Mujin(ムジン、東京都江東区)のデパレタイズ/パレタイズロボットもコンテナ周辺の荷役自動化で存在感を示しており、デバンニング周辺の自動化は急速に選択肢が広がっている。
課題は「買った後」の現場定着
技術的な進歩は目覚ましい。しかし物流現場の自動化には、技術とは別の壁がある。「導入したロボットが現場に定着しない」という問題だ。
物流ロボットは製造業の産業用ロボットと異なり、扱う荷物の種類や量が日々変動する。季節波動もある。現場のレイアウトも固定的ではなく、オペレーションの変更が頻繁に発生する。こうした環境では、ロボットを「置いて終わり」にはできない。導入後の運用チューニングや、現場スタッフとロボットの協働オペレーション設計が不可欠であり、そこにこそ最も大きなノウハウが求められる。
従来、物流ロボットの導入経路は主に3つだった。ロボットメーカーからの直販、ロボットSIerを介したシステム構築、商社や代理店経由の販売だ。いずれのルートも、ロボット技術やシステム設計の知見は豊富だが、「物流現場の日常運用」に関する知見は必ずしも十分ではなかった。
ロボットSIerは製造業向けの自動化で長い実績を持つ一方、物流現場特有の課題──荷量の波動対応、多品種・多サイズの荷物への対応、既存の庫内動線との調整、繁忙期と閑散期のオペレーション切り替え──に精通しているとは限らない。メーカー直販の場合も、製品の技術サポートは手厚いが、導入先の物流オペレーション全体を見渡した最適化提案までは踏み込みにくい。
ホームロジスティクスの代理販売事業が注目されるのは、まさにこの「現場定着」の課題に取り組もうとするビジネスモデルだからだ。
同社はニトリグループ全体の物流機能を支えるなかで、現場の課題抽出、改善、設備導入、運用最適化を日常的に行ってきた。ロッキーワンについても、自社の幸手DC(埼玉県幸手市)で25年6月から実証実験を実施し、その後正式導入に至っている。つまり「自社で使って効果を確認した製品を、自社の運用ノウハウごと外販する」というモデルだ。

▲幸手DC(出所:ニトリホールディングス)
提供するサービスも、この位置づけを反映している。実機確認サービスでは、実際に稼働しているロボットの見学会を実施する。導入サポートでは、要件整理やPoC(概念実証)への立ち合いで顧客の導入判断を支援する。導入後も検収後の問い合わせ対応で運用上の不安を解消する。いずれもロボットメーカーやSIerが提供する技術的なサポートとは異なり、「物流現場のユーザー目線」に立った支援を志向している。
こうした「ユーザー兼販売者」のモデルは、物流業界では必ずしも前例がないわけではない。大手物流会社が自社で開発・導入した倉庫管理システム(WMS)を外販するケースは以前からあった。しかし、ハードウエアであるロボットの代理販売を、物流会社が現場ノウハウを付加価値として手がけるケースは珍しい。ニトリグループの物流子会社がグループ内業務にとどまらず、蓄積したノウハウを外部向けの収益源に変えようとする動き自体は、物流業界全体のトレンドとも合致する。
ただし、このモデルが事業として軌道に乗るには、いくつかの条件を満たす必要がある。
まず、ニトリグループ内で培った知見がどこまで汎用性を持つかという問題がある。ニトリの物流は家具・インテリア用品が中心で、荷姿や物量パターンには一定の特性がある。業種や取扱商品が異なる顧客の現場で、同じ知見がそのまま通用するとは限らない。外部顧客向けのソリューション営業や技術サポートの実績もこれからであり、グループ内向けの運営とは異なるケイパビリティーが求められる。

取扱製品がXYZロボティクスのロッキーワン1製品に限られる点も、今後の展開を左右する。顧客の現場課題は多様であり、デバンニングに限っても荷物の特性やコンテナの種類、既存設備との連携要件は千差万別だ。複数の選択肢を比較検討したい顧客にとっては、1社1製品の提案では物足りない場面も出てくるだろう。同社は今後マテハン設備やロボティクスの取扱拡大を掲げているが、その実現スピードが問われる。
アフターサービス体制の構築も大きな課題だ。本記事で触れたように、川崎重工のバンボが評価される理由の1つは全国のサービス拠点網とリモート対応にある。「止められない」物流現場では、トラブル発生時の復旧速度が導入判断を左右する。ホームロジスティクスが販売エリアを関東から全国に拡大する計画を掲げるなか、技術的なトラブル対応をどこまで自社で担い、どこからメーカーであるXYZロボティクスに引き継ぐのか、その役割分担を明確にすることが顧客の信頼獲得には不可欠だ。XYZロボティクス自体も18年創業、日本法人設立は22年と歴史が浅く、長期的な製品供給やサポート継続性について顧客が慎重になることも想定される。
さらに、ホームロジスティクスの立場が持つ構造的な複雑さにも目を向ける必要がある。同社はニトリグループという大口ユーザーであると同時に販売代理店でもある。導入を検討する物流企業にとって、競合しうる物流会社にロボットの運用状況や現場の課題を開示することへの心理的な抵抗感は小さくないだろう。同社が今後3PL的な外部受託事業に踏み出す可能性も考えれば、ロボット販売先の荷主企業が将来的に物流委託を検討する際、販売元が受託候補にもなりうるという関係性は、顧客によっては慎重な判断材料になる。
また、ロボットSIerが担うシステム設計や安全規格対応、他の庫内設備との連携構築といった技術的な領域は、現場運用の経験だけではカバーしきれない。ユーザー目線の支援と技術的なインテグレーションの間をどう埋めるかは、事業の信頼性を左右する。
物流ロボットの技術は急速に成熟しつつあり、普及のボトルネックは「現場への定着」に移りつつある。ロボットメーカーは技術を売り、SIerはシステムを売る。しかし「現場でどう使いこなすか」を売れるプレイヤーはまだ少ない。ホームロジスティクスの代理販売事業は、この隘路に対する1つのアプローチだ。物流現場を熟知するユーザーが、自らの経験に基づいて導入から定着までを一貫支援するという構想には説得力がある。一方で、その構想を事業として成立させるには、ここで挙げたような課題を1つ1つ克服していく必要がある。
デバンニングという「最後の人力領域」の自動化が本格化するなか、技術の進歩と並行して、それを現場に届ける仕組みのあり方も問われ始めている。
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