
話題名古屋市の物流施設マーケットは、大きく二つの地域に分かれる。一つは中部圏の内陸部を中心とし、東名高速道路と中央自動車道が交差する愛知県小牧地区エリア。もう一つは名古屋港を抱える湾岸エリアであり、今回のテーマとなる名古屋市港区や東海市などがそこに含まれる。
中部圏の物流施設開発は、首都圏や大阪を追いかける形で2007年に本格化し、まだ比較的歴史が浅い。もともと大手デベロッパーによる物流施設開発は、内陸部の小牧エリアを中心に進められてきたが、近年はその供給エリアが名古屋港方面へ拡大している。
伊勢湾岸道エリアが、中部圏物流施設開発のトレンドに
これまで東京から大阪までの往来は東名高速道路から名神高速道路へのルートしかないことが、小牧市やその周辺で物流施設開発が集中する理由となっていた。一方、倉庫賃料の高騰、慢性的な渋滞や岐阜県から滋賀県にかけて冬季積雪による一時通行止めなどの問題も顕在化していた。

▲伊勢湾岸道路・名港トリトン
19年に伊勢湾岸自動車道(豊田東JCT-四日市JCT)と新名神高速道路(新四日市JCT-亀山西JCT)が接続して愛知県から滋賀県(草津JCT)の基幹路線が複線化されたことで、渋滞緩和と所要時間の大幅な短縮となったことが、伊勢湾岸道沿いの物流施設ニーズを高めている。内陸部より新東名高速道路、伊勢湾岸道路へのアクセスに優れ、名古屋市内と港湾や国際空港の中間点となる地の利が評価された形だ。また、名古屋市の巨大商圏をぐるりと取り囲む名古屋第二環状自動車道(名二環)が、21年に全線開通したことも、物流適地としての湾岸エリアの存在感を高め、名古屋消費圏への配送力と主要幹線道路の接続でも利便性が高まり、大型の賃貸施設への需要を後押ししている。
名古屋港エリアを含む愛知県全体の物流市場の特色として、賃貸用物流不動産が占める割合が53%と低い点が挙げられる。自動車関連をはじめとする製造業の拠点が集積し、メーカーや物流事業者が自社倉庫での物流インフラを長年整備してきたことや、本格的な賃貸物流施設の供給が07年以降と比較的近年であったことが、こうした構造に影響している。ただし、22年以降は本格的な供給が進み、25年には9棟・85万2400平方メートルの施設竣工が予定されている。いわゆる「2024年問題」に伴うドライバー不足などの課題から、中継拠点を見直す動きも開発の活性化を後押ししており、賃貸物流施設への需要は今後さらに高まるとみられる。
▲「ESR名古屋南DC2」(左)、「CPD名古屋みなと」(右)
名古屋市港区に焦点を当てると、22年のセンターポイント・ディベロップメント(CPD)、三菱HCキャピタル、JR西日本不動産開発の共同出資による「CPD名古屋みなと」開発がエリアでの第1号物件であり、特に新たなマーケットであることがわかる。22年以降の開発では、23年10月に「ESR名古屋南DC2」(ESR)、24年11月に「ロジクロス名古屋みなと」(三菱地所)、25年11月に「LOGIFRONT名古屋みなと」(日鉄興和不動産)、26年4月に「ロジスクエア名古屋みなと」(シーアールイー)と、毎年1件ずつ供給される状況である。希少性の高い新たな市場として、近年の賃貸募集では1坪あたり4600円で募集がかかる例もあり、一宮ICや小牧IC周辺の平均成約賃料が1坪あたり3900円台後半であることを考えると、湾岸エリアの物流適地としての付加価値が伺える。
東海市にも大型施設開発の波、物流再編の選択拡大
一方、名古屋市の湾岸沿い東側に隣接する愛知県東海市でも、大型施設の新規開発が相次いでいる。東海JCTや大府ICで伊勢湾岸道に接続しやすく、中部国際空港へのアクセスも良い東海市は、中部圏の“東の玄関口”として今後ますます注目されるだろう。

