ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

リスク情報配信サービス「FASTALERT」の機能を物流向けに強化するJX通信社

あらゆるリスクへの対峙、それが我々の「使命」だ

2022年2月18日 (金)

話題個人の目撃情報や各種ビッグデータをAI(人工知能)で解析し、検知したリスク情報を即時配信するサービス「FASTALERT」(ファストアラート)を展開するJX通信社(東京都千代田区)。地震や豪雪など自然災害の発生時に、Twitter(ツイッター)などSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)をはじめとしたインターネット上に流れる写真や書き込みなどの情報をチェックして迅速に配信する「記者ゼロの通信社」で知られるが、さらなる機能強化に向けて連携したのは、意外な相手だった。

「SNSなどで得られた事故やインフラ障害情報に基づく経路探索支援サービスに、道路混雑状況や大手自動車メーカーの通行実績情報などのビッグデータを重ね合わせることで、プロダクトをより物流向けに強化しています」。JX通信社の藤井大輔・FASTALERT事業責任者は、FASTALERTの「経路確保・広域情報把握」機能を新たに導入するために大手自動車メーカーと連携したことを明かした。

▲大手自動車メーカーとの連携の狙いを語るFASTALERT事業責任者の藤井大輔さん

自動車メーカーと手を組んだJX通信社の狙いは何なのか。そこには、FASTALERTの強化の先を見据えた、スケールの大きな「夢」があった。

道路状況を「確実」に把握するための連携

FASTALERTの地図画面上で、ある国道に事故情報が表示された。事故が発生したことが分かるが、物流拠点の運行管理者が知りたい情報は、事故の有無ではない。事故による渋滞などの「影響」を知りたいのではないだろうか。

FASTALERTには、事故などの速報に加えて道路混雑状況をリアルタイムで表示する機能がある。ビッグデータによる渋滞情報サービスを活用しており、一定の精度があるのだが、一部が推定データであることが課題だった。読者にも、スマートフォンのカーナビアプリなどで渋滞情報を参考に移動したが、実際には状況が異なったという経験はあるだろう。

近年の集中豪雨や雪害は重大な物流支障を招いており、より迅速な状況把握が課題になっている。その際、物流拠点の運行管理者の立場で見れば、渋滞の有無、さらには通行の可否は極めて重要な情報。しかし、その事実が「推定」でしか情報として提供されなければ、SNSの迅速な情報と組み合わせても結果として運行管理の判断に結びつけるには情報として弱くなってしまうとの声もあった。

そこで着目したのが、大手自動車メーカーが提供する車両通行実績だ。主要幹線道路ではあるが、渋滞状況を「ファクト」(事実)に基づいて情報提供する。「更新頻度は毎正時つまり1時間ごとになりますが、情報ソースがファクトであることから、『通れる道』を正確に案内できるのです」(藤井さん)

経路捕捉の秘策は「テレマティクス」

なぜ車両通行実績は、そんなに正確に道路状況を把握することができるのか。それは、車両に搭載されている「テレマティクス」と呼ばれる技術だ。

車両に搭載した専用の通信端末により、道路やサーバーと通信する機能。カーナビゲーションやETC(電子料金収受システム)が好例だ。テレマティクスを活用すれば通行軌跡も捕捉できることから、事故発生時に迂回する車両の動きをFASTALERTの地図画面上で確認することで、通行状況を「把握」できるというわけだ。

「交差点から交差点までの間を対応車両が走破した場合に、通行履歴が地図上に示されることになります。直近の1時間に通行車両があれば、通行実績として道路が色で表示されるのです」(藤井さん)。さしづめ「通れた道」情報というわけだ。

その機能にFASTALERTのリスク発生情報を重ねることで、「リスク」と「通行実績」の双方が結びつき、結果として「リスク発生による道路通行状況の変化」を把握できることになる。これこそが、運行管理者にとって必要な情報だと言える。

渋滞状況が視覚的に分かる仕様に

具体的な事例を見てみよう。12月15日に山梨県内の中央自動車道で発生した交通事故における車両の動きを確認してみた。

工事規制で車線が減っていた先で多重事故が発生。朝から渋滞発生後、下り全面規制になっている。通行実績データを見ると、上りだけ線が出ていて、下りは線が出ていないのがはっきりと分かる(上図)。

少し地図を引いて、迂回路の通行実績も表示し、あわせてハザードマップを重ねた。今回は平時の事故の事例だが、地震災害時には土砂災害などの二次災害も考慮しながら迂回路を探索することになる。さらに災害発生時に「通行できる」ことが、この地図上で現地に聞かずとも確認できる(1枚目)。

1枚目の地図を、渋滞情報に切り替え見たのが2枚目の地図だ。下側(南側)の迂回路で大渋滞が発生していることが分かる。

リスク情報の精度向上、その先も目指して

JX通信社は車両通行実績情報に加えて、さらに異なる角度での情報提供も強化している。藤井さんによると、協業先の衛星ベンチャーが独自に撮影した衛星写真を即時配信することで、広域状況の把握を支援する取り組みも実証中という。「国内衛星ベンチャーの低軌道衛星コンステレーションを活用し、これまで活用しにくかった衛星画像を、リスク発生後2日から3日を目標に提供するものです」。さらに短期間での画像提供を目指しているという。

リスク情報の精度向上は、FASTALERTの機能を高めるために不可欠な取り組みだ。しかしながら、それだけでは不十分だと藤井さんは考えている。リスク情報を「誰」が「誰」に向けて「どの手段」で伝えるか。それが定まらない限り、的確で最も高精度なリスク情報の提供は実現しないからだ。

藤井さんは、災害などリスク発生時における物流会社の情報伝達に課題を感じていた。「自社関係者への情報伝達については仕組みが導入されているのに、なぜ取引先やパートナー企業への伝達は疎かになるのだろう」。藤井さんは、社内報告と比べて、さまざまな取引関係から双方向的な関係が築きにくかったり、災害発生直後の連絡をためらったりすることがあるのではないかと考える。今後はそうした課題にも、FASTALERTを適用していきたいという。

「平時」でも使えるリスク管理を

FASTALERTの機能向上を推進するJX通信社。すでに主要メディアや行政、企業に導入され、その実績は広く知られているところだが、藤井さんは「決して現時点が到達点ではない」と言い切る。

それでは、どこを目指しているのか。藤井さんに問うと、またも意外な答えが返ってきた。「平時でも使えるシステムにしたいのです」

FASTALERTは、災害時に最も威力を発揮するシステムではなかったか。JX通信社もそれをウリにしていたのではなかったか。でも、どうやらそれは彼らのゴールではないようだ。

国内では、自然災害が多発する一方で、それ以外のリスク案件も増加傾向にある印象だ。刃物を振りかざす事件の多発は、その好例だ。事件でなくても、瞬間停電による通信や生産現場への影響など、多様なリスクを管理するニーズが眠っているのではないか。ここに、JX通信社が今後目指す方向性があるという。

物流業界も、災害によるサプライチェーンへの影響だけがリスクではない。顕在化していないリスク要因が眠っているはずだ。それが露見した時にすぐに対応できる、さらには顕在化する前の予兆の段階で捕捉できることができれば、リスク情報の発信にとどまらずリスクの未然抑止にさえもつなげられる。

「あらゆるリスクの管理が、JX通信社の果たすべき使命だと考えています」。藤井さんは、FASTALERTの機能強化策とともにその活用先を思い描きながら、開発に取り組んでいる。「物流など多様な企業からも広くアイデアを求めていきたいと考えています」。社会のあらゆる場面で起こりうるリスクに対峙していく。それがJX通信社の目指す「究極の姿」なのだ。