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国土交通省 物流・自動車局安全政策課が進める「運行管理の高度化」

大規模な変革に踏み出した点呼と運行管理業務

2024年5月14日 (火)

話題トラック運送事業者にとって社会的責任に直結する運行管理と点呼業務が、今大きく変化しようとしている。運輸行政(国)が目指すのは何か。

「ますます深刻になる人手不足において、今後、トラックドライバーはもちろん、運行管理者の働き方も見直していく必要があるが、急速に進化している情報通信技術(ICT)によって解決できる部分もあるはず。あまりにもアナログな運送事業だけに、大きく変革できる余地も大きいのではないか」と国土交通省の物流・自動車局安全政策課課長補佐(総括)の小柳美枝子氏は語る。

運送事業者には、営業所ごとに原則対面での点呼や運行指示が必要とされるが、デジタル技術を活用することで対面と同等の効果がある点呼、運行管理のあり方が検討されてきた。安全を担保しつつ、デジタル情報通信技術によって、営業所単位に限定されない、より柔軟な点呼や運行管理のあり方が認められれば、トラックドライバーや運行管理者の働き方や配置を見直し、安全確保に関わる運用コストの見直しや、効率化のための投資、ドライバーなどの給与水準向上の原資にまわすことも検討できる。

今後の論点は、変わらず「安全」こそが最重要テーマ

国交省の進めるデジタル技術を活用した運行管理と点呼の見直しは、「運行管理高度化」「運行管理一元化」と表現されている。高度化・一元化と聞くと、営業所機能や人員などの集約の観点ばかりで捉えられがちで、確かに事業者の選択肢としては制度の改正を契機として効率化の方向へ舵を切るのも1つの事業戦略とはなるだろう。

▲国土交通省物流・自動車局安全政策課課長補佐(総括)の小柳美枝子氏

ただその一方で、営業所が安全運行やドライバーの健康管理で果たすべき役割、維持すべき機能の強化も重要な論点であり、物流危機下の運送事業者が、情報通信技術の力を借りてどうやってその責務を果たしていけるのかにこそ焦点を当てなければならない。「1000人の運転手の運行管理を1人の管理者に集約できるなら、安全教育や指導もeラーニングで事足りるということになるが、おそらくそうはならない」(小柳氏)

情報通信技術の発達が、点呼や運行管理の柔軟な運用をもたらしているが、同時にそれを運用する運送事業者の高い順法意識に信頼をおいているから成立するものでもある。事業として車両運行に携わるものが当然果たすべき役割や使命があるからこそ、制度の変更がただ効率化のみならず、自らの安全意識を高めることにもつながり、運用面では柔軟になりつつも、運行管理での安全性向上に向けては、むしろ「強化」されることが大前提なのである。

情報通信技術の発達で「対面」の定義が見直され、点呼の運用が柔軟に

運行管理と点呼制度の見直しは、「人手不足」「効率化の責務」に即応する形で、急ピッチで進められてきた印象がある。産学官の有識者で「運行管理高度化検討会」(現「運行管理高度化ワーキンググループ」)が設置されたのが21年、そこから情報通信技術活用の検討と実証、さらに本格運用が進められてきた訳だが、あまりの取り組みの早さや並行して進行する変革ゆえに、今何ができるのか、これから何ができるのか、注意しておかないと見落としてしまいかねない。ここでは改めて、これまでとこれからの国交省の運行管理高度化の取り組みを整理する必要があるだろう。

まず、先行する点呼の見直しにおいては、「遠隔点呼」「自動点呼」の適用範囲を段階を追って広げ、対面のみに限られていた点呼の方法について、運転者や運行管理者の柔軟な働き方を促すべく運用の条件、対面の定義を見直してきた。

▲営業所内遠隔点呼の仕組み(クリックで拡大)

遠隔点呼は、Gマーク認定を受けた優良事業者に限り認められていた遠隔での点呼「IT点呼」の対象を拡大したものであり、22年7月からは、定められた要件を満たした全事業者に拡大して運用がスタートした。遠隔点呼に使用する機器・システムが満たすべき要件、遠隔点呼を実施する場所が満たすべき施設・環境要件、運用上の順守事項などの3つが担保すべき要件に定められ、同一事業者間(100%資本関係のあるグループ企業間を含む)であれば営業所を跨いでの点呼を行うことも可能となった。