▲「Landport東海大府」完成イメージ
東海市と大府市にまたがる25年10月竣工予定の「Landport東海大府」(野村不動産)や、東海市の中心地となる名古屋鉄道常滑線・太田川駅の整備事業として27年5月竣工を目指す「プロロジスパーク東海1」(プロロジス)と、その隣接地に「プロロジスパーク東海2」の開発が予定される。これらの大型施設が、陸・海・空を結節する中継拠点としての強みを生かし、さらなる物流再編を促していくと考えられる。
名古屋港、中部国際空港など、物流モード結節点のポテンシャル
伊勢湾岸エリアで物流の重要性を語るうえで、名古屋港の存在を無視することはできない。総取扱貨物量は23年度で1億5800万トンに達し、22年連続日本一という実績を誇る。自動車輸出も145万台規模にのぼり、日本経済を下支えしている。一般のトラック同様に課題となっている、コンテナのドレージ輸送の効率化の検証においても、この湾岸エリアが新たなコンテナ物流の舞台となることも想定される。すでにニチレイや横浜冷凍、マルハニチロといった食品企業の拠点や、海運事業者の自社倉庫が集積しており、老朽化した自社倉庫の代替としても、賃貸物流施設に対する需要が今後一層高まる可能性がある。
また、名古屋港に加えて、中部国際空港へのアクセスにも優れた湾岸エリアは、陸・海・空の各輸送モードを一体的に活用するモーダルシフトを視野に入れた拠点づくりにも適している。荷主企業のサプライチェーン見直しや物流事業者による運用が盛んになれば、このエリアが日本全体の物流を再編する中核として機能することは十分にあり得る。
ただし、名古屋市港区の開発案件が年間1件ずつにとどまる現状には、自社倉庫中心の市場である点のほか、南海トラフ巨大地震への懸念もある。名古屋市港区が想定する震度は7から6強とされ、広範囲で津波被害が想定される。東日本大震災以降、災害リスクを避けて内陸部へ拠点を移す動きが一部で見られたものの、近年の施設は免震・耐震構造を強化するなどリスク対策を進めており、将来的には自然災害への備えを徹底することで物流拠点としての優位性をさらに高めていくことが期待される。
地域が求める、地域と歩む、物流の使命
優れた物流機能を活用しながら、地域との調和を目指す地域活性化の取り組みも進んでいる。名古屋市は、名古屋第二環状自動車道(名二環)の全線開通に伴う物流機能の拡充に目を向け、富田ICや南陽IC付近の市街化調整区域において、物流施設の立地を目的とした都市計画指針を定め、23年10月から運用を開始した。市の担当者は「南陽地区は田んぼアートなどで知られる名古屋市内最大の農業地帯でもあるが、インターチェンジ周辺の新たな需要と緑豊かな地域特性が調和し、地域が活性化していくことに期待している」と語っており、行政が地域と共生しながら物流施設の誘致を進めようとしている様子がうかがえる。
さらに、西部流通業務地区や藤前流通業務団地では、整備から40年が経過していることを背景に、物流を取り巻く環境変化に対応した土地利用規制の緩和も検討が進められている。名古屋市の担当者は「現在の物流のあり方に合わせ、柔軟に運用できるように見直す方針」であり、ここにもまた24年問題が影響しているという。

▲東海太田川駅西土地区画整理事業の巨大看板
東海市の太田川駅周辺では、市街地再開発と一体化した官民連携が活発化している。プロロジスパーク東海などの産業物流地区と居住エリア、観光拠点、ホテル開発などが隣接する形で整備されるため、物流の存在感が地域経済においてますます大きくなっている。災害時における施設の活用や地域との防災連携など、物流が地域に貢献する場面も広がっており、産業と生活環境が共存するまちづくりが目指されている。
湾岸エリアの新たな物流要衝の誕生を、物流革新のきっかけに
名古屋市全体の人口233万人という大消費圏を配送ターゲットとする名古屋市港区、東海市の最新物流施設には、EC(電子商取引)需要による市場変化への対応力、東西拠点をつなぐ中継拠点やモーダルシフト運用など、多様なニーズや取り組みに応えるポテンシャルや付加価値も求められる。Landport東海大府は既設で自動倉庫を設置し、複数企業でシェア利用する新たな運用スタイルを提案しており、大型施設が単なる倉庫ではなくイノベーションを生む拠点になろうとしている。

▲名古屋港のシンボル、名古屋港ポートビル
こうした新たな動きは愛知県全体の産業構造とも密接に関わってくる。23年10月に名古屋市昭和区で開業した「STATION Ai」には、国内外のスタートアップやベンチャーキャピタル(VC)、大学など700を超える組織が参画。運輸・物流を事業領域とする企業や港湾運送事業も加わって、自動化や効率化、CO2削減などを含む新技術の開発が見込まれている。愛知県は「スタートアップ関連事業」として管理運営費などに128億円あまりを投じるが、この取り組みを通じて物流革新につながるような革新的アイデアが生み出されることへの期待も大きい。
中部圏における大型物流開発は、名古屋港エリアの名古屋市港区や東海市を中心に加速度的に進展しようとしている。湾岸エリアでの開発が進む今、新たな拠点形成が日本の物流再編をけん引する可能性を秘めている。日本のほぼ中央に位置するこの地が持つポテンシャルは、災害リスクへの備えや地域との調和、スタートアップや新技術との連携など、さまざまな課題と期待を抱えながら、24年問題やCO2削減などのさまざまな社会的要請に応えるプラットフォームとしてさらなる飛躍を遂げるに違いない。