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リスクを可視化し「防災DX」を推進

災害速報で物流支援、JX通信社「FASTALERT」の威力

2021年9月2日 (木)

話題AI(人工知能)がインターネット上の自然災害や事故などのリスク情報を漏らさず収集し、分析した上で、わずか数分のうちに配信する。そんなJX通信社(東京都千代田区)のリスク情報配信サービス「FASTALERT」(ファストアラート)は、主に報道機関、行政機関などで重宝されているが、今後は物流業界においても存在感を増すだろう。

自然災害や事故が発生してもサプライチェーンを維持し、さらには支援物資も輸送しなくてはいけない物流業界にとって、発災直後に正確で信頼できる情報を迅速に入手することの意味は非常に大きい。それは初動対応の決定だけでなく、巨額の損害の回避や、大事な顧客企業との関係維持にもつながる。

JX通信社は2008年1月に設立。現在はBtoB向けの「FASTALERT」と、BtoC向けのニュース速報アプリ「NewsDigest」(ニュースダイジェスト)を事業の柱としている。そんな同社の松本健太郎氏(マーケティングセールス局マーケティングマネージャー)に、FASTALERTが物流業界に果たす役割や、今後のビジョンなどについて、今回の防災・BCP特集を機に話を聞いた。(LOGISTICS TODAY編集部)

民法キー局や主要一般紙の全てが導入

FASTALERTは、Twitter(ツイッター)などのSNSをはじめとするインターネット上の様々なリスク情報を監視し、AIを活用して収集・分析したあと、報道機関などに配信している。松本氏によれば「民放キー局や主要一般紙はすでに導入済み」で、現在は地方自治体、社会インフラ系企業、BCPに取り組む一般企業にまで導入が広がっているという。

企業や団体がFASTALERTを導入する理由は複数あるが、まずはその速報性が挙げられる。TwitterなどSNSの投稿や、累計500万ダウンロードを誇る姉妹サービスのNewsDigestからの情報、全国に設置されたライブカメラなど、複数のソースから収集したリスク情報は、災害や事故の発生を検知してから数分以内に配信される。

▲緊急時の情報源としてSNSの果たす役割は大きい

リアルタイムの情報収集が可能になれば、FASTALERTの導入企業は報道よりも早く情報を入手することができる。松本氏によれば、ことし7月3日に熱海市伊豆山地区を襲った土砂災害についても、同社は全国ネットのテレビ局より1時間以上も早く、速報を配信したという。

情報提供の確実性やシステム連携についても強みを持つ。米Twitter社公認の、商用利用可能なTwitterデータを利用しているサービスの証明となる「認定サービスバッジ」を受領しているため、サービスが急に停止するようなことはない。また、全ての配信情報はAPIで提供しているため、外部企業の機関システムやサービスとのリアルタイムの連携も可能だ。

「FASTALERT」サービスページ/資料ダウンロード
「FASTALERT」サービスページはこちら資料ダウンロードはこちら

情報の正確さをどのように担保するか

インターネットがこの世に登場して四半世紀以上が経つが、いまだにネット上の情報の正確さや信頼性を疑問視する声は、一定数ある。FASTALERTが配信する情報には常に高いレベルの正確さと信頼性が求められるが、JX通信社はその2つをどのようにして担保しているのか。

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同社はフェイクニュースの可能性が疑われる情報については、その投稿者が前後に発信した情報や、他の投稿者からの類似した情報などを検証した上で、必要に応じて裏付けも取っているという。これらの取り組みを積み重ねた結果、「FASTALERTが配信する情報にフェイクニュースはまず含まれない」と松本氏は強調する。

なお、JX通信社がFASTALERTのために収集しているリスク情報は、大雨・地震・台風・積雪などの自然災害から、交通事故などの物的・人的被害、システム障害・情報漏洩、新型コロナウイルス関連の最新情報まで幅広く、その分野の数は100以上を超える。提供する速報は文字情報に加えて画像や動画を含むもので、文字だけや画像・映像だけでは表現しにくい情報も、立体的な見せ方で提供している。

大手物流企業が導入を決めた理由

そんなFASTALERTの導入は、物流業界でも進みつつある。その中でも、JX通信社が取材してわかった鈴与の導入決定に至るエピソードは印象的だ。

(イメージ)

