ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

LT Special Report

西濃運輸の営業DX、データ分析ツールで提案力強化

2021年6月17日 (木)

話題運送会社・倉庫会社にとって、ハードルの高い仕事が「営業」である。それはなぜか。

荷主のサプライチェーンの中で物流企業が担うのは、多くの場合、輸送や保管、倉庫作業などの部分的な領域であり、その立場上、ビジネス全体のグランドデザインを描くのが難しく、受け身になりがちである。また、現場業務を最優先に考えるという物流企業の特性から、営業が現場業務に駆り出され、本業である営業業務に集中できないケースも少なくない。

だが最大の理由は、物流企業の営業が知識と経験を必要とする「提案型営業」であることではないか。

荷主が物流企業に求めるのは、自社の物流に対する課題解決であり、おのずと物流営業は難易度の高い提案型の営業が要求される。そんな物流営業の世界で「可視化」と「標準化」を武器に提案に磨きをかけ、ロジスティクス営業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現しようとしているのが西濃運輸だ。

特積み事業者として名を馳せる西濃運輸は、2020年度からの新たな中期経営方針の中で「特積みのセイノーから、ロジのセイノーへ」の転換を掲げ、3か年で現状の保管スペースを21万坪以上に増床する、との方針を打ち出した。

▲「Domo」のイメージ

昨年11月には、社内外に分散する大量のデータを集めて可視化するクラウド型BI(ビジネスインテリジェンス)プラットフォームの「Domo」(ドーモ)を導入し、ロジ部門の業務効率化と営業強化に踏み切った。

属人化しがちな物流営業をどのように改善、効率化し「ロジのセイノー」に転換しようとしているのか。同社ロジスティクス部の事例を紐解きながら、物流企業が営業DXを実現する方法について考える。

企業価値向上を担う西濃運輸ロジスティクス部

最初に、今回の主人公となる西濃運輸ロジスティクス部について説明しておきたい。

ロジ・トランス機能を備えた西濃運輸 深川支店(21年3月開店)

同社はいわゆる「路線便」と呼ばれる特積み輸送ビジネスを展開している。支店、営業所、物流センターなどの拠点は青森から山口まで、国内約150か所におよぶ。わが国を代表する特積み会社にあって、ロジスティクス部は物流センターで行われる流通加工や梱包などの倉庫内作業と輸送業務を組み合わせて提案する部隊である。

同社の倉庫内作業のビジネステリトリーは広い。例えばグループ会社の濃飛西濃運輸は、物流以外に製造受託も手がける。委託主であるメーカーの部材と全国から調達してきた部材を自社が運営するターミナル2階の倉庫に集約し、そこで部材を組み付け、完成品として1階のトラックターミナルから全国に出荷・納品している。

親会社のセイノーホールディングスは、20年5月に発表した中期経営計画の中で、ファクトリー機能(製造受託機能)を提供することで、顧客が本業に特化できるよう支援する方針を強調。一方でロジスティクス部が営業を担当する倉庫内作業を「企業価値向上のための重要なファクター」と捉え、注力領域としている。

RPA導入、効率化実感後にあらわれた真の課題

「営業実績を集計するだけでも、かなりの手間と労力がかかっていました」

▲西濃運輸の水野佑真氏

西濃運輸の水野佑真氏(ロジスティクス部ロジスティクス課)は、Domo導入以前の課題を、このように語る。

かつてのロジスティクス部では、複数の業務システムからデータを取得し、それをエクセルにまとめ、営業実績の報告資料を作成していた。「データを取得」とひとことでいっても、一筋縄でいくものではない。csvファイルとして抽出可能なデータは良いが、ときにはファクスで取り寄せたものを手入力するケースもあった。実績データが出た後の数日間は、営業実績の集計と加工に業務の大半を費やしていたという。

こうした中、水野氏の「心強い味方」として登場したのが、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)である。RPAはこれまで手作業で行ってきたパソコン内作業を自動化するアプリケーションで、工場などで利用される産業用ロボットと対比し、「ホワイトワーカー(オフィスで働く人の総称)のためのロボット」とも称される。

RPAの導入によって業務の自動化が進み、業務システムからエクセルへの単純なコピー&ペーストや集計などの作業が、水野氏の手をわずらわせることはなくなった。営業実績集計作業に掛かる手間は大幅に削減され、報告までのスピードも短縮された。

