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在宅なのに「置き配」?/ドライバー日誌第16回

2023年6月28日 (水)

話題訪問先の呼び鈴を鳴らす。「はい」「水の配送でございます」「置いといてください」。飲料水を配送する仕事を始めてから、こうした「非接触」での商品の受け渡しの場面によく遭遇する。予想以上に多いと感じている。

新型コロナウイルスの感染が広がり始めたころ、フードデリバリーをはじめとする宅配事業者は、こうした非接触での商品のやり取りを新たなサービスと位置付ける動きが顕著になった。外出自粛の動きが広がり店頭での接客が難しくなると、宅配サービスに活路を見いだした。とはいえ、他人との接触を避けたいのは配送先の自宅でも同じだ。そこで生まれたのが、在宅しながら「置き配」をする商品配送だ。

▲屋外に商品を置く置き配サービスの場合、ビニール袋での保護は欠かせない

新型コロナウイルス感染症の法律上の分類が季節性インフルエンザと同様の「5類」に引き下げられ、コロナ禍もようやく事実上の終息に向かう状況だが、この「非接触宅配サービス」はすっかり定着しているようだ。早朝や夜間の配送時にこのサービスを求める顧客が目立つことからも、様々な理由が考えられる。

「朝早くから配送員と応対したくない」「家族との夕食の機会を妨げられたくない」「家事の最中でバタバタしており、配送員を待たせるのは申し訳ない」――。ひょっとしたら本来の趣旨に従って、感染症対策として直接の応対を避けるようにしているのかもしれない。

しかしながら、必ずしもそうではない場面に直面することもある。非接触での受け取りを求める顧客に対応して、玄関先で飲料水の箱にビニール袋を巻き付けている作業中に偶然、別の配送事業者が訪れた。なんと、そこで家人が玄関扉を開けたのである。私の姿を目にして驚いたのか「ビニールは結構です。そのまま置いておいてください」と言い残して慌てて中へ消えたが、互いに何とも後味の悪い思いをしたことだろう。

この「後味の悪さ」。これが、非接触宅配サービスの最大の課題なのだと強く思う。もちろん、有効に機能すれば顧客と配送事業者の双方にメリットをもたらす取り組みなのだ。とはいえ、その便利さをはき違えると、こうしたモヤモヤした感情が残ることになる。アフターコロナの「新しい生活様式」の在り方を考える題材になるだろう。(つづく)

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