鈴与グループ140社の危機管理統括者がある展示会でJX通信社のブースを訪れた際のできごと。FASTALERTの画面デモを見た鈴与の統括者の目に、自社拠点の前で発生しているトラック事故の映像が飛び込んできた。にわかに信じられない統括者が自社拠点に電話で確認したところ、「確かに目の前でトラックがひっくり返っています、どうして分かったんですか」と驚かれたという。

危機管理統括者は「正直言って、それまではSNSの信頼性に若干の疑問を持っていたが、FASTALERTの導入によって疑問が払拭された」と述べるとともに、FASTALERTが大量の投稿を収集する一方で、信頼性の低い投稿を排除していることなどを評価しているという。

鈴与への導入例紹介ページはこちら

運行管理者や配車担当者の初動対応を支援

国内の物流企業がFASTALERTを導入した場合、どの程度の頻度で物流に関係するリスク情報を受け取ることになるのか。発生頻度の高さから、その多くが一般メディアでは報道されない、交通事故や通行止め、立ち往生などの情報が全て配信された結果、物流企業は情報の洪水に飲み込まれてしまうのではないか。この点について松本氏は、「各業界に合わせて絞り込んだ速報を配信できるようにしていきたい。それでも数が多いと感じる場合は、検索機能をうまく活用してほしい」と語る。

▲様々な災害に対応できるのがFASTALEARTの強みの一つだ

FASTALERTで配信される情報は、自治体などの区分に基づくエリア別や、自然災害の事象別、事故の内容別など、さまざまな条件で絞り込むことができる。また、水害であれば、該当する河川の流域だけを絞り込むなど、自治体の枠を超えて検索することも可能だ。

膨大な情報を適切な検索により取捨選択すれば、例えば地震発生直後には、公的な地震観測網をはるかに上回る精度の情報収集が可能になる。気象庁などが運用する地震観測点は全国に約4300か所設けられているが、多くの市町村では数か所しかされておらず、その中で生じる各地点の揺れや被害の違いまでは把握できない。

こうした背景もあり、震度計がキャッチできない各地点の揺れを、現場からリアルタイムにフィードバックされる速報機能が果たす役割は、非常に大きい。運行管理者や配車担当者がいち早く各地の状況を把握できれば、物流会社は、より正しい初動対応につなげることが可能になる。

「課題」は日本人の意識の希薄さ

松本氏はFASTALERTの今後について「大きな課題がある」と語る。それは、定期的に自然災害に襲われてはいるものの、対策と備えが遅々として進まない、日本社会の現状だという。「主要先進国において、日本ほど災害やBCPに対する“備え”の意識の低い国は珍しいのではないか」と主張する。

▲松本氏は日本社会における災害やBCPに対する意識の低さを危惧する

中長期的な展開については「大きな自然災害が発生するたびに、物流がストップして商品棚が空っぽになったコンビニエンスストアなどが報道されているが、予想される災害にしっかりと備え、発生時にはFASTALERTで正確な情報を入手すれば、そのような事態を避けられるのではないか」とビジョンを語る。また、「災害時でも簡単には物流が止まらない物流体制の構築は可能ではないか。確立した先進的な物流体制を『日本モデル』として輸出できる可能性も十分にある」とも語る。

「防災DX」が物流ビジネスのカギに

欧米では堅固なサプライチェーンの維持に向けたリスク対策は、すでに物流会社の経営層が注力すべき課題の一つとなっており、おろそかにしていては今後の競争を勝ち抜けなくなる状況ができあがりつつある。日本の物流業界には、そのようなカルチャーがまだまだ根付いていないが、いずれにせよ、備えの不足から災害や事故が発生数するたびに多額の損害を抱え、顧客を失っているようでは先行きが暗い。

あらゆるリスク情報を可視化し、災害に備えるFASTALERTを導入することは、今風に言えば「防災DX」を推進することになるだろう。サプライチェーンの維持と防災・BCPが表裏一体の関係にある以上、物流DXと同様に防災DXが、今後の物流企業のビジネスのカギを握ることは間違いない。

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