だが、RPAの導入が順調に進んだその時、今まで見えてこなかった課題が見えてきたのだ。

「なぜそうなったのか」に答えられないRPA

RPAのアウトプットは一枚の写真のようなものだ。現象の結果は表示してくれるが、営業改善まではつながらない」

▲西濃運輸の貫名忠好氏

ロジスティクス部部長補佐の貫名忠好氏は、RPAについてこのように考えている。ある時、貫名氏は水野氏がまとめた営業実績報告資料について、疑問を感じたことがあった。

「ここの数字なんだけど、どうしてこんなことになっているの」

こう尋ねる貫名氏に、水野氏は次のように答えたそうだ。

「RPAが出した結果なので、別途調査しなければわかりません」

貫名氏の「どうして?」は、報告書に記載された実績数字の正確性を問うものではない。なぜ、このような結果になったのか、その原因を知りたかったのだ。

そして、水野氏の回答も間違ってない。RPAは業務の自動化を実現するツールではあるが、営業上の課題を抽出してくれるツールではないのだから。

課題の原因を分析するツールの必要性

営業数字を追う上で、課題を発見すること以上に大切なのは、課題の原因を知り、対策を打つことである。

RPAによって集計された営業数字の結果を診れば、「A物流センターの売上が低迷している」「B物流センターのコストが上昇し、営業利益を圧迫している」といった課題を発見することはできる。

だがRPAができるのは、そこまでだ。対策を打つためには、集計されたデータを洗い直し、課題の原因を探り、対策へのヒントを見つけなければならない。

RPAの導入で、一歩前進したのは確かである。しかし、課題の原因を探るために、水野氏はさらなる手間をかけて実績データの再集計を行わなければならないのか。こんなことを繰り返していては、課題に対し、スピード感をもった対応はできない。

悩む貫名氏が出会ったのが、Domoだった。

▲(左から)ドーモの佐々木亨氏、武田彬氏、西濃運輸の貫名忠好氏、水野佑真氏

西濃運輸がDomoを選んだ理由

「西濃運輸様のニーズは、大きくふたつありました。ひとつは、複数の業務システムからデータを抽出し、統合できること。もうひとつは、ロジスティクス部の営業担当者らが、実績データに対し、切り口を変えてさまざまな分析やディスカッションを行いたいという希望が大きかったこと。その点で、Domoはぴったりだったと考えています」

ドーモ(東京都渋谷区)でアカウントエグゼクティブを務める武田彬氏と、シニアソリューションコンサルタントの佐々木亨氏は、西濃運輸との出会いをこう語る。

ドーモのクラウド型BIプラットフォームは、企業内外に存在するさまざまなシステムと連携してデータを統合。経営層や管理部門、現場責任者、営業担当者らが、それぞれの業務に必要なデータを抽出し、図やグラフを用いてデータを多角的に分析することができる。企業がデータに基づく適切な意思決定を行うために用いられるソリューションなのだ。

▲Domoのイメージ

「相談を受け、我々はすぐ、西濃運輸様のためのテスト環境を用意しました。NDA(機密保持契約書)を締結した上で実データを預かり、テスト環境にアップしました」(ドーモの武田氏)

対応のスピード感もさることながら、西濃運輸側が感心したのは、Domoの作り込み作業のしやすさだったという。

「ハンズオンでの研修を2、3時間受けたら、ほぼ自由な作り込み作業が可能な操作性に驚きました。営業課題を解決するためにどんな貢献をしてくれるのか、すぐにイメージがつかめましたね」(西濃運輸の貫名氏)

導入後、実際にDomoを操作する水野氏は操作感について、こう語る。

「『こういうビジュアルが欲しい』というイメージを、直感的に操作し、実現できることに驚きました」(西濃運輸の水野氏)

水野氏のパソコンスキルは、ごく一般的な事務従事者のレベルだという。エクセルやワードは普通に使えるものの、エクセルの自動処理をプログラミングするような、高いパソコンスキルはない。

ごく一般的なPCスキルの持ち主であれば、いたって普通に使いこなせるのがDomoの強みだ。「操作が簡単」であることは、パソコンやITに苦手意識を持つ人が多い物流企業にとってはありがたい。

