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物流版M&Aの「神様」/鎌田正彦・SBSホールディングス社長【TOP VISION vol.3】

SBS鎌田社長、通販物流参入の勝機は「総合力」だ

2022年3月16日 (水)

話題消費スタイルの多様化で急速に普及が進む通信販売(通販)ビジネス。スマートフォンの普及で広がり始めたこの新しい購買行動ツールは、新型コロナウイルス感染拡大に伴う宅配ニーズの高まりで一気に定着。「新しい生活様式」の時代を担う社会基盤としてもはや不可欠な存在だ。

自宅やオフィスなどにいながら商品を注文して受け取れる通販サービス。店舗の代わりに商品を届ける役割を果たすのが「物流」だ。新しい消費スタイルの前提となる「通販物流」に本格参入するのが、総合物流企業グループのSBSホールディングスだ。

2021年12月期で連結売上高が4000億円を突破したSBSグループは、強みを持つ3PL事業に続く収益の柱として、通販物流に着目。2030年には通販物流事業で売上高1000億円という壮大な目標を掲げる。通販物流に勝算を見出す秘策は何なのか。SBSホールディングスの鎌田正彦社長に聞いた。(編集部・清水直樹)

リソース集結で満を持しての成長領域への本格参入だ

大手企業の物流子会社を次々とグループ化することで、業容拡大を推進。その結果、輸配送現場をはじめとして営業からシステム開発まで、領域を問わず幅広い人材がそろう物流業界で随一の高収益グループに成長した。こうした盤石の体制が整ったところで満を持して参入するのが、将来の成長領域の筆頭格である通販物流だ。

――このタイミングで通販物流に本格参入する理由は。

鎌田 通販が成長産業であるのは、もはや誰も否定できない事実だ。年間150兆円規模とされる国内小売業販売額のなかで、店舗から通販へのシフトがさらに加速することで、近い将来に通販が30兆円に達するとの試算がある。そのうちフルフィルメントにかかる費用は2割としても6兆円。我々はこの領域にリソースを集中投下することで、一気に通販市場における存在感を高めたい。

――とはいえ、通販商品の輸配送は大手宅配企業がしっかりと固めている。

鎌田 確かにそうだ。しかし、将来も現在と同じ体制を維持できるだろうか。私はそうは思わない。国内の通販サービスは今後、急激に拡大していくことは間違いない。既にフル稼働状態にある通販物流は、早々に稼働容量を超えてしまうだろう。その受け皿となるのが我々だ。新たな通販物流プレーヤーとして、あふれ出た通販商品の輸配送を引き受けるのがSBSグループだ。それに向けた準備も着実に進めている。

――Amazon(アマゾン)など大手通販事業者は自前の物流機能を確保している。そのハードルは高くないか。

鎌田 そんなことはない。大手通販事業者はそれぞれグループで囲い込みを強めており、ビジネスの融通が利かない。そのため、フリーな立場で通販物流ビジネスに携わりたいプレーヤーも意外に少なくないのが実情だ。こうしたプレーヤーの要望をくみ取ることも、我々が目指す通販物流ビジネスの役割の一つと考えている。今後どんどん拡大する通販物流は、とても既存の枠組みだけで対応しきれないのは明白だ。そこに我々の勝機は転がっているのだ。

「3つの強み」でSBS流の通販物流を提示、その帰結は「プラットフォーム」

今後の急激な市場拡大を見据えて、本格参入の勝機を確信するSBSグループ。とはいえ、挑戦者の立場としては、“先発”プレーヤーに対して明確な差別化を図る必要があるのも間違いない。もちろん、鎌田社長の頭の中には、既にSBS流の通販物流のイメージが明確に描かれている。

――SBSグループが打ち出す通販物流のイメージは。

鎌田 「フルフィルメント・バイ・SBS」(FBS)。これがSBSグループが提供するEC物流の姿、つまり中小・中堅企業を対象とした通販物流のプラットフォーム化だ。あらゆるプレーヤーが自由に参加し、通販物流にかかるあらゆるニーズに対応できる場所、それがFBSだ。そこには、通販商品の入出荷や保管、仕分けからあらゆる流通加工が可能なリソースが結集している。大手通販事業者の系列からはみ出して自由な通販物流ビジネスを志すプレーヤーにとっては、FBSは格好の空間になるだろう。もちろん、新規参入もしやすいよう料金はリーズナブルに設定する。

――夢のような通販物流プラットフォームだが、果たして実現できるのか。

鎌田 決して夢物語ではない。我々は既に、首都圏の数か所に合わせて25万坪(82万5000平方メートル)の土地を確保し、大規模物流センターの建設を計画している。さらに、その中で稼働する最先端ロボットの選定や実証実験も始めている。2024年1月に稼働予定の物流施設「野田瀬戸A棟」(千葉県野田市)など、EC物流専用センターの開発も強化していく。

