ロジスティクス国際物流の現場では輸出入書類の確認、船社とのやり取り、港湾手配、通関書類作成といった複雑な業務はいまだ紙とメールとExcel(エクセル)が中心だ。熟練者の経験と判断力が価値の源泉であり、それは現場の強みでもある。だが、ベテランの定年や人材不足が進むなか、仕事の引き継ぎが難しく、「休まれると困る」「辞められたら回らない」という不安が漂う。結果として一部の担当者への依存度が高まり、属人化した業務の維持が組織全体のリスクにつながっている。
こうした構造的な課題に対して、リリースからおよそ1年で国際物流協会(JIFFA)加盟550社中80社の支持を集め、通関業務の効率化にも広がりを見せるサービスがある。輸出入オペレーションと通関業務を一気通貫でデジタル化する「Shippio Works」(シッピオ・ワークス)と「Shippio Clear」(シッピオ・クリア)だ。現場の知恵を生かしながら、人材不足や属人化といった構造問題に挑むその取り組みに注目が集まっている。これらのサービスを展開するShippio(シッピオ、東京都港区)を取材した。

Shippioが提供するShippio WorksとShippio Clearは、単なる作業効率化ではなく、「人の力を仕組みに変える」というアプローチで注目を集めている。Worksは輸出入オペレーションの情報・書類・進ちょく・対外共有を一元化するプラットフォームで、すでにJIFFA加盟550社中80社が導入。Clearは通関業務の書類読み取りや金額照合、申告書作成を支援し、通関士の業務時間を「電卓作業」から「顧客価値に向き合う時間」へとシフトさせる。Shippio Works/Shippio Clear事業部長の金城健氏は「通関士が数字を見る時間から、顧客と向き合う時間に変える。これは単なる効率化ではなく、価値の出し方を変えるものだ」と強調する。

▲通関の業務構造とShippio Clearによる業務削減効果(出所:Shippio)
属人化から“攻めの省人化”へ
国際物流や港湾の業務で長年続いてきた属人的なやり方は、経験値と勘から生まれる誇るべき現場力とも言える。しかし、属人性は裏返せば脆さでもある。業務のカギを握る担当者が休めば現場が止まり、退職すればノウハウが消える。Worksは判断の根拠ややり取りを履歴として残し、誰でも同じ品質で業務を再現できる形に変えていく。「人手不足の時代だからこそ、機械に任せる部分を増やし、人の力を伸ばす業務設計が必要」と金城氏は語る。新しい人材を一人採用するコストと育成期間を考えれば、システム導入により人を増やさず処理能力を伸ばす“攻めの省人化”という選択は合理的だ。

▲Shippio Works、Shippio Clearがカバーする業務領域(出所:Shippio)
Clearは通関現場の負荷を下げながら、品質と対応力を高める。複雑な照合作業をシステムが担うことで、通関士は顧客と向き合う時間を確保できるようになる。「通関士が本来価値を発揮すべき領域は書類の数字合わせではなく、顧客の課題に向き合い、リスクや見通しを伝えることではないか」。その思想がClearの設計に反映されている。

▲Shippio、Shippio Works/Shippio Clear事業部長の金城健氏
荷主を巻き込み、デジタルの主導権を取る
大手物流事業者では顧客からExcelによるデータ提供を受けて業務を効率化するケースが増える一方、中堅以下では「そこまで要求できない」現実も残り、紙でのやり取りが依然として主流だ。こうした環境でWorksを導入し荷主とシステムの共用ができれば、物流側が主導権を握る構造になる。
金城氏は「Worksで荷主を巻き込めば、イニシアチブを取ることができる。導入企業の中には、荷主から『うちにもこれを使わせてほしい』と言われているケースもある」と語る。従来“言われたことをこなす”立場だったフォワーダーが、デジタル化の方向性を示し荷主を巻き込む立場へと変貌しつつある。
ノーコードの限界と専用基盤の利点
改善意識の高い企業ではkintone(キントーン)などノーコードツールを使った業務改善も進む。しかし、複数の荷主がそれぞれ独自の運用をしていると、物流側は案件ごとに異なる入力フローや作法を覚えなければならず、そこで人的リソースが奪われる。Shippio事業本部本部長の井上裕史氏は「ノーコードは素晴らしいツールだが、国際物流は仕様変更が多いため、専用の仕組みの方が最終的に楽で正確だ」と説明する。受け身でツールに合わせるのではなく、自ら情報のプラットフォームを活用し、顧客を巻き込んで標準化していくほうが建設的というのは間違いないだろう。

