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三井倉庫HDが財務改善にメド、DXで反転攻勢

2021年12月8日 (水)

(出所:三井倉庫ホールディングス)

ロジスティクス三井倉庫ホールディングス(HD)の古賀博文社長は8日開いた記者懇談会で、来年3月いっぱいで終了する5か年の現中期経営計画を振り返り、有利子負債を4割以上圧縮するなど財務体質の改善を進めたことなどを成果としてアピールした。

古賀氏は、社長に就任した2017年に5か年の中期経営計画を策定した。コストを抑えながら不動産事業への依存率を引き下げ、収受料金の適正化に取り組むなどして物流事業の収益力を高めるとともに、当時1700億円に上った有利子負債の圧縮に注力。中計が終了する22年3月期末には目標の1300億円を達成し、970億円まで減らせる見通しとなった。

対売上高営業利益率も大きく改善し、17年3月期の2.6%から21年3月期には7.0%を達成、提案力の強化を目指した組織改革によってグループ企業の一体感を醸成する「ワン三井倉庫」にもメドをつけ、「強い企業集団になってきた」(古賀氏)と自信を深めた。

22年度には新たな中期経営計画を策定していくことになるが、その方向性として「ESG(環境・社会・企業統治)を意識した経営」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)化の推進」を前面に押し出すものとなることを強調した。

▲財務改善の成果を受け、ESG経営、DX化推進の姿勢を強調する古賀社長

ESGの観点では、顧客のサプライチェーンにおけるサステナビリティの実現を支援する「三井倉庫SustainaLink(サステナリンク)」の提供を開始。「物流」という重要な社会インフラを支える企業として新たな価値を創出することで、顧客企業の価値向上を図るとともに、持続可能な社会の実現を目指す。

具体的には、物流における二酸化炭素排出量の見える化▽二酸化炭素削減も視野に入れた物流設計▽労働力不足などの人的リスクの解消▽災害にも強い物流構築——などを通して、ESGを重視した取り組みを強化していく。

DX戦略については、「攻めのDX」としてプラットフォーム上のSCM情報を活用した顧客向け新サービスの開発と、「守りのDX」として自動化や省人化による従業員の生産性向上など、事業の最適化を目指す。

古賀氏は「人手不足や原価の高騰など外的環境の変化はますます激しくなっており、今まさに物流業界全体が変革のときだ。変化に強い、持続可能なサプライチェーンの構築に向けて積極的に対処し、自ら変革していく姿勢が大切」と意気込みを語った。

ESG経営を最大目標に据えた三井倉庫グループは業界のサステナビリティ意識の機運高揚の呼び水になるか

三井倉庫ホールディングスが次期中期経営計画の策定にあたり、「ESG」と「DX」をテーマに掲げたことで、持続可能な社会の創造を最大目標に位置付けた経営戦略を描く意思を明確化した。物流企業グループの事業運営のあり方を広く社会に問いかける契機にもなりそうだ。

物流業界における経営戦略といえば、自社の利潤追求や株主価値の最大化はもちろんのこと、顧客のサプライチェーンの効率化や最適化を目指すことが最大目標と位置付けられてきた。中期経営計画では、近年ようやくSDGsやESGといったキーワードが並ぶようになったものの、あくまでそれは社会貢献など特定のカテゴリーのみで語られることが大部分であり、経営目標の最上位に位置付けられることはなかっただろう。

新年度からの三井倉庫グループの経営は、ESG経営を実現するために利潤追求があり、顧客へのサプライチェーンマネジメントが機能する形になるわけだ。つまりゴールの設定位置をさらに高く設定したということであり、最終目標を「企業の手がける事業の成功」から広く「持続可な社会の実現」に広げたということだ。社会インフラを担う物流業界の主要企業がこうした取り組みに踏み切ったことで、業界はESG経営をより明確化する機運が高まることを期待したい。それこそが、物流業界の担うべき本来の役割であると考えるからだ。(編集部・清水直樹)