一方、運行管理者に代わって認定を受けたロボットなど特別な自動点呼機器を用いて、運行管理者の現場立ち会いを必要としない自動点呼については、21年から実証が進められ、23年1月より、まず「業務後」の自動点呼の運用が始まっている。運行管理者に代わって自動点呼機器が業務後の確認を担う機能が求められるため、使用機器は国交省による認定を受けたものである必要がある。

23年点呼告示、24年点呼告示一部改正と、矢継ぎ早の対応進む

23年4月には「対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法を定める告示」が行われ、遠隔点呼、業務後自動点呼も対面点呼と同義である運用が法的に定められた。

さらに、ことし4月からは「遠隔点呼、業務後自動点呼の被実施場所の拡大を行い、より柔軟な運用が可能に」(小柳氏)なった。この新たな点呼告示の改正では、これまで営業所と車庫に限定されていた点呼の実施場所について、車内や待合所、宿泊場所などでの点呼実施を可能とするための要件が見直されている。運転手が点呼のためだけに移動する負荷を軽減し、管理者にとっても待機時間の削減が期待できる改正と言える。

(クリックで拡大)

「点呼告示の改正は、遠隔点呼、業務後自動点呼の被実施場所の拡大とともに、実施に必要な施設と環境要件での監視カメラの考え方についても変更し、実情に即したより柔軟な活用に配慮している」(小柳氏)。アルコールチェック時のなりすまし防止対策として、これまで監視カメラの設置が施設要件とされていたが、今回の改正では、監視カメラの設置だけではなく、アルコール検知器使用時の運転者や周囲の様子が確認できることを前提に、スマートフォンやクラウド型ドライブレコーダーなどのカメラの使用についても認められた。想定する被実施場所に監視カメラの設置が不可能な場合や、新規インフラ設置にかかるコスト削減などでも実用的な制度に変更され、より多くの事業者が遠隔点呼、業務後自動点呼を導入しやすい環境が整えられたと言える。

遠隔点呼は「事業者跨ぎ」先行、自動点呼は「業務前」が今後の焦点

現在、遠隔点呼においては、同一事業者間のみならず、事業者を跨いだ(100%の資本関係にない、もしくは資本関係のない事業者間)遠隔点呼を先行実施(トラック事業者は8グループが参加)しており、来年度の本格運用に向けての実証が進められている。「事業者跨ぎ」の運用についても、まずは点呼の領域から進められ、今後運行管理分野にどう展開するのかが焦点となる。

自動点呼においては、業務後自動点呼が運用されたことで、次の段階としては「業務前」への運用拡大が期待されるが、「現在、業務前自動点呼の先行実施として、新たに対象を拡大して実証を継続する準備をしている。業務前の点呼は、運行可否判断を伴う安全面でより慎重に検討すべき事項と考えているが、事業者からの早期導入を求める声も大きく、慎重かつスピーディーな運用に向けて取り組みを進めていく」(小柳氏)。運行業務の可否を判断する「健康状態」の規定や、それを測定できる認定機器要件について細部を検証するとともに、23年度の事前実証では健康状態を理由に運行を中止するケースがなかったため、運行可否の完全自動化のみならず運行管理者の判断が必要となる運用などが引き続き検証され、実証状況を見極めながら、来年度をめどに本格導入することが想定されている。

▲業務前自動点呼の実証で使用されたナブアシストのTenko de Unibo

遠隔点呼、業務後自動点呼の運用は、点呼を受けるための運転手の移動時間、そのために待機する運行管理者の労働時間の削減に直結し、運送事業者が直面する人手不足や働き方の見直しに有効な取り組みといえ、導入にかかるコストや施設要件などの課題も運用側の意見を参考にしながら見直しが進んでいると言える。安全に関わるより高度な判断や、責任の所在、適切な指示・管理が必要となる事業者間遠隔点呼、業務前自動点呼の本格運用という次のステップには、まだデータや意見などの収集が必要な状況と思われる。

既定の制度に拘泥(こうでい)することなく点呼の選択肢が広がること自体は、運送事業者にとってプラスとなるはず。導入するしないに関係なく、こうした柔軟化にどう対応していくべきか、運送業界の変化も視野に入れて対応を検討する必要があるだろう。

運行管理も変化、将来的な「運行管理センター化」の可能性は?