▲Shippio事業本部本部長の井上裕史氏
感覚の現場から、測れる現場へ
従来、案件負荷や遅延理由は「肌感」で把握されてきた。Worksは対応件数、問い合わせ数、ステータス、遅延理由をログ化し、定量的に把握できるようにする。金城氏は「感覚で把握していた現場が、数字とログで見られるようになるだけで経営の判断軸が変わる」と語る。

▲社外とのやり取りもworks上のチャットで完結。関係各社とのやり取りも集約可能(出所:Shippio)
さらに、上長がメンバーの案件状況をリアルタイムで把握できる点も大きい。「こうしたシステムを使っていない現場では、上長はメンバーの業務や案件を管理する仕事はしておらず、メンバーがミスをしたときに頭を下げることが仕事になっているのではないか?」とも指摘する。情報が共有されれば、属人的な状態から脱出し、責任が個人からチームへ、そして組織へと正しく分散される。
また、案件の進ちょくが担当者以外にも把握可能なため、メンバーが急に休んだときもほかのメンバーがカバーに入れる。ある企業では多くのメンバーがシステムを使っていたが、一部のメンバーは活用が進んでいなかった。システムに情報が入っているメンバー同士ではスケジュール調整や進捗共有がスムーズで、同じクライアントの別案件同士の連携も自然と生まれていたが、非活用メンバーが休むと途端に案件が止まり問題になった。以降、そのメンバーも情報を入力するようになり、全体での定着が進んだという。属人的な運用がシステムの透明性によって自然と解消されていく好例だ。
スモールスタートで文化を作る導入戦略
Shippioのシステムの導入法は、いきなり全社展開ではない。まずは前向きな担当者から取り組み、確実に成果を出す。「最初にやるのは、無理に全員を引っ張ることじゃない。前向きな人から始めて、その人ができるようになったらインフルエンサーになってもらって、段階的に全面展開をしていくと導入がしやすい」。輸入業務の一部などスコープを区切り、運用ルールと例外処理を整理して型化し、成功例を横展開する。押しつけではなく「横から火が広がる」ように定着させるアプローチだ。

▲貿易書類をアップロードするだけで、高精度な読み取り・記入が可能で転記作業が軽減される(出所:Shippio)
経営者が最も不安視する“運用できるか”への回答として、既存システムとの連携実績がある。海運・通関業務で広く使われるOBIC7(オービックセブン)やForwarderPRO(フォワーダープロ)など基幹システムは種類が限られるが、Shippio Worksはすでにそれら全てとの連携事例を持つ。導入企業が自社の基幹システムと確実に併用できることは、導入判断の根拠として重要な要素と言えるだろう。「すでに導入済みの基幹システムと一緒に運用できるのか?」という最大の不安を、実績で払拭できる点はShippioの強みだ。
現場の努力を組織の強さに変える
Shippioの姿勢は、現場に押し付けるDX(デジタルトランスフォーメーション)ではなく、現場の知恵を仕組みに昇華するDXだ。「DXというと大げさですが、やっているのは“ちゃんとできる方法で確実に広げる”だけ。現場が納得する形で道筋をつくる。それが文化になる」と金城氏は語る。
国際物流は、人の判断と経験が価値を生む産業だ。Shippioがめざすのは、その価値を失うことなく未来に残すための仕組みを用意すること。人が磨いた技能を枯らさず、組織の力として継承する。そのためのクラウドであり、そのための導入プロセスである。紙の現場文化が決して悪いわけではない。むしろ現場の誇りと努力の積み重ねだ。だからこそ、Shippioのアプローチは静かで、現実的で、地に足がついている。変革は派手な掛け声ではなく、確かな一歩から始まる。港で、通関現場で、ひとつの操作から未来が変わり始めている。
■Shippio Works
https://service.shippio.io/works/
■Shippio Clear
https://service.shippio.io/clear/














