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人手不足に確かな効果、事業者間遠隔点呼先行実施

2024年5月21日 (火)

話題これまで運行管理は、同じ事業所に所属するトラックドライバーと運行管理者の間で行われることになっていた。しかし、労働者人口の減少や、運送業の業務効率化などのため、国土交通省が事業所またぎの運行管理や、あるいはほかの企業による運行管理を可能にする法整備を進める方針を打ち出した。

国交省に申請・承認を得た物流事業者が、規制改革に先行して事業者またぎの運行管理の実証実験を進めている。広島県の物流会社、双葉運輸グループもそうした実証実験に名乗りを上げた企業の一つである。事業者またぎの点呼・運行管理がどのように行われているのか。実証実験に参加した経緯や課題、今後の展望などについて双葉運輸グループに聞いた。

(出所:双葉運輸グループ)

グループが拡大するにつれ、管理体制のばらつきが課題に

双葉運輸グループは、双葉ホールディングス(HD)を持ち株会社とし、双葉運輸をはじめとする17の事業会社からなるグループ。広島を本拠に、中国・四国地方に輸送ネットワークを持つほか、関東や九州、中京にも営業所・拠点を展開している。近年はM&Aなどでネットワークを拡大し、グループ全体では車両1200台、ドライバー1300人を擁する。今年度から新たにグループ入りする企業もあるといい、輸送ネットワークを拡大中だ。

▲双葉HD安全管理副部長の米村哲次氏

しかし、ネットワークを拡大していくなかで新たな課題も見えてきた。同社グループでは、法令に則った運行管理体制を敷いているが、「新たにグループ入りした物流会社・営業所の中には独自の運行管理ルールがあるなど、グループ全体として管理体制にばらつきがあるのが課題」(双葉HD安全管理副部長の米村哲次氏)なのだという。

中小運送会社の中には、社長自身がトラックドライバーをやりながら管理業務や事務業務をこなしているというケースも少なくない。同じ会社やグループの中でも、法令に則った管理体制にムラや温度差があるというのは、全国の運送会社で起きているのではないだろうか。しかし、企業グループやネットワークが大きくなればなるほど、法令順守やコンプライアンス意識が強く求められ、管理側と現場のすり合わせも必要になる。

グループ内にあった「運行管理者不足」の課題

双葉運輸グループの中小規模の営業所では、所長と事務員で20-40人程度のドライバーの運行管理を行うことが多いが、営業所によっては、日曜日や夜間に運行管理を行う事務員が不足していることが少なくない。本来は休業日となっている日曜日に臨時の運行があると、そのために運行管理者が出勤する必要があり、休みを取りにくいというのが社内的な課題となっていた。同社グループでは、こうした課題を解決するため、営業所間・グループ企業間で遠隔点呼を導入。運行管理者の多い営業所が、小規模営業所の日曜・夜間の点呼を請け負うなど、業務負荷の平準化に取り組んだ。

しかし、こうした営業所・グループ企業間の遠隔点呼を進める中で、「100%資本関係」という条件が障壁となり、この取り組みに参加したくても参加できないグループ企業が出てきた。こうした企業では、「点呼は人と人との間で行いたい」(米村氏)という思いがありながらも、遠隔点呼に代わる手段としてロボット点呼(自動点呼)の導入を検討し、機器の見積もりまで取っていたという。

そうした中、2023年11月に国交省が「事業者間の遠隔点呼の先行実施要領」を公開。申請受付を開始した。双葉運輸グループはすぐさま応募し、100%資本関係にないグループ会社間での遠隔点呼を開始した。

具体的には、双葉運輸グループで100%資本関係にある新十和運輸(広島県廿日市市)で、新たな取り組みを開始した。同社の本社営業所は、玖珂営業所の遠隔点呼と、同じく100%資本関係にある畠山倉庫(広島市南区)の遠隔点呼を請け負っていたが、新たに先行実施の枠組みを使って、100%資本関係にないグループ会社・大竹双葉運輸(広島県大竹市)の遠隔点呼の請け負いを始めた。

(クリックで拡大)

双葉運輸グループでは、このほかにも100%資本の平成物流(広島市西区)が同・ワコー物流(広島県海田町)の遠隔点呼を請け負うなど、グループ企業間で積極的に遠隔点呼を活用している。

異なる事業者間で遠隔点呼を行うには、業務委託の契約とともに、要件を満たす機器の導入が必要となる。一式で70万円ほどかかるという遠隔点呼システムの導入費用は、点呼業務の委託側が負担。業務委託の費用については、いずれも月数万円を委託側が受託側に支払う形をとった。委託費用は「月に10万円程度が妥当と思うが、グループ会社間ということで、費用は低めに設定」(米村氏)。国交省では、先行実施要領を公開するのと同時に、遠隔点呼の実施回数に応じて委託費用を請求する形の業務委託契約のひな形を用意しているが、双葉運輸グループでは、費用の計算などの煩瑣な業務を発生させないよう、月極での支払いを採用したという。

運行管理者の残業軽減などのメリットがあるが、残る課題も

大きなメリットとして挙げられたのは、法令順守の運行管理体制の構築と過度な業務負荷の軽減だ。人手が足りない営業所では点呼業務の一部をアウトソーシングできるほか、委託側企業の運行管理者は、「受託側に業務後点呼を委託するなどして、過度な残業をする必要が無くなり、早く帰ることができるようになった」(米村氏)という。

もちろん良い面ばかりではない。受託側の拠点で点呼が集中する時間に、遠隔地のドライバーがすぐに点呼を受けられないという課題が生まれた。これに対し双葉運輸グループでは、受託側拠点の対面点呼の時間をあらかじめ設定し、委託側ドライバーの遠隔点呼はそれ以外の時間を選ぶといったルールを作ることで、対面点呼と遠隔点呼の集中を解消したという。

今回の先行実施要領は、資本関係の有無を問わず、遠隔点呼の委託ができる取り組み。資本関係のない協力会社や同業他社の遠隔点呼を請け負う点呼センターのようなものに発展していく可能性もある。

こうした可能性について米村氏に聞くと、「全く取引がない事業者だと事故の際の対応などについて不安がある。グループ外であっても、協力会社ならば引き受けられるなど、ある程度相手を選ぶのではないか」と言及。そのほかにも、出先で点呼を取る場合も、現地の事業所ではなく、業務前点呼を行った事業所からの点呼が必要な点が、現場での運用においては煩瑣(はんさ)な面もあるという。先行実施において上がってくる要望や不満などを取り込みつつ、実際の施行の際には、より運用しやすい制度になることを期待したい。

▲(上から)双葉運輸グループの安全大会の様子、グループ内で公募した安全スローガン