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IP無線アプリが示す現場効率化の新たな可能性

2019年12月3日 (火)

話題さまざまな業界で普及が進むIP無線にあって、その機能性・技術力・信頼性により、群を抜いて導入が進むIP無線アプリがある。導入を決めた物流会社の担当者は「スマートフォンのアプリであることが最大の利点。これに続々と新機能が加わることで現場の可能性が大きく広がった」という。そのアプリの名は「Buddycom」(バディコム)。

IP無線とは、携帯電話のデータ通信を用いて通話するもので、従来のMCA無線と同じように広範囲で多者間通話ができる。「Buddycom」は、専用機材ではなくスマートフォンのアプリとしてそのサービスを提供している。

アプリの開発元は、日本発のサイエンスアーツ(東京都新宿区)。国内ではJR東海やJALなど、主要交通インフラを担う企業が採用し、現在は欧米・アジアを中心に海外でも導入が進む。その信頼性は折り紙付きだ。

「Buddycom」は物流専用のIP無線アプリではない。しかし、導入を決めた物流企業へ取材を進めてみると、その機能性と開発力はまさに「物流現場の可能性が大きく広がる」ものだと感じた。ここでは、IP無線アプリの導入効果、「Buddycom」の費用対効果、今後の可能性を紹介する。

「報告連絡の管理が容易になった」–SBSゼンツウ東京西支店長・加藤和弘氏

従来のMCA無線では届かなかった地⽅都市や⼭林地帯でも、連絡が取れるようになった。拠点近くの都市部でも、なぜか無線が入らないデッドスポットがあったが、それも解消した。加藤和弘氏

こう話すのは、物流会社として初めて「Buddycom」を導入したSBSゼンツウ東京西支店の加藤和弘支店長。SBSゼンツウでは、メーカー商材の拠点間輸送、個別宅配、物流加工を担っており、同アプリを導入した基幹運輸部門は首都圏を中心に山梨・静岡・新潟・福島までの輸送を行っている。
これまで同社では、到着・作業完了・出発の定時報告にMCA無線を使用し、ドライバーから無線を受けた運行管理者が時間と報告内容を記録。無線がつながらない場合や、複雑な報告にはドライバーの個人携帯から会社のフリーダイヤルに電話を受けていた。

導入効果について加藤氏は、まず「通信範囲の拡大」を挙げ、続いて管理側のメリットについて次のように語った。

多数の車両を管理しているため、来客対応や電話対応、報告無線の同時受信などで運行管理者が無線を取れないケースがある。「Buddycom」では、受信履歴を見てすぐに折り返すことができるほか、通話の内容を後で再生することもできるため、聞き洩らしも軽減できる。加藤和弘氏

「Buddycom」には、SNSアプリのように位置情報・写真・動画を共有する機能に加えて、話した内容を自動で文字に起こして共有する機能が追加されているため、管理者が不在・応答中でも、ドライバーが簡易的に報告を残すことが可能だ。また、車載無線と違ってドライバーが現場で持ち運びできるため連絡がつきやすいことも利点として挙げられる。

加藤氏「大雪など交通が混乱している状況で、ドライバーが慣れないルートを走らなければならない場合、運行管理者が地図と車両の位置情報を参照しながら音声でドライバーを誘導できるメリットはあると思う」

確かに、災害などの非常時こそ無線が威力を発揮する場面である。しかし、従来の無線では一律に情報を伝達することはできても、地域限定の注意喚起をその地域にいる人にだけ伝えることはできなかった。「Buddycom」は、地図上で選択した一定範囲内の人とだけ通話できる機能が搭載されているため、即時に、限定された大勢に対して情報を届ける際にその効果が見込まれる。

「コストは変わらず、可能性が広がった」–SBSゼンツウ管理本部・浅見貴勇氏

MCA無線からIP無線アプリに移行するにあたり、課題はなかったか。

「ベテランドライバーを中心に、そもそもスマートフォンへの抵抗があった。しかし、実際には画面に表示されたボタンを押すだけなので、特に使い方を指導せずとも直感的に操作ができた」

こう話すのは、「Buddycom」の導入を担当したSBSゼンツウ管理本部の浅見貴勇氏(写真左)。開発元のサイエンスアーツと協力して操作の簡略化を進めた結果、ドライバーの平均年齢が50代という同社でも難なく移行できたという。では、導入コストはどうか。

MCA無線による運用コストと同額で、「Buddycom」を含むスマートフォンによる運用体制を整えることができた。スマートフォンには新たな機能を追加できる分、今後の可能性が広がった。浅見貴勇氏

従来のMCA無線による運用では、専用機材のリース代金とフリーダイヤルの電話料がかかっていたが、これと比べて本体のリース代をはじめとするスマートフォン中心の運用コストは大差がなかったという。

それであれば、車両交換のたびに車載器を積み替える必要のないスマートフォンは、機材管理の面倒もなく、新しい機能を追加できる点で、従来と比べて費用対効果があることは頷ける。

このIP無線アプリの料金体系には、「基本プラン」「音声テキスト化プラン」「翻訳プラン」「動態管理プラン」の4つがあり、1人あたり月額600円から利用できる。「翻訳プラン」では、会話の内容を多言語同時に自動翻訳できるほか、「動態管理プラン」ではアプリ内で車両の動態管理が可能となる。

「Buddycom」は物流専用のアプリではないものの、その機能は物流現場で求められている課題を簡単に解決しうるかもしれない。SBSゼンツウでは、外国人従業員の多い物流加工の現場で翻訳機能を試験導入しており、効果検証を続けているという。

開発を行っているサイエンスアーツの平岡秀一代表は「インフラ現場で裏付けされた高い信頼性と技術力、これが『Buddycom』が選ばれる理由。アプリの利用料金は開発支援金と捉えて、機能の拡充と新機能の開発に集中投下している」と、今後の可能性に言及した。

「大規模利用に強み、運転中スマホの課題に終止符」–平岡秀一代表

平岡氏「最も大きな会社で利用できなければ意味がない。だから10万人が利用できる基本設計にした。他社が最大ユーザー数500人とか5000人という中、『Buddycom』は既に1社で1万人が利用している会社もある。『運転中のアプリ通話は違法でないのか』というユーザーの懸念には完全に白黒をつけた」

同社は、開発当初から10万人規模の大企業が利用することを想定していた。これは他業と比べて従業員が多い物流業界にとっては大きな意味をもつ。また、IP無線アプリによるハンズフリー通話の適法性については、ことし5月に経済産業省、国家公安委員会といった関係省庁から正式なお墨付きをもらい、グレーゾーンを完全に解消したという。

今後は他サービスとの連携を積極的に推し進める。例えば自動車ディーラーでは、来店車のナンバーを自動で読み取り、予約内容を「Buddycom」の自動音声で伝達するという取り組みを進めている。これにより、担当営業が応対中でも代わりの人間が対応できる上、『○○様いらっしゃいませ。今日は車検のご用命ですね』と出迎えられた顧客は、そのおもてなしに感動を覚えるだろう。平岡秀一氏

この取り組みは、物流施設の積み降ろし現場でも応用がきくのではないだろうか。おまけに外国人作業員には母国語で指示がとんだらどうか。同氏は「物流との親和性は高いと感じている」と話し、日々新たなソリューションが開発されている物流現場でも、有用な連携を進めていくという。

人手不足により効率化と省人化が求められる物流業界にあって、音声通話だけにとどまらない「Buddycom」は、料金以上の付加価値をもたらす新しい選択肢になるのではないだろうか。

IP無線アプリ「Buddycom」の詳細