――FBSは、SBSグループのどんな強みを反映したプラットフォームなのか。

鎌田 まずは「システム力」。通販物流の要となるWMS(倉庫管理システム)について、SBSリコーロジスティクスの「RLIW」を通販物流に特化した機能にカスタマイズして低価格で提供する。提供先とSBSが同じシステム画面を使用することで、作業の「見える化」やリアルタイムでの確認、複数拠点展開への対応力など機能の充実も図る。一つのシステムでグループ全体が利用できるWMSを実現させるというわけだ。もちろんシステムを搭載するだけでは機能しないわけで、3PL事業で培った顧客に対する最適な提案を実現できる「現場力」が2番目の強みだ。

――FBSはフルフィルメントサービスだ。SBSグループはどんなメリットを提供できるのか。

鎌田 「入荷・保管・出荷」の発送代行が通常セグメントだ。それをベースに、カスタマーサポートや撮影・採寸・ウェブサイト開設などの「ささげ業務」などの付帯サービスまで一貫して提供できるのが、総合物流企業グループである我々の強みだ。顧客ニーズに100%対応できて初めて、フルフィルメントサービスは成立するからだ。それも顧客が望むタイミングでスピーディーに提供しなければ意味がない。ここはSBSグループの総合力の腕の見せ所であり、プラットフォームを構築するうえでも欠かせない部分だ。

グループ各社の「プロ」が結集したプロジェクトが、新たな通販物流の概念を生み出していく

SBSグループの描く通販物流の世界観は、「発送業務」と「スピード」、さらに「プラスアルファの提案力」で構成される。鎌田社長は通販物流への本格参入を契機として、どんな「ありたい姿」「あるべき姿」を描くのか。

――FBSが誕生すれば、通販サービスはどう変わるのか。

鎌田 通販物流のサービス提供価格が下がり、さまざまなプレーヤーが参入する市場になっているだろう。現在と比べても通販商品の輸配送量は劇的に増加していると考えられるが、それに物流プレーヤーが対応できる体制を創出するには、こうした低料金で自由にサービスを受けられる場がなくてはならない。我々がFBSを構築することで、こうした概念を現実に提供していく環境を整える。それは国内だけにとどまらず、東南アジアなど海外にも注入できるのではないか。顧客視点の独自の提案力やサービス開発力は、まだまだ「日本品質」を訴求できると考えるからだ。

――SBSグループが独自の通販物流を創出できるパワーの源泉は何か。

鎌田 ここでM&Aの過程で結集した人材が威力を発揮するのだ。グループに仲間入りした企業には、営業やシステムなどその領域のプロフェッショナルが存在する。こうしたノウハウや頭脳は、SBSグループという傘の下で一堂に会することにより、化学反応を起こして前人未到の発想が生まれる。まさに今回の通販物流プラットフォームの構築がそれだ。グループ各社の専門知識を持った若手中心のメンバーが横断的に構成したプロジェクトを発足し、活発な議論を通して既成概念を打ち破る新ビジネスを提示していく。それがSBSグループのビジネスモデルであり、その象徴が通販物流への本格参入、さらにはプラットフォーム構築につながっていくのだ。

取材を終えて

妥協を許さない強力なリーダーシップと、周囲を包み込む優しさ。対極とも思える「動」と「静」のパワーを巧みに使い分けることで、強力な組織体を作り上げていく。その成果が、総合物流企業であるSBSグループそのものだ。

「あらゆるプレーヤーが参加できる通販物流プラットフォームを作る」。このフレーズを聞けば、遊び心の豊かな夢を語る経営トップのイメージに聞こえるかも知れない。しかし、そこには極めて冷静沈着なビジネスにおける「勝機の方程式」が存在している。その最適解を導くには、「先駆者になるための迅速な決断」「顧客ニーズに対応したスピーディーな行動」「それを実現できる投資能力」の3つのパラメーターが欠かせないという。

今回の通販物流も、一見すれば「後発」と見られる可能性もあるだろう。しかし、それは大きな誤りだ。鎌田社長にとってはまさに「先駆者となれる最適なタイミング」なのであり、その目的は決して既存の通販ビジネスの後追いではないからだ。そもそも、スタートの時点で「1000億円ビジネスに仕立てる」と明言しているのだ。そこにはもはや、「後発」などという言葉は存在しない。

鎌田社長にとって通販物流の本格参入は、物流を通して社会の持続的な発展に貢献するための手段なのだ。「一度踏み込むからには、その領域でトップにならなくてはいけない」。そこは、通販物流ももちろん例外ではない。(編集部・清水直樹)