遠隔点呼・自動点呼などの要件整理と並行して、運行管理でも情報通信技術を活用した運用の見直しが進められている。これまでの営業所単位での運行指示、運行管理から、まずは「営業所間の運行管理業務の一元化」に必要な要件が検証されてきた。

21年から路線バスやルート配送など、同一事業者営業所間など2地点間の定時運行での「運行指示の一元化」の実証が開始され、対象業務、対象運行を順を追って拡大しながら課題を抽出し、運用に関わる要件の取りまとめが行われてきた。その結果が、ことし4月「運行管理業務の一元化実施要領」として発出され、これまでの運行管理者が同じ営業所に所属する運転者に対し運行指示を行うという管理から、同一事業者内で運行管理業務を集約して行える「運行管理の一元化」へと運用が可能となり、その実施に必要な要件が提示された形だ。

運行管理の一元化というと、事業者としては運行管理者の削減にも期待したいところだが、現状ではこれまで被集約営業所の管理する事業用車両数に応じた運行管理者の選任数に変更はない。さらに管理を集約する営業所側ではこれまでの営業所の事業用車両数に、被集約営業所が管理する事業用車両数を加えた総数に必要な運行管理者の選任が必要となっており、直ちに運行管理者の人数削減とはならないようだ。まずは「ICT機器を活用した運行管理業務の一元化を実現し、“運行管理の強化”および“輸送の安全性向上”に向けた検討を進める」という取り組み主旨に基づいた検証が続くことになるだろう。

運行管理一元化ではさらに、現在トラック運送事業において、ドライバーの営業所間の移動を認める「営業所間の人の柔軟な配置」について、昨年度の実証から引き続き課題を抽出すべく、先行実施の準備が進められている。事前検証に参加したヤマト運輸から提案された「人の柔軟な配置」に関する要領がまとまれば、運送事業者の人手不足に対し、所属営業所に限定することなく柔軟なドライバー配置を行うことで、突発的な物流増加などの対応力強化や、営業所間の労働時間の平準化を図ることができる。先行実証において、事故やトラブル時の責任の所在や、派遣可能な規模や運行管理業務の役割分担と、その運用が可能となる機器の要件などを具体的な使われ方を確認しながら進めていくこととなる。

(クリックで拡大)

これらの国交省が進める急ピッチの改革を見ると、運行管理業務を委託する運行管理センター化もすぐそこか、とも思えるが、決してすべてを拙速に進めてしまう訳ではないようだ。将来的に運行管理・点呼の集約化が進み、事業者間の受委託までもが成立することになれば、運送会社の営業所の機能自体を問い直すことにもなるだろう。「一元化というと事業者を跨いだ運行管理の受委託、いわゆる運行管理センター化に話が及ぶが、運転者の個人情報管理、責任の所在、運用の細部など、まだ調整の時間が必要。幅広い領域に及ぶ運行管理のすべてを集約することができるのか。安全を確保できる管理者とドライバーのコミュニケーションのあり方とはなど、運送会社の営業所機能は引き続き今後の論点となる」(小柳氏)

交通安全のための最新技術導入で、運送事業も変化する

事業用自動車による22年の交通事故件数を見ると、過去9年間で半減し、トラックによる死亡事故件数は過去最小の196件と、安全運転に向けた取り組みは着実に成果を表している。情報通信技術の導入によって期待されるのは、人員不足が深刻化する管理機能を補完し、人為ミスを削減するなど、さらに大きな安全運行の成果へとつながることであり、デジタル技術の力を借りてドライバーの健康に起因する事故の削減にも貢献することであろう。

一方、事業用トラックの事故減少とは反対に、交通事故の増加が際立つのが軽貨物運送事業者である。物流関連法の改正においてはこうした軽貨物運送事業者にも、新たに「運行管理者」の選任が義務化され、講義の受講なども必要となった。個人事業主であり、かつトラックドライバーである軽貨物運送事業には法令の順守状況の確認も難しい状況だったが、法改正では国交大臣への事故報告も義務化されたことで、監査端緒も増えることとなり、今後は運輸支局による指導などの取り組みも一般の運送事業者と変わらないものになることが想定される。

広く運送事業に関わるすべての事業者にとって、効率化や省人化を理由にして安全をないがしろにしてはいけない。トラック運送事業者も、軽貨物運送事業者も、すべての運送に関わるものが交通事故削減に向けて取り組み、そのために必要なデジタル技術を導入していく環境作りを国交省は今後も推進していくこととなる。この先に待つ運送事業者としてのあり方自体の変化をどう想定し、対応していくのか、それぞれの事業者の判断にこそ「高度化」が問われているのかも知れない。