▲西濃運輸が活用しているグラフや図(一部加工)

ドーモが西濃運輸にテスト環境を提供したのは2020年6月のこと。その後、打ち合わせや社内調整を経て、西濃運輸ロジスティクス部は、同年11月にDomoの導入を決めた。

新型コロナウイルス禍の影響により、打ち合わせや手続きが円滑に進められなかったことを考えると、西濃運輸ロジスティクス部は、とてもスピーディーにDomoの採用を決定、導入できたことになる。

「作り込みをしたダッシュボードやカードの修正を行いたいときに自分たちで触ることができる。Domoでは、これが実現できることが分かりましたので」

西濃運輸の貫名氏は、スピーディーにDomoを導入した理由をこう話してくれた。

課題解決への注力と属人化の解消

西濃運輸ロジスティクス部ではDomoの運用と活用を始めたばかりだが、水野氏はその活用方法について、すでにさまざまなビジョンを描いている。

「当社は今まで、数字管理の段階で苦労してきたわけですが、Domoを用いることによって、ようやく本来の目的である、営業支援に突き進むことができると期待しています」

「そして、もうひとつ私が感謝しているのは、営業実績の共有化です。Domo導入以前は、例えば営業部門から顧客に関連する種々の年間データの取りまとめを依頼された場合、手作業でデータ加工に対応していました。ところが、誰もが手軽に実績データを取得できる体制を実現できたのです」(西濃運輸の水野氏)

西濃運輸ロジスティクス部では「今後、Domoに期待したいことが、大きくふたつある」という。

ひとつは、前述した営業上の課題を可視化する役割である。Domoを使えば、会議の参加者同士がディスカッションを行いながら、データを分析することが可能だ。そのため、事前に会議資料を用意する必要もなくなる。つまり、資料の準備に時間を費やすこともなく、課題の発見と、その対策を考えることに集中できるのだ。

2つ目は、営業プロセスの標準化ツールとしての役割である。ロジスティクス部では、クライアントに対し、倉庫内作業だけではなく、輸送業務とセットで提案を行う。その際に武器となるのは、国内約150か所の拠点が支える、西濃運輸の輸送ネットワークと、これまで培ってきた実績である。

例えば、あるメーカーの工場を中心として最適なサプライチェーンを構築するために、西濃運輸は何ができるのか。これをクライアントに訴求する際、拠点ごとの輸送実績、物流センターごとの入出庫データなどをプレゼンテーションすれば、強い武器となる。

(イメージ画像)

これまでは、それが武器になることはわかっていても、実績を取りまとめ、分かりやすく加工するために大きな手間と時間がかかることから、だれもが気軽に利用できなかった。結果として、クライアントへ効果的な営業を仕掛けられるようになるには、PCスキルや資料のまとめ方など、ある程度の経験値を積んでいく必要があった。経験豊富な営業マンと、経験の浅い営業マンとの間で、営業効率に大きな差が生じていたのである。

その状況が一変した。

「あらかじめロジスティクス部で営業に使えるDomoのビューをまとめておけば、全国にいる営業にとってはそれだけで強い武器となります。おのずと、営業手法の標準化を実現できることになります」(西濃運輸の貫名氏)

事業拡大のカギを握る「Domo」

西濃運輸は、特積み事業者としてすでに確固たる地位を得ているが、それに甘んじることはしない。

「特積みのセイノーから、ロジのセイノーへ」

これは、セイノーホールディングスの田口義隆社長が重点戦略として語った言葉だ。顧客の課題解決に貢献する「価値創造型総合物流商社」として、セイノーグループは、さらなる高みを目指す。そして今、重点戦略を実現する武器のひとつとして期待されているのが、Domoなのだ。

冒頭、総じて物流企業が行う営業は提案型営業となり、難易度が高いと述べた。西濃運輸も例外ではない。だが、西濃運輸ロジスティクス部は、Domoを使うことでその課題を解決しようとしている。

社内に向けては、営業実績を可視化し、営業上の課題を速やかに発見。対策を講じた上で課題を解決する。社外に向けては、営業ノウハウをデジタル化し、西濃運輸の強みをいかんなく営業に生かす。そして、営業手法を標準化する。西濃運輸のロジスティクスの営業部隊は、Domoという武器を得て、今まさに物流営業のDXを体現しようとしているのだ。