イベントことし1月6日から9日までの4日間、米ラスベガスで開催された世界最大級のテクノロジー展示会「CES 2026」には、世界中から14万8000人以上の来場者と4100社を超える出展者が集まった。

▲松尾浩紀社長。UPSの人工筋部分(左)と。
ダイヤ工業(岡山市南区)の松尾浩紀社長も、この巨大展示会に参加した一人だ。「会場は複数の巨大展示エリアに分かれ、エリア間の移動には専用バスが必要となるほど。その規模感は日本の代表的な展示会場である東京ビッグサイトの3-4倍になるのではないか」と、その様子を報告する。
フィジカルAIやヒューマノイドといった最先端技術が並ぶ中で、同社が展示した無電源アシストスーツ「DARWING UPS(Unplugged Powered Suits)」(以下、UPS)は、異なる存在感を放っていた。CESには3年連続で出展しており、これまでは参考出品の段階にあったUPSが、いよいよ4月の製品発売を見据えた最終ヒアリングフェーズとして臨んだ。「待ち望んでいたという声が聞けたのはうれしかった」と松尾氏は語る。
ロボット主流の中で際立つ“無電源””ウェアラブル”という選択
UPSは、人が歩くという自然な行動だけで空気を生成・蓄積し、その空気圧によって人工筋肉を作動させる、ウエアラブル型の無電源アシストスーツだ。人工筋肉の内部構造、靴部に組み込まれたポンピング機構などはいずれも特許取得済み、もしくは特許申請中の独自技術であり、外部電源に頼ることなくアシスト力を持続的に発揮できる。バッテリー切れや充電待ち、重量増といった課題とは無縁で、長時間作業や電源確保が難しい環境でも使い続けられる点が大きな特長である。物流倉庫など、重い荷物を「屈んで、持ち上げて、運ぶ」といった動作が繰り返される現場では、作業負荷を大きく削減できる。

▲CES出展の様子(出所:ダイヤ工業)
CES会場には、ほかにもアシストスーツ関連製品が多数展示されていたが、そのほぼすべてが電源やモーターを用いた外骨格型のロボットスーツだった。脚部や背中、腕にフレームを装着し、機械的に動作を補助するタイプが主流である。その中でUPSは、電源を一切使わず、空気圧による人工筋肉で身体を支援するという、明確に異なるアプローチを取っている。この独自性は、参考出品段階から多くの関心を集めてきた。
「連日多くの来場者が訪れ、そのシンプルな構造に『信じられない』といった反応が相次ぎ、大きな手応えを感じた」と松尾氏は振り返る。
UPSの特長について、松尾氏は「軽量で、誰の手も借りずに、制服や作業着感覚で着用できる点も大きな特長だ」と語る。実際に試着すると、着用にかかる時間はおよそ3分程度で、慣れればさらに短縮できそうだ。空気を供給するポンプ機能を持つ靴の“厚底”感覚は、最初こそ違和感があるものの、しばらく歩くとエアクッション付きのスポーツシューズと変わらない履き心地になる。
人が担い続ける仕事を、どうすれば壊さずに続けられるか。UPSは、その問いに対する技術的な解として設計されていることが、体験を通じて実感できる。
米国では人件費の増加を背景に、運搬工程の自動化やロボット導入が進んでいる。一方で、「ロボットで代替できない領域の人手作業の生産性向上には、依然として高い関心がある」と松尾氏は指摘する。段差や不整地、臨機応変な対応が求められる工程では、今後も人の身体が担い手となる。広大なアメリカ大陸を対象とした物流サービスを維持するには、人力に頼らざるを得ない場面がまだ多いのが実情だ。UPSに対しても、作業効率の向上や投資対効果、離職抑制、労災・訴訟リスク低減といった観点からの質問が多く寄せられたという。
アシストスーツを売るのではなく、健康経営をアシストする発想
一方、日本では従業員の安全や健康維持といった文脈がより強く響く。「無電源であることによる汎用性と持続性は日米で共通して評価されたが、日本企業からは生産性向上以上に、作業者の安全と健康を重視する問い合わせが多い。今後さらにアシストスーツが貢献できる領域だ」と松尾氏は期待を寄せる。

