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論説/ネコもポストも元気だが、飛脚の足取りは

2021年3月12日 (金)

▲楽天の三木谷浩史会長兼社長(左)と日本郵政の増田寛也社長(右)

郵政が楽天に8.3%出資し物流DX加速、三木谷氏「親戚関係に」(3月12日掲載) https://www.logi-today.com/424618

話題昨日のヤマト運輸とヤフーの提携に続いて、またも大きなニュースが発表された。昨年末の業務提携発表以来、両社間でより緊密な協力関係の具体化を協議した結果の資本提携ということだろう。

予定調和的な内容

後付けの感想ながら「なるようになった」というのが素直なコメントだし、特別な驚きはなかった。出資比率がさらに大きければ、ECと個配という同衾(どうきん)市場に波風が立つのかと身構えもするが、どうも現市場で後塵を拝している両社が握手の後に抱擁し始めたといった感が強い。

具体的な相乗効果のそれぞれは納得できるものばかりで、額面通りに進捗すれば相当な機能強化が得られることはあきらかだ。特に郵政の国内配送拠点網は楽天にとって大きな魅力だ。運営する楽天市場の出店者向けのアナウンスとして説得力は大きく、今までECの業務フローで上流と下流に位置してきた直列関係が、今後は一体化できることも強みのひとつとして特記事項に加えられるだろう。

日本郵政のデジタル技術向上は、取引のある荷主各社や物流企業からも改善を求められていた「弱点」のひとつだった。
それは楽天自身にとっても迅速に改善されなければ不都合となる要素だ。なぜなら、両社が二人三脚で市場に挑むには、先行集団が早々に応用・活用しているDX云々に時間と手間をかけて足踏みしていることは許されないからだ。そういう観点からも、両社の組み合わせには好ましさが目立つ。

喜ぶEC事業者、うつむく倉庫会社

EC事業者、その種の荷主を抱える物流事業者は「これで日本郵政のデジタル対応が大きく進むだろうし、事務やサービスの改善はなによりもありがたい」との思いを抱くはずだ。ただし昨日のヤマト×ヤフーの論説でも指摘した通り、EC事業者を抱える営業倉庫会社の中には首筋に冷たい感触があるかもしれない。

郵政から出資される1500億円という巨額資金がRFC(楽天フルフィルメントセンター)建設の推進力に寄与するなら、既存荷主の流出リスクが高くなるはず。楽天市場への出店パッケージに物流機能の完結までもが含まれれば、物流委託で食っている倉庫会社にとって脅威どころのハナシではなくなる。
虎の子化している新興EC事業者の歩留まりいい売上がなくなってしまう——という事態に固唾を呑む倉庫会社は少なくない。

アマゾン、楽天、ヤフーの大手は荷主企業の囲い込みを「あしまわり」からすくい取ろうとしている。さらには箱まで用意して、ぜんぶ取り込むつもりだ。「わが社は今後どう生きればよいのか」という中小倉庫の経営層の声が聞こえてきそうだ。

注目すべきは具体化と実行力

今後の注目点は、両社から掲げられた項目の具体的な実行速度と完成度に尽きる。論じて発表するまでに大きな労力を要したことは想像に難くないが、各論の具現化と実りの収穫にはさらなる腕力・脚力と忍耐力や執着力が想定以上に必要となるだろう。

大きく拡がり各所で階層化された組織間の情報と価値観の共有や理解度の統一は紆余曲折の連続だろうし、「顧客」という言葉の捉え方自体から異なっているかもしれない。まずは顧客像を一致させるところから始めなければならないし、そこを合致させなければ、後続する諸サービスの的がブレてくる。新年度以降の事業進捗や新サービスの発表を心待ちにしつつ、先行他社への強烈なまくり上げを期待してやまない。

ところであの会社はどうするのか

と、ここまで書いて脳裏に過るのは「ネコもポストも元気なようだが、飛脚の足取りは今いかに」という独り言だ。業界のトップと3位が旺盛な新規提携や新企画を発表する中で、佐川急便の動きには否応がなしに注目が集まる。

あくまで私見だが、個配大手3社のなかでは、もっとも急進的で挑戦的なのは佐川であったはずだ。組織の縦割りが強く、グループ内の事業会社各社の一枚岩化に毎度手こずるきらいはあるものの、決めてから動き出すスピードは群を抜いていた。全国76か所に設けられたSRC(佐川流通センター)の稼働状況次第では、他社よりも迅速な動きが可能だろうし、一日の長があることはあきらかだ。

佐川急便においても、拠点整備と並行してのアライアンス推進が水面下で進んでいるとしたら、個配大手全社がけん引役となって、来年度はECをとりまく環境が大きく変化するに違いない。心躍るようであり、業界地図の再編にまで及ぶ波動に揺れる心情も同居している。(企画編集委員・永田利紀)