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名門大洋フェリー、物流機能高めた新造船16日就航

2021年12月15日 (水)

大阪南港のフェリーターミナルにて報道陣に公開された「フェリーきょうと」

ロジスティクス名門大洋フェリー(大阪市西区)は15日、新造フェリー「フェリーきょうと」の運航を16日に開始すると発表した。大阪南港(大阪市住之江区)と新門司港(北九州市門司区)を瀬戸内海経由で結ぶフェリー航路の新造船。名門大洋フェリーは15日、大阪南港のフェリーターミナルでフェリーきょうとをメディアに公開した。名門大洋フェリーとしては最大級ながら、ハイブリッド型推進方式を採用することで、環境性能を高めた。

フェリーきょうとは、2002年に建造された「フェリーきょうとII」の老朽化に伴う後継船として、ことし12月10日に引き渡された。旅客需要のさらなる喚起に向けた高いホスピタリティを意識した仕様としているほか、脱炭素社会の実現に向けた政府や物流各社によるモーダルシフトの機運が高まるなかで、トラック積載台数の増強など貨物輸送機能も高めた。

▲フェリーと岸壁をつなぐスロープ(誘導路)

フェリーきょうとは、「旅客」「環境」「物流」の3テーマを掲げた新設計を施した。物流面では、トラック積載スペースを拡大。フェリーきょうとIIと比べて54台多い162台(12メートル換算)のトラックを積載できるようにした。さらに、物流トラックドライバーの就労環境に配慮し、旅客と分離した専用スペースとして108室の個室を設けるなど、「リラックスできる船内環境に配慮」(名門大洋フェリー)した仕様が特徴だ。二口荷役機能も搭載し、トラックによるスムーズな荷扱いも支援する。

名門大洋フェリーが今回、新造船の就航に踏み切った目的は、新型コロナウイルス感染拡大に伴い低迷する観光など旅客需要の喚起と、西日本における物流機能の拡充だ。コロナ禍がようやく収束の兆しが見え始めたこのタイミングで新造船を就航することで、観光シーズンに合わせて一気に観光需要の獲得につなげたい思惑がある。

▲名門大洋フェリーの野口恭広社長

さらに、収益の柱として位置付けるのが物流だ関西・九州間のフェリーにおける貨物輸送は、1983年の中国自動車道全通で一気にシェアを低下させた苦い記憶がある。このたび、モーダルシフト政策の「受け皿」の役目を担うことで、物流インフラとして「より力強い輸送を実現する」(野口恭広社長)狙いだ。

西日本における貨物輸送については、モーダルシフト政策に基づく中国・山陽自動車道経由のトラック輸送からJR山陽線の鉄道コンテナ列車や瀬戸内海航路へのシフトを進める動きが広がり始めた。さらに、近年の大雨被害の激甚化による「代替輸送」モードの確保の観点からも、名門大洋フェリーは今回の新造船による物流機能の強化に大きな期待をかける狙いは、まさにそこにある。

西日本における物流の大動脈のさらなる強靭化につながるか。新造船就航をテコにした名門大洋フェリーの今後の事業戦略が注目だ。

■フェリーきょうとの概要
総トン数:1万5025トン
全長:195メートル
全幅:27.8メートル
航海速力:23.2ノット
旅客定員:675人
積載台数:トラック162台(12メートル換算)、乗用車140台
建造:三菱重工業下関造船所

運航基本ダイヤ
<上り便>
【1便】新門司発17:00、大阪南港着翌日5:30
【2便】新門司発19:50、大阪南港着翌日8:30
<下り便>
【1便】大阪南港発17:00、新門司着翌日5:30
【2便】大阪南港発19:50、新門司着翌日8:30

瀬戸内海航路の貨物輸送に新しい時代を呼び込む契機となるか

名門大洋フェリーの新造船就航は、瀬戸内海航路の物流における重要度を飛躍的に高める契機になりそうだ。モーダルシフトの受け皿に加えて、慢性的なドライバー不足、さらには働き方改革関連法によって24年4月1日から「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」が適用されることで運送・物流業界に生じる「物流の2024年問題」による労務管理強化への対応など、追い風が強まるなかでの航海が始まる。

▲記念撮影スペース

「これまでも、平日には乗船をお断りせざるを得ないほど多くのトラック乗船需要があった。こうした事態に的確に対応したい」。野口社長は、瀬戸内海における貨物船のキャパシティが不十分だったことへの懸念が、新造船計画の要因の一つになったと話す。東京発着の航路には及ばないものの、関西と九州を瀬戸内海経由で結ぶ貨物輸送の需要も決して小さくない。このたびの新造船の就航で輸送容量が増えることになれば、さらなる輸送ニーズが生まれる可能性は十分にある。名門大洋フェリーが狙うのはまさにそこだ。

物流は社会インフラを維持する使命を担う。環境対応や災害時の代替手段としてのフェリー貨物輸送が見直されるなかで、こうした文脈を的確に読み取って旅客ニーズ回復とつなぎ合わせて一気にビジネス機会を獲得する。名門大洋フェリーのしたたかな戦略が、いよいよ16日に始動することとなる。(編集部・清水直樹)