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老舗金物メーカー・オークスの物流向け設備に脚光

日立物流が昇降棚でEC物流対応、既存倉庫生かす

2021年3月2日 (火)

話題倉庫の保管効率と作業効率を最大化する。これは物流事業者にとって永遠のテーマであり、腕の見せ所といっていい。なぜなら、ほんの小さな工夫を加えるだけでも、1年後に数十万、数百万円の利益となって現れてくるからだ。

しかし、保管効率と作業効率のバランスを取るのは難しい。安全性や投資額、需要見込み、安定稼働するまでの時間、取り扱う商品の形質や重量、出荷頻度といった条件を加えると、物流会社は無限に存在する選択肢の中から最適解を見つけ出さなければならない。

■EC需要にローテクで応える

こうした中、業界大手の日立物流(東京都中央区)が老舗金物メーカーのオークス(新潟県三条市)と協力し、ひとつの答えを導き出した。多くの倉庫で使用されている中軽量ラックの天板部材に昇降棚を取り付け、人の手が届かない“デッドスペース”に新たな保管スペースを生み出すというものだ。日立物流は、2019年にオークスの「業務用昇降棚LF」を25台試験導入し、20年に200台の本格導入に踏み切った。

オークスの「業務用昇降棚LF」は、ラックの天板部材に取り付けた棚がピッキング作業者の手が届く範囲まで降りてくる仕組み。一般的な工具で取り付けることが可能で、動作に電源を必要としないのが特徴だ。1台あたり10キロまで積載できるため、幅1800ミリのラック上に2台並べて20キロの荷物を保管できる。

目をみはるような最新物流機器とは真反対の、いわゆる「ローテク」の代物だが、ここには”ものづくりの町・燕三条”で培ってきた老舗金物メーカーの技術が注ぎ込まれており、最先端の物流倉庫を手がける日立物流が、あえてローテクを大量採用するだけの理由があった。

■満床倉庫でアイテム数を増やす

機器を導入した日立物流首都圏の野田倉庫は、2004年に竣工した大手スポーツ用品メーカー向けの専用倉庫。4メートルから9メートルの天井高を持つ各フロアに衣料品や靴を保管している。2018年当時の野田倉庫は既に満床状態だったが、荷主は年々拡大するEC市場向けの販売強化を目指しており、日立物流はこれに対応するためのリニューアルに取り掛かっていた。

▲日立物流首都圏の有泉康一氏

床が埋まっているため、アイテム数を増やすには余剰空間を使用するしかない。天井高9メートルのフロアに自動保管システムの導入を決めたが、天井高4メートルのフロアの対策が難しい。日立物流首都圏で現場改善を支援するLE改善サポートグループの有泉康一マネージャーは、当時の状況についてこう振り返る。

「EC向けにアイテム数を増やすとなると、ピッキング間口も増やさなければならないが、そんなスペースはない。しかも、確実にアイテム数が増えるかわからない状況で、倉庫の稼働を止めるような工事は避けたかった」

▲踏み台は労災リスクが高まる

状況に応じてアイテム数の増加に対応し、なおかつ倉庫の稼働を制限するような設置工事や電源工事を伴わないことが理想だった。

また、労災防止の観点から踏み台を使用せず、小柄な女性従業員でもピッキング作業に不自由しないことが重要な条件だったという。

そこで、有泉氏は「キッチンで使用されているような昇降棚をラックの天板に設置できないか」と思いつく。電源やメンテナンスが不要であれば、ランニングコストもかからない。

■限界値の2倍に挑戦

問い合わせを受けたオークスは、外食・スーパー向けに業務用昇降棚を提供していたが、物流倉庫向けは初めて。これまで482ミリが降下量の限界だったところ、有泉氏からは「982ミリの降下を実現してほしい」と依頼された。これまでの限界値の2倍だ。身長155センチの女性従業員が、高さ2.4メートルの中軽量ラックから、踏み台を使わずに商品を取り出せる仕様を求めているという。

▲オークス開発部の深澤孝良リーダー

オークスで商品開発を手がける深澤孝良リーダーに当時の感想を聞くと、「もしあのタイミングでなければ、突っぱねていたかもしれないくらいの要求だった。外食・スーパーに加え、薬局や病院からも問い合わせがあり、ちょうど設計の見直しをしようかという段階にあったので、『よし、やってみよう』と考えた」と、笑みを溢した。

しかし、982ミリの降下量の実現はそう簡単にいかない。高さ2.4メートルのラックに取り付けるとなると、ラックが倒れたり、商品が落下したりして大きな事故につながるリスクが高まる。また、安全性に加えて、ピッキング現場の使用に耐えられる頑丈さも求められる。深澤氏は営業担当とともに何度も倉庫を訪れ、仕様を確認。部品の一つ一つから見直しを始め、問い合わせから1年後の2019年に試作品25台を完成させた。

最大積載量10キロで10万回の昇降試験を行い、耐久性をクリア。棚の奥側に傾斜をつけて商品を落下させない構造や、引き下ろすと適度なスピードで降下する仕組みで安全性を確保した。

■「単純に20%増えるという話ではない」

日立物流首都圏は、試作品が同社の要求を満たしていることを確認。有泉氏は、追加導入に向けて社内の説得に奔走した。野田倉庫では、昇降棚に軽量で荷動きの少ない商品を保管することで、中軽量ラック1台あたりの保管スペースが20%~30%程度増える。これを投資に見合う成果と評価するか――。有泉氏はこう説得した。

単純に20%増えるという話ではない。もともとは“デッドスペース”だった。つまり、0(ゼロ)を1にする取り組みだ。しかも、メンテナンスや通電といったランニングコストがかからず、設置にあたり倉庫の稼働を止めることもない。日立物流首都圏の有泉康一氏

こうして200台の本格導入が決まった。野田倉庫は、その他の自動化設備と組み合わせてEC向けの出荷体制を整え、荷主の要望に応えた。

■品質に自信、新しいニーズに応える

▲オークス営業部の永井伸一参事

業務用昇降棚LFは、EC市場拡大で保管アイテム数を増やしたい大手物流事業者やEC事業者から多くの問い合わせがあり、数百台規模で導入を検討している現場もあるという。オークスの永井伸一参事は、「業務用昇降棚LFには、家庭用と業務用の昇降棚を開発してきた当社の技術が凝縮されている。従来製品でも、メンテナンスの問い合わせは年に1、2台あるかどうか。品質には自信がある」と胸を張る。

▲同営業部の村田清貴リーダー

営業部の村田清貴リーダーは、「物流現場で活躍している女性やシニアの方々が働きやすい環境を作るお手伝いをしていきたい。当社は70年にわたり、世の中の不満や困りごとを解決してきた。物流業界からの新しいニーズにも積極的に応えていきたい」と話す。

最先端のEC自動倉庫も手がける日立物流が、あえて”ローテク”を採用した背景には、EC需要の拡大と、既存倉庫でこれに応えようとする現場改善の創意工夫があった。そして、その熱意に技術で応えようとする老舗金物メーカーの魂があった。多くの物流会社がEC物流への対応を急ぐ中、昇降棚が救世主となりえる倉庫現場も多そうだ。

「業務用昇降棚LF」の概要
サイズ:幅828ミリ×奥行494ミリ×高さ804ミリ
製品重量:18キロ
最大積載量:10キロ
製品ホームページ
https://www.aux-ltd.co.jp/products/business-other/jgslf.html
問い合わせ
オークス株式会社(新潟県三条市島田2-8-3)
電話:0256-35-1211
国際物流総合展の出展ブース
E-213

■製品紹介動画