▲(右)UPSを試着。着心地は「作業着感覚」。
多様な作業現場に柔軟に対応するUPSは、その活躍シーンも広がっている。物流倉庫や製造現場に限らず、電源のない屋外での農林業支援、女性や高齢者の就労支援、さらには災害現場での活用も視野に入る。被災地のように電源確保が難しい環境では、無電源であるUPSの特性が特に生きる。将来的には、災害時の標準備蓄品として位置づけられ、復旧・復興のスピードを高める役割を担う可能性もある。
また、電源を使える環境では、UPSとコンプレッサーを併用することで、より作業しやすく安全な職場づくりにつながる応用も考えられる。腰部や背中、ハムストリングスに限らず、脚、ふくらはぎ、足指といった複数の筋群へと展開できる余地がある点も、UPSが「展開可能な技術基盤」と位置づけられる理由だ。
UPSは、ダイヤ工業が展開する「DARWING WELLNESS PARTNER(ダーウィンウェルネスパートナーズ)」を構成する重要な要素でもある。同サービスは、アシストスーツやサポーターといった製品単体を販売するモデルではなく、導入前のヒアリングから現場適合の設計、導入後の効果検証までを一体で支援するサービスモデルだ。
「最新の機能を載せれば解決するという単純な話ではない。作業環境や人員構成に合わせて、最適な支援の形を組み立てることが重要だ」と松尾氏は語る。UPSによって改善できる現場は数多くあるが、それだけが正解でもゴールでもない。「この無電源・空気圧という独自技術があるからこそ、ほかではできない支援、さらに一歩先を見据えた支援が可能になる」という。
「私たちは『これを使ってください』という売り方はしない。現場を見て、この作業なら何が一番合うのかをいっしょに考える。その結果、UPSでない選択肢もあり得る」(松尾氏)。ロボットや外骨格型アシストなど、他社製品を含めた提案も辞さないという姿勢は、従来の製品売り切り型とは一線を画し、健康経営自体を”アシスト”する姿勢を明確にする。
作業現場で、日常で、アシストスーツが標準となる世界へ
今年のCESで特に象徴的だったのが、デニム素材を用いたアシストウェアへの反応である。機能説明をする前に「機能はいらないから、このデザインで売ってほしい」という声が上がり、実際に購入意向を示す来場者も現れたという。アシストスーツが「作業用装備」から「身にまとう服」へと認識を変えた瞬間だった。
この反応を、松尾氏は次の展開へのヒントと捉える。UPSで培った技術を、よりカジュアルでデザイン性の高いアシストスーツへと進化させ、アパレルブランドとの協業を通じて日常的なシーンへと展開していく構想も視野に入れる。ユニフォーム感覚で着用できる、あるいは着用したまま車両を運転できるようになれば、引っ越しやラストワンマイル配送の風景も変わるだろう。さらに、歩行支援や山登りなどレジャー分野などへと応用が広がる可能性もある。

▲「体験型アシストスーツミュージアムTOKYO」(東京都品川区)ではUPSをお試しできる。
「目指すのは、空調服が夏の作業現場で標準となったような世界だ。慢性的な腰や背中の痛みも、“作業現場の寿命を削るリスク”として認識すべきだ。それを防ぐアシストスーツが標準装備となり、街中で見かけても違和感がなく、着ていることを意識しないですむ社会をつくりたい」(松尾氏)
UPSの技術開発とダーウィンウェルネスパートナーズが目指すのは、「ものを売る会社」ではなく「健康をつくる会社」である。将来的には、熱中症対策や足の疲労・むくみ軽減、さらにはメンタル面のケアまで含め、他社サービスとも連携しながら、健康経営を日常に溶け込む形で支えていく構想だ。
CESという最先端技術の集積地で、ダイヤ工業が示したのは、決して派手なテクノロジーではない。無電源・空気圧という地に足の着いた独自技術を磨き上げ、それを働く人の健康と持続的な就労につなげていく姿勢である。進化するアシストスーツは、いまや一部の現場向け装備ではなく、現場の標準装備へと歩みを進めつつある。
最後に松尾氏は、「健康経営を日常に溶け込む形で支え、人生を豊かにする手伝いをしたい。そういう会社でありたい」と締め括った。
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